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贈り物

 陽が傾いて来た頃、葉月さんは帰ってきた。

 大きな紙袋の包みを持って。

 護衛代を受け取ったタウフィークさんは既に、「またどうぞー」といって去っていった。


「変わりありませんでした? 」

「はい。大丈夫でした」

 その言葉に安堵の表情を浮かべたあと、葉月さんは茶目っ気たっぷりの目で、

「もう少し護衛代を減らしておくべきでしたかね。どうせ居間でゴロゴロしていたのでしょう? 」

 ……よくお分かりで。

「あはは……」

 なんて答えればいいのか分からず苦笑していると、葉月さんは抱えていた荷物を下ろして、私を手招きした。


「開けてみてください」

「え? あ、はい」

 なんだろうと思いつつ開けてみる。

 中を覗き込んだあと、私はバッと葉月さんを返り見た。

「これって……」

「昨日言った、必要なものです。助手の仕事代だと思って、遠慮なく使ってください」

「ありがとうございます! 」


【必要なもの】とは、私の服と靴だった。

 淡藤色(あわふじいろ)の生地に薄桃色の蝶が舞っている着物と、葉月さんとお揃いの羽織。

 この羽織は仕事着のようなものなのだろう。

 背中に小さな柏の紋章がある。

「外出用の着物は妖蚕ようさんを使っており、様々な妖が着られるよう、形を自分で変えてくれます。ですから、着付けを自らする必要がありません」

 自分で着付けが出来ない私にとって、それはとても有難い。


 早速自室で袖を通す。

 すると、着物と帯がうねり始めた。

「わっ! 」

 驚きに目を見開く私など気にもせず(というより意思がないのだろう)、あっという間に自分の体のサイズに合うよう調節された。

 すごい。

「大丈夫そうですか? 」

 襖越しに尋ねてくる声に気づき、私は襖をあけて葉月さんにお披露目した。

「完璧です! 本当にありがとうございます」

「良かった。あとは……やはり外に出るなら化けなければですね」


 化ける……?

 化粧のことかな? と思い立ったが、私は化粧道具など持っていない。

 それに元々私はほとんどスッピンで生活していたため、上手くできる自信が無い。

 返答に困っている横で、葉月さんが何やら袖から取り出した。

「それは? 」

 首を傾げる私。

 葉月さんは長方形の紙を人差し指と中指で挟めて微笑んだ。

「これは術を使うときの御札です。私、元は術使いでしたから」


 私は、突然でてきた葉月さんの過去に繋がる話題にゴクリと唾を飲み込む。

  注意深く葉月さんを観察してみるが、大して負の感情を抱いているようには見えなかった。

 そんな私の様子に気づくことなどなく、葉月さんは目を閉じた。

 何が起こるのだろうか。


(というか、ちょっと待って。葉月さん何に術をかけるつもりなの? 今ここに術をかけられそうな標的って、私しか居なくない? ! あれ、なんか心做しか風が吹いてきたような……)


 足元から徐々に上へと這い上がる風。

 明らかに私は術の的になっている。

 春風のような柔らかな風が少し心地よい。


(心地は良いんだけど、何が始まるの!? )


 パニックに陥っている間に、とうとう風は私を覆い隠した。

 そして……

 視界が開けた途端、葉月さんの満足そうな顔が目に入った。

「これで町へと出かけられますよ」


(いや、なにが!? )


 つい心の中でツッコミを入れていると、不意に頭と腰辺りに違和感を感じた。

(なにか……ある? )

 恐る恐る頭に手を伸ばす。


 モフッ


「ふぁ! 」

 手に当たった感触に驚く。

「えぇぇ!? 葉月さん、私どうなっているんですか? 」

 素っ頓狂な声をあげつつ腰あたりを見下ろして、また驚いて。

「変化の術です。驚きました? 」

 イタズラが成功したときの子供のような顔をして、葉月さんが笑った。

「変化? この白い尻尾と耳がですか? 」

「はい。やはり人間の姿のまま歩いては良くないでしょうから。よくお似合いですよ! 」


 そんなことが出来るのかと感心しつつ、私は部屋の隅に置いてある全身鏡へと目を向けた。

 短い白髪に可愛らしい耳と尻尾。

 瞳も金色で、随分と様変わりしている。

 聴力もかなり上がっているようで、外の草木が擦れる音すら聞こえてくる。

「凄いですね……。でもこれ、どうしたら元に戻るんですか? 」

 憧れのモフモフに喜びを感じてはいるが、正直いうと、めちゃくちゃ重い。

 人体の造りにはあっていないのだろう。

 頭は重くて肩が凝りそうだし、尻尾は力を入れていないと垂れてしまう。

 生まれつきである葉月さんには、きっと分からない感覚だろうけれど。


「意図的に術を解くか、私が意識を失えば元に戻りますよ」

 そう言いつつ、葉月さんは御札をちぎった。

 たちまち頭と腰が軽くなる。

「術を解くというのは、今みたいに紙をちぎることですか? 」

 紙が誤って切れてしまったらどうするのか、という疑問を乗せて尋ねてみる。

 すると、葉月さんは正確にその質問の意味を理解したらしい。

「大丈夫。神力の働きのおかげで、御札は非常に強固になります。水につけても、燃やすことですら簡単には出来ません」

 神力抜け目ないな。

 私は心の中で拍手した。

狐姿って、意外と大変そうです。

それでも一度は体験してみたいですけどね笑


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