【閑話】 桃源祭り
「結奈さんと綿飴って似ていますね」
葉月さんがそう零したのは、常世で年に一回行われる、桃源祭りに参加していたときのことだ。
仕事終わりの羽織姿で、私たちは屋台を見て回っていた。
赤い提灯が店頭にポツポツと点いていて、りんご飴やらお面やらが並んでいる。
賑わう町の光景は、非日常的で心が弾む。
甘いものに目がない私は、来てそうそうに綿飴を買った。
口に入れた途端、シュワリと溶ける感覚と、口いっぱいに広がる優しい甘さが、昔から好きだった。
そう、確かに綿飴は好きだ。
けれど何故、私と綿飴が似ているというのだろう。
葉月さんを見上げれば、口にするつもりなどなかったようで、動揺を隠すように頬を掻く。
「えっと……きちんと自分の考えを持っていて、芯のあるところ。それなのに物腰柔らかで何でも受け入れてくださるところ。似ていると思うのです」
少し照れたように笑うので、私もつられて顔を赤らめた。
「でしたら葉月さんは……ラムネです」
「おや、これは予想外」
片方の眉を器用に上げて、葉月さんは興味深そうにこちらを見やった。
「仕事熱心で真面目なのに、意外とお茶目な一面があるので。……ちょっとこじつけすぎですかね? なんか、自分で言っていてよく分からなくなりました」
あまり良い案が浮かばなかった。
これならいっそのこと、言わなければ良かっただろうか。
後悔し始めたところで、葉月さんは弾かれたように笑い出した。
「なんというか、結奈さんらしいですね」
「……からかっています? 」
悪い意味ではないと分かっているが、わざと拗ねたような口調で言ってみる。
「からかっていませんよ。むしろ褒めてます」
笑い混じりにそういった葉月さんは、確かに少し嬉しそうだ。
「あっ」
ふと、私は一つの屋台の前で立ち止まった。
二つ目の綿飴屋さんの、その隣に、【ラムネ】の文字を見つけたからだ。
偶然隣り合わせに売られているそれらに、私たちは思わず顔を見合わせた。
明日も早朝から仕事だけれど、せめて提灯の明かりが点いているうちは、この祭りの余韻に浸っていても良いだろうか。
「たまにはこんな日も良いですね」
私たちは顔を見合わせて笑う。
二人の手元では、ビー玉がカランと涼し気な音を立てていた。
──平凡な日常の、少し特別な夜のお話。




