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情報の収集

 それから私達は、朔矢さんの家へと向かった。

 情報をもらうためだ。

【月光】からそう離れていないところにあり、一反木綿乗り場からも近いことが有難い。


「万咲希君は朔矢さんの家に住んでいるんですか? 」

「ええ。見習い全員が住み込みで働く訳では無いのですけど、何しろ彼は仕事熱心ですからね。それにほら、朔矢のことが大好きですから……」


 遠い目をした葉月さんに、私は思わず苦笑した。

 彼の朔矢さん好きは、それほど凄まじいのだ。


 店から徒歩3分。

 私達は家の密集している地帯に到着した。

 お店の立ち並ぶ通りに比べると、閑散としていて出歩いている妖も少ない。


「こんばんは。葉月です」


 ドアをノックすれば、間を空けずに万咲希くんが出てきてくれた。

 殺気立った目をして。


「何しに来た。はっ! まさか、師匠の偵察か? ! だが、残念だったな。朔矢さんの調合技術はお前より数段上だ! 勿論俺も、すぐにお前のことなんて越えてやるんだからな!! 」


(ちょっと!? 葉月さんの調合の方が上ですけど? いや、朔矢さんが作業しているところを実際に見たわけじゃないけど!! )


 つい心の内で反論してしまうのは、やはり師匠愛が私の中でも芽生え始めているのだろう。


 ほぼノンブレスで言い切った万咲希君の後ろに、のそりと影が差した。

 ぬっと出てきた拳が思い切り彼の頭部に直撃する。


「こら、客人にそんな態度で出迎えるやつがあるか。失礼極まりないぞ」


 彼の尊崇する師匠、朔矢さんだ。

 緩く編み込まれた黄金の髪が、なんとも雅な印象を与えている。


「よく来たな、葉月。それから結奈も。男所帯故につましい家だが、入ってくれ」


 堂々とした佇まいは、確かに崇めたくなる何かがある。

 万咲希君の気持ちも少しはわかる気がする。


 家の中は家主の言う通り簡素な感じだが、どこか温かみのある家だった。

 昔ながらの囲炉裏を囲みながら、私達の話合は始まった。


「月夜町はどうだ? 」

「町人はかなり警戒しているけれど、今のところ被害は無いよ。そちらは? 」

「こちらもだ。噂だけが飛び交っていて、必要以上に皆疲弊している」


 二人は気難しい顔をして向き合っている。


 見習いの私は正直手持ち無沙汰だ。

 やることと言えば、話を聞きながらお茶を啜ること。


(……同じ見習いだけど、万咲希君は忙しそうだなぁ。主に葉月さんを睨むことに)


 朔矢さんに砕けた話し方をする葉月さんが、許せないのだろう。

 目が血走っていて、眼光がギラギラと光っている。

 朔矢さんの御前でなければ、ぎゅっと引き結んだその口から罵詈雑言が飛び出していることだろう。


 そうしているうちに、話はどんどん進んでいった。


「何か分かったことは? 」

「大した情報は無い。だが少しだけ、分かったことがある。……有料のものと無料のもの。お前はどちらを選ぶ? 」


 この選択肢は、情報屋を副業として営む朔矢さんの保険だ。

 自らを危険にさらして取ってきた情報は、上手く取り扱わないと身を滅ぼしてしまう。

 要するに、相応の対価を支払う必要があるのだ。


「両方頼む」


 葉月さんのその言葉に軽く頷いて、朔矢さんは続けた。


「犯人は2人組の薬師を狙う。これが無償で提示できる内容だ。そして、これからが 有料の情報だ」


 朔矢さんは前のめりの体勢になった。

 意図的に声量も抑えている。


「天中を中心として、渦を描くように事件が起きている。そこから考えるに、月夜町に犯人が出没するのは恐らく1ヶ月後の夜間だ。そのときは決して外に出るな」


 私はゴクリと唾を飲んだ。


(1ヶ月後……)


「それから、敵の数はかなりいることを覚えていて欲しい。ゾロゾロと活動しているのではなく、日替わりで犯行に及ぶ妖が変わっている。そのため、妖の種族や顔からは、犯人の見分けはつかん。だが、一つ気づいたことがある」


 更に声を小さくする朔矢さんに、私と葉月さんも自然と前傾姿勢をとった。


「犯人は皆同様に、眼鏡をかけている。それも金属製のチャームが付いたものだ」


 私は目を瞬かせ、首を傾げた。


「眼鏡の、しかもチャーム付きだなんて、桃源郷ではかなり目立つじゃありませんか。何故犯人はそんな物を付けているんでしょう」


 思わず疑問を口にすると、今まで黙っていた万咲希くんが「なっ!? 」と声を上げた。


「貴様、まさか師匠の情報を疑う気か! 無礼者め!! 」

「万咲希」


 彼の反応には慣れているのだろう。

 朔矢さんが宥めつつ、私に話を続けるよう促した。


「情報を疑っているわけではありません。お気を悪くされたのならすみません。でも、私はその眼鏡が何か意味のあるものだと感じたんです」


 すると、静かに話を聞いていた葉月さんが「たしかに」と呟いた。


「相手も大事にはしたくないはずだ。目立つ格好など普通はしない。もしかすると、身につけなくてはいけない理由があるのかもしれない。例えば、その眼鏡が特殊なものであるとかね」

「ふむ……それは考える余地がありそうだな」


 顎に手を当てて考え込んだ朔矢さんが、「調べておこう」と言ったところで、私たちの話し合いは終了した。


 葉月さんがお礼とともに情報料を払い、いとまを告げる。


「遅くに失礼したね。研究会を開くときはぜひ呼んでほしい」

「ああ、わかった。気をつけて帰ってくれ」


 テキパキと帰り支度を済ます葉月さんに習って、私も手短に挨拶をする。


 外に出ると、空はもう星が瞬いていた。

万咲希くんの師匠愛は海より広かった!

因みに、以前口数が少なかったのは、敵陣(葉月さんの家)に居たからだそうです。

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