美人局を見て笑って
古今東西津々浦々、老若男女、なんてことは言わない。
摩訶不思議百鬼夜行だってお代さえ頂ければ、大歓迎だ。
老い先短い方は、冥土の土産話に、人生まだまだこれからって方は、質草に入れたって見る価値のあるかもしれないものだ。
何せこの機会逃せば、出会えることのない まさに千載一遇、一期一会って奴に違いない。
そんな陽気な見世物小屋のおっさんの呼び声と言うものは、今の時代にはもう聞いたこともないのだけど、どこかに根付いている。
昔馴染みのものは、手を変え品を変え、ひっそりと、あるいは堂々とその存在を主張している。
本来ならば、ひっそりとしそうな犯罪だって堂々と目の前で行われている。
大観衆の目の前だと言うのに僕以外の誰一人というには少々言い過ぎにしても、疑問を持つことは稀なのだろう。
そこまで進んでいる。
悲しい現実だ。
だから伝えねばならない。
だから売れなかったんだと仲間内に言われようとも伝えねばならない。
願わくば二度と日の目など見る事などないようにと思う。
その犯罪に巻き込まれたものとして節に思う。
僕は『陽気陰気』とSNSでも検索すれば、今ならばバラエティ番組の影響で、多少ワードになっているお笑いコンビの片割れだ。
それだけでピンとくるものもいるだろう。
その犯罪とは、美人局である。
テレビ局だけにとかいう返しを期待しているわけでも、冗談でもない。
対人関係というものが苦手で、余り仲良い人のいない僕が、趣味が一緒という事で、仕事もなんどか重ねて、そこそこ仲良くなったなぁというグラビアアイドル。
最近、会話系のSNSでよくお誘いがあり、お酒が苦手でもせっかくだしと誘いを受け始めた。
お酒の席以外でも遊びに行くようになる頃には、少しずつ意識したのかもしれない。
その頃相方もグラビアアイドルの娘との仲を進展を促す様に応援していた。
その娘のお願いで、お酒の席で恥ずかしい台詞を言わされたり、遊びに行った時も恥ずかしい行動をとらされたりした。
そして、夜の海辺で告白されて有頂天から落とされた。
暗い穴の中、?のマークは浮かんだ。
そして光が当たれば、先輩芸人とグラビアアイドル、相方が笑っていた。
テレビ局のスタッフだって笑っていた。
レンズの向こうの視聴者だって笑うのだろう。
泣いていたのは僕だけだった。
先輩が番組名を言われた後も、グラビアアイドルが、笑いを含ませながら謝罪しても、相方が何か反応しろよとか声を張りかけても声など出なかった。
呆然とした様子をただ取られ、相方が穴から引きずり出した後も、面白い事など何一つ出来ない。
いや涙は出た。
みっともなく泣いて泣いていた。
「もし、ここに、包丁が、あるならお前らをつき刺して、自首することも辞さないが残念ながら今はない、もしこれがオンエアされたなら謝罪する事になるだろう」
「マジトーンで皆ドン引きじゃねぇか」
相方のツッコミが入る。
色恋沙汰は面白かろうよ、モテない僕が、仕組まれた罠にかかる姿は、間抜けで滑稽に見えただろうよ。
芸人が笑えるものを笑うことに、罪悪感を覚えさせるのは御法度だとわかる。
それでも、それでもだと思う。
グラビアアイドルを使って、僕を騙し、視聴率という価値を不当に得ている。
その姿は美人局だと伝えたい。
笑いの継ぎ足されたテロップを眺めながら包丁を研ぎ、動機の書かれた日記をカバンに入れる。
さぁさお立会い。
今から目にするのは哀れで間抜けな道化。
美女に騙され、友に騙され、世間から笑われた男。
笑わす事を忘れた男。
復讐と言うには小さくて不器用と言えは聞こえが良すぎる。
正義も語れず、ただただ伝えきれなかった男だ。
なれど、なれど、笑ってはいけないよ。
笑う門には福来たると言うけれど、この男を笑って刺されたものもいる。
おっかなびっくり眼をくるりと開けて見ていって、お代を置いて見ていって、晒したて囃したて世間は勝手に泣き笑い、見世物小屋な主は高笑いってね。