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部隊壊滅

 魔法少女の携行する武器には、メインの槍に加えて、短剣などの小型の近接武器もある。逆に言えば、それ以上のものは携行できない。あまりたくさん持っていると、運動性能を低下させ、むしろ生存性を落としかねないし、何より使う機会がない。

 ただ、これは任務が通常どおり遂行されると想定した場合の話である。つまり隊列を組んで一斉に突撃を仕掛け、その後速やかに離脱するという、理論どおりの戦闘を行う限りにおいては、槍のみを持っていればよい。至近距離での格闘戦はほとんど想定されていない。

 しかし実戦ではそうはいかない。ひとたび乱戦になれば、もう一度隊列を組み直すことは至難の業である。そこで彼女たちは槍に代わる武器を腰に下げて出撃するようになった。事実、一度目の突撃の後に、再び隊列を整えての再突撃が行われることはほとんどない。

 そして最も重要な事実。乱戦になれば彼女らに勝ち目はない。

「くっ・・・・・・、こいつら速い!」

 邪魔な槍と盾は捨て、武器を短剣に持ち替え機動力を最大限に生かしたとしても、敵・魔獣の方が速度において勝っている。真後ろから狙っても逃げられるし、背後から襲われれば逃げ切れない。

「真っ直ぐ逃げようとするな!」

 上空で叫ぶコノエの声は、彼女らには届かない。

 黄金の弾をうち尽くした魔獣は、むしろ積極的に噛みついてくるようになる。

 1人目が魔獣に食いつかれた。悲鳴が上がる。足の先に噛みついた魔獣は、彼女の体を徐々に蝕んでいく。意識ははっきりしたまま、金色に輝く口の中へ、徐々に飲み込まれていく。同化作用により、皮膚が、肉が、骨が自分でなくなってゆく。それが痛みなのかすらわからないまま、自分が消えてゆく恐怖を絶望とともに受け入れるしかない。

 先に金色飛翔体を頭にでもくらって、一瞬で意識を失う方がましにさえ思える。

 コノエはリュッカの行った方を見た。増援はまだこない。

 2人目、3人目が同時に食われた。魔獣の口からはみ出していた腕が、海へと落ちていく。

 自分を含め残り5人。魔獣は依然5体。今まで状況をを把握するため上空待機していたコノエが、ついに動いた。

 盾を捨て、槍を逆手に持ち替える。

 眼下で暴れる魔獣のうち、今にも仲間のつま先に噛みつきそうな奴を捕捉。

 重力に従い急降下。魔獣の進行方向に対して、垂直に迫る。

 頭部上面の赤いコアめがけて、槍を投擲。着弾を確認するよりも早く、魔獣の脇をすり抜け下へ。

 無論、手を放れることで魔力の層を維持できなくなった槍は、魔獣に対してあまり効果を発揮しない。せいぜい衝撃を与え、注意を逸らす程度。

 だが、それで十分。

 不意の急所への刺激で、魔獣の速度が落ち、軌道が変わる。少なくとも狙われていた少女は助かる。

 海面近くで反転したコノエは、すかさず腰に下げていた副武装、ハンマーを手に取る。人の前腕ほどの大きさで、片方の頭が鋭利に作られている。

 大きく旋回しながら、魔獣がコノエを狙ってくる。

 コノエは逃げようとはしない。海面近くに留まり、じっと魔獣を見据える。逃げようとしたところで、速度の差は埋めようがない。

 勝算はある。コノエは冷静にこれまでの経験を振り返る。こちらが直立姿勢で、敵が正面からおそってくる場合、魔獣は噛みつくために寸前で左へ約90度のロールをする。――そこを右手のハンマーで狙い打つ。

 左手を前にかざす。盾はもうないが、片腕くらい失っても構わない。生きて帰れるかも分からない状況だ。

 右手でハンマーを振りかざす。目前に迫る魔獣の陰。歯を食いしばる。

 接触はほんの一瞬。考える暇はない。

 左手に激痛。

 振り下ろされる鉄槌。

 衝撃を受け、体が後ろへ弾き飛ばされる。

 視界の端に映るのは、赤く煌めくコアの欠片。命を失い。海へと墜ちていく魔獣の骸。

 衝突で一時的に飛行能力が発揮できない状態で、コノエも海面へ叩きつけられた。

 コノエは考える。左腕はもうダメだろう。肋骨も数本やられたか、胸がやけに痛む。

 空が揺らいで見える。コノエは自分の体が海に沈もうとしていることに、ようやく気づいた。

 水を飲まなかったのは幸いか。それともここで溺れ死んだ方が、よっぽど幸せだろうか。霞む意識の中でコノエは思う。生きて還ったとして、一体誰が私を待っている?

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