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赤い髪のリリス  作者: LLX
39/53

39、グレタガーラの呪い

ケガした為の流血表現有り

「・・駄目、駄目・・見ちゃ駄目・・」


涙でグシャグシャのアイの顔に、ヨーコの不安が増大する。


「アイ!どいて!」


アイを引きずるようにして、ドアに群がり始めた館の人間を押しのけヨーコが室内を覗き込む。

しかし不安はそのままに、蝋燭が沢山持ち込まれて明るく照らされた室内は、凄惨その物だった。

三人の男が血を流し、その横で身体半分を真っ赤に染めたリリスが、赤い髪を燃え上がらせて死にものぐるいで呪文を詠唱していた。

その横ではただ泣きじゃくるキアンを放って、ザレルが必死の面もちで何か叫びながら、リリスの赤に染まった肩を押さえている。


「うそ・・」


ヨーコには、あまりにも自分の世界とかけ離れたその光景が、現実だと認識するのに不思議と時間がかかった。

しかし、これが現実!と認識したとたんに、声を失い気が遠くなりそうになる。

ガクガクと震える膝を踏ん張り、もう一度死体を見ないようにして見回した。

キアンは・・兵士に囲まれ、泣きじゃくってはいるが怪我はなさそうだ。


「ヨーコ!もう部屋に帰ろうよ!」


後ろでアイが、泣きながら叫ぶ。


「でも!リリスは?」


ヨーコの目に、血に染まったリリスが映った。


「アイッ!こっち来い!」


後ろにいた吉井がヨーコにしがみつくアイを引き剥がし、しっかと胸に抱きしめる。


「リリス!」


ヨーコが叫んで、兵士が止めるのも聞かず室内へ飛び込んだ。

彼女はその時まで、リリスの血は返り血だと思っていたのだ。


「もういい!止めろ!リリス!リリス!」


しかしザレルの指の間から流れ出す血、そして必死の形相のザレルの顔。

次の瞬間、彼女には分かったのだ。


「リリス!駄目!あんた死んじゃう!駄目よ!」


ヨーコがリリスに飛びつく。

それでも呪文を止めないリリスに、ヨーコが必死で抱きつくとそのヨーコごとザレルが後ろから抱きしめた。


「頼む!もう止めてくれ!死んでしまう!

お前が死んでしまう!モルドは戦士だ!戦士なのだ・・」


「イエ・・サルド・・・キーン・・・ラ・・ド・クー・・・・」


リリスの声が、小さく掠れて消える。

血の気を失って、ガクガクと震えながら彼は、意識を失う寸前消え入りそうな声で呟いた。


「・・・ザレル・・・私は・・一人だ・・から・・いいん・・だ・・誰・・も・・・・」


悲しむ人などいない・・




 「今じゃ!リリスの意識が消えた!」



地下で水鏡を見ていたグレタが嬌声を上げる。

シャランと腕輪を鳴らし、両手を高々と上げた。


「水よ!汝リリスを巡るその美しく赤き水よ!

今その巡りを止めて、お前を操る憎き胸の鼓動を止めよ!

シードルクス・レン・キーン!

我が名を持って、その身は呪いに汚れよ!」



ビクンッ!


「あっ!あっ!」


リリスの身体がザレルとヨーコの手の中で大きく痙攣する。


「リリス!リリス!しっかりして!」


「うっ!ぐっ!あ、あっ!うっ!」


胸を掴み、大きくのけぞらせてもがく身体。


「死ぬな!死ぬな!」


「リリス!」


祈るようにリリスを抱く二人の手が震える。

その時、リリスの指にある銀の指輪が一瞬、部屋を満たすほどの光りを放ち、そして弾け散った。



パーンッ!



「ギャアッ!」


グレタの身体に稲妻が走り、彼女の身体が奇妙にねじ曲げながらその場に倒れる。


「ヒイーッ!ヒイーッ!


バッ  バカな!!


の、呪い返しだと!!呪い返しなどと!ヒイーッ!セ、セフィーリアめ!」


髪を振り乱し、必死の形相で胸をかきむしり、口惜しそうに叫んでいるその時。


「おいっ!この魔女ババア!」


ハッと振り向くと、そこに河原が飛び込んでいた。


「お前!何用じゃ!」


「やっかいババア!お前なんか・・!」


人の噂は、嫌でも耳にはいる。

アイ達の話を聞く内、それが何であるか、徐々に理解できたのだ。

お前なら御館様を止める事も出来たろうに!

怒りの河原が階段を駆け下り、手近に置いてあった杖を取って、それを振り回すとグレタに襲いかかる。

それは精神的に苦しんだ事への復讐も込めた一撃だった。


「ひええええ!!だっ!誰か!」


グレタは頭を庇って、かがみ込むので精一杯だ。耳にヒュンと杖が風を切る音が迫った。


「えいっ!」


バカーンッ!ガシャッ!ガシャ!ガラン!



「こんな物有るからお前は水鏡で余計なことばかりする!こんな物!こんな物!こんな物!」


ガシャン!ガシャン!ガシャン!バン!ガチャン!


「ひいっ!あ、あ、私の!私の、カメが・・」


指の間から粉々に壊されてゆくカメを呆然と見て、グレタの体中から力が抜けてゆく。

これ程大きいカメは、この世界では滅多に手に入らない。貴重品なのだ。

何度焼かせてもヒビが入り、水鏡をするに必要な完璧さ、黄金律などほど遠い。


「あ、あ、あああああ・・・」


「フンッ!お前なんかこれがなくちゃ、ただのババアだ!ざまーみろ!」


へなへなと、グレタが崩れ落ち、呪い返しと大切な魔術道具を失ったショックで髪が真っ白に、バサバサと抜け落ちて行く。

ドッと肩を落として千年は老け込んだグレタを残し、河原は清々した面もちで、みんなのいる部屋を目指して走り去っていった。


魔導師という物には決まり事があって、なかでも人への呪いは絶対にやってはいけない禁忌になります。

グレタガーラは、シールーンに罰を受けることを覚悟で禁忌を破ってしまいました。

水あるところにシールーン有り。

後悔は後で悔いること

それではまた

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