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第一話


 「がぁっ!!」


 国立天凜高等学校の校舎内にて、ある男子生徒の悲鳴が響いた。


 「大丈夫か瑛太!」


 瑛太と呼ばれた男子生徒は、頭から血を流す怪我を負っている。


 「ってて…俺の心配はするな、蒼悟。…次はお前だ。…俺達の望みは、お前にかかってるんだ。」

 

 瑛太が指さす方向には、手、腕、足、膝、背、それぞれに怪我を負って、満身創痍の男子生徒たちがいる。


 「あぁ…皆の為にも…やってみせる。」


 蒼悟は覚悟を決めたように、そう呟き一歩、二歩と、大きく足を開いて走り出す。

 望んだ結果へと至れるように、皆の願いを叶えるために。 


 「うおおおおおおお!!!!!届けぇえええ!!!」

 「「「「「いっけぇええええええ!!!!」」」」」


 最大限にまで加速されたスピードを生かし切った踏み切りから始まるその跳躍は、一瞬ともいえる僅かな時間で終わりを告げた――


 「いぃっよっっしゃあああああ!!!!!!」


 ――蒼悟の咆哮によって。悲願を成し遂げた蒼悟には、周りの男子生徒からの祝福が降り注いだ。

 

 「すげぇ!すげぇよやっぱ!」「お前ってこういう時輝くよなぁ!」「ナァイス蒼悟ぉ!!」

 「…届いた…届きやがった…7段目とか…おかしいだろ。」


 と、そこにとある教師が通りかかる。


 「さっきからお前ら階段で何やってんだ!通行の邪魔だろうが!というかなんで頭から血が流れる怪我してんだ!あとから教育委員会で言われんのこっちなんだぞ!?」


 後半はもうほぼ私情でしかないが説教された男子生徒たちは、余りの剣幕に素直に謝罪した。


 「「「「「「すんませんっしたー!!!」」」」」」

 

 彼らが一体何をやっていたかと問われれば、階段を何段飛ばせるかというしょうもないことである。

 行間休みにたまたま盛り上がって、そのままの流れで蒼悟含め男子生徒数人が、5段飛ばしに挑戦していた。 

 

 よく言えば向上心の塊。悪く言えばやる気の方向性を間違えた連中。  


 「…はぁ。ったく、お前らは魔法だけでこの高校に受かってるんだからな?その辺をよく考えて行動してくれ……。」

 

 教師も、何度目になるか分からないその言葉を男子生徒たちに掛けて去って行った。



 国立天凜高校は、魔法使い育成を掲げて、2023年に創立された。

 少子高齢化が進んでいるため、国外からの入学も認めている。


 生徒の募集に関しては、「魔法に秀でた才能を持つ者であれば、どのような学力でも入学可」とされている。

 

 蒼悟がいるクラスは、九教科の合計評定が20以下の者達が集まったクラスである。

 通称は20(トゥエンティ)

 蒼悟は頑張らずとも評定32は取れる程には頭がいいのだが、何故か手を抜き現在に至っている。


 そして当然、頭が悪い生徒がいるということは、頭が良い生徒もいる。

 

 それが、通称Sクラス。

 九教科合計評定45の者、つまりオール5の生徒しか入学できないクラスである。



 「…全く。こんな知能の低い猿どもと一緒に生活するなど…言葉にもできない不快感に襲われますわ。…本当に、アメリカは第三次世界大戦で余計なことをしてくれましたね。忌まわしい…。」


 Sクラスの女子生徒がたまたま通りかかり、階段の上から蒼悟達を横目にそう言う。


 しかし、蒼悟達は入学してから一か月も経っていないが、嫌味や皮肉には慣れてしまったようで特になんとも思っていなかったりする。

 というかそもそも、中学生の時に言われ慣れている筈である。


 「瑛太、いい加減その頭からの血どうにかしたらどうだ?」

 「おま、っふふ。血止めようと思って止められたら医者いらないだろ。」

 「そりゃそうだわな。とっとと保健室行ってこい。」

 「おう、言われなくても。」


 蒼悟と瑛太は高校に入学してから初めて会ったが、すっかり打ち解けており、悪口を吐かれた後でもこのように明るく会話している。 


 「まぁ次、魔法の授業だし。むしろサボれてラッキーだわ。」

 「…俺ミスっときゃよかったかも。」

 

 天凜高校では、他の高校とは一線を画した魔法教育が行われている。

 国内で魔法教育を行っている高校は天凜高校以外には存在しておらず、魔法を発動、及び訓練をするには、警察や自衛隊の訓練場などの公共施設にお世話にならなければいけない。 


 背景事情としては、安易に魔法を発動できるようにしてしまうと、テロ行為並びに大規模な人的被害を生み出してしまう可能性があるということを考慮したうえで、2023年に施行された法律があるからである。


 「まぁまぁ、気ぃ落とすなって。もしかすっと先生美人かもしんねぇだろ?」

 「入学式の時に美人な先生なんていなかったぞ?」

 「おい蒼梧うし――」


 「悪かったな美人じゃなくて…!」

  

 瑛太の指摘も間に合わず、蒼梧は階段の上から降りてきた女教師に、アイアンクローをされた。 

 女教師の力は強く、アイアンクローされた蒼梧は階段で下の段ということも相まって、足が浮いていた。

 

 「あだだだっだだ!いだいいだいいだいいだい!!!」

 「そうかそうか私はそんなに偉大か。でもびじんじゃないんだろ?」

 「びじんです!先生は美人です!すいませんっしたー!」」

 「よし許そう。」


 このやり取りを見て、瑛太が一言。


 「鬼だ……。」

  

 この直後、瑛太の傷口が物理的に抉られたのは、言うまでも無い。


次:やる気湧いたら

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