地下室にて
この数時間でわかったことだが、葉月さんはとても人の懐に入るのが上手だ。さすが狐の妖。
とはいえ、やることができた。
「はい! 」
元気よく返事をした私に、葉月さんは満足げに頷いた。
「では、参りましょうか」
手拭いで手の水気をとると、ちらりと私の方を見、そして短めの紐を一つ、飾り棚から取り出した。
葉月さんが自分の髪をその紐で結わえるのを見て、私は苦笑した。
葉月さんは胸下まで髪を伸ばしており、対する私は肩につくくらいの短さ。
さっきの視線は、髪ゴムを要する長さかどうか見極めていたのだろう。
(これじゃあ、どっちが女の子かわからないね。体格も華奢だし……本当に男なの? )
私が慇懃無礼なことを考えている間に、葉月さんは籠を担ぎ、ランプに火を灯して、客間の二つ先の襖へと向かう。
慌ててついていくと、そこが部屋ではなく階段に繋がっていることに気づいた。
おぼろげな明かりを頼りに階段を降りると、また襖があった。
慣れた手つきによって襖が開けられる。
途端、あたりに不思議な香りが広がり、私は大きく息を吸った。
(なんの匂いだろう? ツンとするような……甘いような……苦いような……)
「しばしお待ちを」
そう言って、葉月さんが真っ暗な部屋へと消える。
数秒して部屋が明るくなった。
どうやら、所々置いてあるランプに火をつけて周っていたらしい。
「地下までは神力を通してなくて」
言い訳じみた言い訳をしつつ、葉月さんが部屋に入るよう促した。
「わぁ! 」
部屋に踏み込んだ途端、一気に私のテンションが上がる。
ドクダミ、カミツレ、カノコソウ……
様々な薬草が目いっぱい広がっていたのだ。
干してあったり、瓶付けにされていたり。
畳敷きの床の上には、すり鉢などの製薬道具が置いてある。
壁に沿って置かれているこげ茶色の薬箪笥が、部屋によく溶け込んでいた。
私の反応が意外だったらしく、葉月さんが僅かに眉を上げてこちらを見ていた。
「結奈さんは薬学に興味がおありなのですか? なんだかとても嬉しそうですけれど」
そう尋ねる葉月さんに、私は何度も頷いた。
「そうなんです! 私、あっちの世界では薬学の勉強をしていて」
その言葉を聞いた葉月さんの目が、一瞬ギラリと光った。
「それでは、薬の調合などもご存知で? 病状の診断も? 」
「あぁ、違います! まだ見習いの身なんです。それに、あっちでは漢方薬より西洋薬の方が主流でしたので、薬草に特別詳しいわけでもないです」
葉月さんの目の奥に宿った光が、そっと静かに消えてゆく。
コホンと咳払いを一つし、葉月さんは籠を下した。
「そうでしたか。それは失礼しました。見ての通り、私は薬師を生業としています。薬学を学ばれている結奈さんと私が出会ったことは、もしかしたら何かの縁かもしれませんね。私、良いことを思いつきました」
名案とばかりに人差し指を立てて、葉月さんは微笑んだ。
最近、私はある事に悩んでいます。
それは、獣耳に人間の耳はついているか否か、です!
どの物語でも、獣耳を持ったキャラは上手くあやふやにしていますよね。
実際どうなっているのか、誰か教えて欲しいものです……。