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現状維持

 ゆずきさん達が帰って行ったあと、私と葉月さんは夕飯を食べながら今後のことについて話していた。


「もし仮に黄泉の妖の狙いが結奈さんだったとしたら、まず疑問に思うのは、何故結奈さんが薬師と繋がっていることが露呈したか、ですね」

「確かに。それにもしバレていたとしたら、普通は真っ先に私を捕まえに来ますよね。こんな回りくどいことしていないで」


 お味噌汁を飲みながら、私は思考をめぐらせていく。

 向かいに座る葉月さんも深く考え込んでいることが分かる。

 どこを見るでもなく、じっと何かを探しているように彷徨さまよう瞳。


「……目? 」


 刹那、脳に雷に撃たれたような衝撃が走った。


(そうだった! なんで今まで気づかなかったんだろう。あったじゃない! 正体がバレそうになったこと!! )


 ガバッと顔を上げると、葉月さんと目が合った。

 ──考えていることは一緒だ。


「町で会った野妖」


 ぴたりと2人の声が重なる。

 天中に行った時に私がぶつかった鬼のことだ。

 私が霊狐では無いことに気づいていた。

 葉月さんの担いだ薬箱と、首から提げていた薬師の免許証。

 薬師に関わりがあると一目でわかったはず。

 私の中で確信めいたものへと変わっていく。


 しかし、葉月さんはまた思考の海へと沈んでしまった。

 食べる手も止まっている。

 しばらくして、葉月さんが呻くように言った。


「その野妖は、確実に結奈さんが霊狐ではないと気づいたでしょう。神力も妖力も持たない者は人間しかいない。彼は恐らく結奈さんを人間だと判断したはずです。ただ、そうだとしたらおかしいのです」

「おかしい? 」


 私は首を傾げた。

 人間だと判断されて、薬師である葉月さんと繋がりのあることがバレてしまった。

 だから薬師だけが襲われていて……


「……あっ! 」


 顔を上げた私に葉月さんは頷いた。

「そう。先程結奈さんが仰っていたように、あまりにもやり口が回りくどいのです。同じ羽織を着ていた時点で、私達が師弟関係であることは明白。天中に薬局を開いている薬師は片手で数えられる程しかいません。それなのに、薬師達は無作為に襲われています」


 葉月さんは大抵の薬師と顔見知りだと言っていた。

 今の言葉から察するに、朔矢さんの持っていた巻物には、天中で商売していた薬師以外にも被害が出ているということだ。


「……それって、必ずしもあの野妖が犯人だとは言えないということですか? 」

「ええ」


 一瞬、私の頭に双六の【振り出しに戻る】という文字が思い浮かんだ。


「とりあえず今は様子見としか言えませんね。アルミラージの一族が駆り出されてしまって、結奈さんにお留守番をして頂くことも出来ませんし」


 その言葉に私は少しほっとした。

 この話を聞いてから、いつか言われるのではと思っていたからだ。

 留守番していて欲しい、と。

 こんなこと言ったら不謹慎かもしれないが、アルミラージの皆さんが忙しくてよかった。

 私からしたら、家で一人恐怖に脅えているよりも、葉月さんの傍に居る方が安心する。


 そんな私の気持ちを知ってか知らでか、葉月さんは微笑んだ。


「町には警備員がいますし、いざとなれば私の術があります。大丈夫。結奈さんのことは私が守りますから」


 ハッキリとそう口にする葉月さん。

 初めて会った時に華奢に見えたその背中が、今ではとても大きく感じる。


 だが、頼りすぎてはいけない。

 それでは前と変わらないのだから。


「ありがとうございます。でも私、ずっと葉月さんにおんぶにだっこ状態は嫌です。だから、私に出来ることがあったら教えてください! 」

「結奈さん……貴方はもう十分して下さっているではありませんか。家事だけでなく、薬師見習いとしてお手伝いしていただいています。おんぶにだっこだなんてありえません」


 ムッとした顔で反論されてしまったが、私はやはり納得できなかった。

 こうして住む場所と食べる物と働く場所を与えてもらって、その上とても親切にしてくれて。


 人間なんて、妖にとっては関わりたくない存在ではないのだろうか。

 黄泉の妖に転送されてしまった人間には、もれなく厄介事が付いて来る。

 そんな人間の私を、葉月さんは助けてくれた。


 ふと、私の中にある疑問が生まれた。


(なんで葉月さんは私を助けてくれたんだろう)


 今の今まで考えたことすらなかった。

 情けないことに、自分のことで手一杯だったのだ。

 だけど、これは最も考えるべきことではないだろうか。

 人間を匿うなんて命懸けだ。

 実際にこうして狙われている。

 助けてくれて、更に守るとまで言ってくれた。

 その理由はなんだろう。


「結奈さん? 」


 じっと見つめていたところを気づかれてしまった。

 不思議そうにこちらを見る葉月さん。

 私は視線をあちこちに飛ばしながら黙考した。


 その間、僅かに1秒足らず。


(これは、聞いていいことかな? それともだめ? どっちだろう。……よし、それとなく探ってみよう! )


「あっ、いえ。ただ、人間である私を助けてくれる葉月さんこそ、優しい妖だなぁって思って」


 上手く真意を隠せただろうか。

 ポイントは【人間】という単語だ。

 そこに違和感を覚えてくれたら、きっと葉月さんの方から話してくれる。

 ただし、話せる内容であれば。


 葉月さんは一瞬きょとんとしたが、すぐに何かを察したような顔つきになる。

 そして、ふっと何かを思い出すように目を細めた。


「……昔、私は人間に助けていただいたことがあるのです。だからこれは、ある意味恩返しのようなもの。優しくなんてありませんよ」


 私は「ああ」と心の中で呟いた。


(これは聞いちゃダメな話だ)


 昨夜の葉月さんの暗い表情が思い浮かぶ。

 だから私は目一杯の笑顔を向けることにした。


「それでも事実、私は助けて貰いました。私はどんな理由であっても、助けてくれた葉月さんには感謝しています! 」


 葉月さんは諦めたように頬を緩ませた。


「そういうところですよ、結奈さん」

 と呟きながら。

ミステリー小説を書いていた名残で、お二人が少々探偵のようになりました^^;

言葉による駆け引きもお手の物です。

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