09
「マジで誰にも言いふらすなよ?」
アパートの自室の扉の前で成海に言う。
「もう、分かってるわよ」
もうこれを言うのも何十回目だから成海の返事は適当だ。
俺はそんな成海を横目にドアノブに手を掛ける。
「あれ、鍵は?」
まあ当然の疑問だな。
「空いてるはずだ」
そして扉は案の定空いていて、楓が姿を見せた。
隣から向けられる鋭い視線に一々反応しているほどの余裕は今生憎持ち合わせていない。
「おかえり」
「………ただいま」
それから楓は俺の隣にいる成海を見た。
「友達?」
「まあ、そうだな」
「そう」
そして直後成海に胸倉を掴まれた。
俺は両手を上げて降参のポーズ。
「一斗~」
怒ってる。完全に怒ってる!
「な、何だ?」
「何だ?じゃないわよ!何で女の子が家にいるのよ!一人暮らしって言ってたじゃない!」
「だから連れてきたくなかったんだよ………」
前後に揺さぶられながら俺は言う。
それに俺だって昨日の朝までは一人暮らしのつもりだったての。
「だからって………お、女の子かくまってるわけ!?」
「いや、それは違うと言うか………違わなくはないけど」
「とりあえず私に分かるようにしっかり説明してくれるかしら?」
さて、どうしたものか。
「二人とも、外は迷惑だから中に入ったら?」
楓がにこりと笑いながら言った。近所迷惑になるからだろうか。それとも面倒事を避けるためか楓の顔から妙な圧を感じた。
「お、おう」
「は、はい」
楓に言われてとりあえず俺と成海は一旦家の中に。
そして三人で小さなテーブルを囲む。
「で、どういう状況かしら?」
「えっと………」
「私は上技楓です」
俺が言葉に迷っていると楓があっさりと言った。
俺は慌てて楓の顔を見る。しかし楓にはどこにも焦った様子は伺えなかった。
それに対して成海は、
「え?う、上技?」
やっぱりそこだよな………。どうするんだ楓?と俺が再び視線を送ると、
「はい。私、一斗くんの従姉なんです」
さらりと都合のいい嘘をついた。
「い、従姉?で、でもどう見ても同い年ですよね?」
「あ、私こう見えても大学生なんですよ?」
え?マジ?
あ、嘘か。
見た目は同い年に見えるけど実際はもっと歳を取ってそうだし………。
「痛っ」
見れば楓が俺のふくらはぎをつねっていた。それもとびきりの笑顔で。
コイツ……。
「一斗、それホント?」
「ほ、本当だ………」
少しぎこちなかっただろうか。だが何とか楓の嘘に話を合わせることが出来た。
楓は俺のふくらはぎに爪を立てるのをやめた。俺はつねられた辺りをさする。
「嘘は………ついてないわよね」
「な、何でこの状況で嘘をつく必要がある?」
まあ、全部嘘だけど。
「だって頑なに家に来てほしくないって………それにやましいことしかないって」
「それは知られたら面倒だからだよ」
「た、確かに知られたら面倒にはなりそうだけど………」
「だから誰にも言うなよ?」
「わ、分かった。というか最初から従姉ならそう言いなさいよ………」
と、何とかこの場を丸く収めることに成功した。
「えっと………成海さんでいいのかな」
楓が言う。
「あ、はい。成海美香って言います」
「そう。じゃあ成海さん」
「はい」
「夕食一緒にどう?」
「は?」
「え?」
流石にその楓の提案には俺も驚いて少し腰を浮かせた。
「せっかく来たんだから、どう?」
「えっと………いえ、今日は遠慮しておきます」
「そう?」
「はい、迷惑をかけるのは申し訳ないので」
俺に対して迷惑だなんて思ったことないよな?
「何よ」
成海が俺を睨む。
「いや、何でも」
「じゃあ私帰るから」
そう言って成海は立ち上がり、俺と楓は玄関まで成海を見送る。
そして成海は靴を履きながら、
「アンタ、絶対に手出すんじゃないわよ」
「出すか、アホ」
「ならいいけど。お邪魔しましたー」
そしてようやく成海は帰っていった。
俺と楓は玄関でそれを見送った。
「何もしないの?」
「お前は黙ってろ」
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