↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/73

【閑話】 桃源祭り

「結奈さんと綿飴って似ていますね」


 葉月さんがそう零したのは、常世で年に一回行われる、桃源祭りに参加していたときのことだ。


 仕事終わりの羽織姿で、私たちは屋台を見て回っていた。

 赤い提灯が店頭にポツポツと点いていて、りんご飴やらお面やらが並んでいる。

 賑わう町の光景は、非日常的で心が弾む。


 甘いものに目がない私は、来てそうそうに綿飴を買った。

 口に入れた途端、シュワリと溶ける感覚と、口いっぱいに広がる優しい甘さが、昔から好きだった。

 そう、確かに綿飴は好きだ。

 けれど何故、私と綿飴が似ているというのだろう。


 葉月さんを見上げれば、口にするつもりなどなかったようで、動揺を隠すように頬を掻く。

「えっと……きちんと自分の考えを持っていて、芯のあるところ。それなのに物腰柔らかで何でも受け入れてくださるところ。似ていると思うのです」


 少し照れたように笑うので、私もつられて顔を赤らめた。

「でしたら葉月さんは……ラムネです」

「おや、これは予想外」

 片方の眉を器用に上げて、葉月さんは興味深そうにこちらを見やった。


「仕事熱心で真面目なのに、意外とお茶目な一面があるので。……ちょっとこじつけすぎですかね? なんか、自分で言っていてよく分からなくなりました」

 あまり良い案が浮かばなかった。

 これならいっそのこと、言わなければ良かっただろうか。


 後悔し始めたところで、葉月さんは弾かれたように笑い出した。

「なんというか、結奈さんらしいですね」

「……からかっています? 」

 悪い意味ではないと分かっているが、わざと拗ねたような口調で言ってみる。

「からかっていませんよ。むしろ褒めてます」

 笑い混じりにそういった葉月さんは、確かに少し嬉しそうだ。


「あっ」

 ふと、私は一つの屋台の前で立ち止まった。

 二つ目の綿飴屋さんの、その隣に、【ラムネ】の文字を見つけたからだ。

 偶然隣り合わせに売られているそれらに、私たちは思わず顔を見合わせた。


 明日も早朝から仕事だけれど、せめて提灯の明かりが点いているうちは、この祭りの余韻に浸っていても良いだろうか。

「たまにはこんな日も良いですね」

 私たちは顔を見合わせて笑う。

 二人の手元では、ビー玉がカランと涼し気な音を立てていた。

 ──平凡な日常の、少し特別な夜のお話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=682575671&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。