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no title.

作者: 桃芳亜沙華
掲載日:2017/02/19

 君は僕の前で笑ってみせた。

 真っ直ぐと僕を見て、何の曇りのない笑顔で。


 僕にはなぜ君が笑っているのか、解らなかった。



 君は毎日、僕の前に来ると手を振って笑うんだ。

 ただ、僕はじっと見つめ返すだけ。

 それなのに、君は満足したように笑って帰ってしまう。



 気が付けば、君は僕に毎日挨拶をしてくれたね。

 そんな事をするのは君だけだよ。

 だから、僕は嬉しくなってしまう。


 僕はじっと君の目を見つめ返す。

 また、笑った。




 雨の日も、君は必ず僕に笑いかけてくれたね。

 いや、いいんだ。傘は君が使わなきゃ。


 雪の日も、君は必ず僕に笑いかけてくれたね。

 うん、冷たくないよ。それより君の手が心配だ。




 ある時、僕は気付いてしまったんだ。

 毎日、君の笑顔を心待ちにしている事に。



 その事実に気が付いた、次の日。

 君は初めて、その顔を曇らせて僕の元へ来た。


 それを見て、僕は、何も出来なかった。

 ただ、見ている事しか出来なかった。


 君が何かを言っていた。



 そうだね。

 僕の元へ来るのは、もう辞めた方がいい。

 それが、君のためだよ。



 それから、君は僕のところに来ることはなくなった。


 雨の日も。

 僕はただ、この場でじっと待つ。



 風の日も。

 吹き抜ける風に攫われる木々を見つめ、待ち続ける。



 雪の日も。

 僕を覆う白い雪をどうすることもできず、待ち続けた。





 待ち続けた。


 ずっと、待ち続けた。



 待ち続け、た……?


 そっか。

 僕は、君が来るのを楽しみにしていたんだ。



 僕はずっとここにいるもの。


 いつからだろう。

 あの子を、待つようになったのは。


 いつからだろう。

 僕に向けてくれる笑顔に惹かれたのは。



 あぁ、どうか届かせないでこの心を。

 僕は、知りたくなかったこんな気持ちを。





 僕は君に、心を奪われてしまった。


 これはきっと、イレギュラーな恋。


















 あれから何年経っただろう。


 僕が恋をして、君を待ち続けて何年の月日が流れたのだろう。



 楽しそうに話を聞かせてくれた君はもう居ない。

 君のように笑ってくれる人ももう居ない。



 けれどね、一つだけ分かった事があるんだ。

 僕は、この学校と一緒に取り壊される事が決まったみたい。


 届かない恋心なんて、伝えられない恋心なんて、僕は持ってしまったから、居なくなるのが辛いな。




 君は、もう忘れてしまったかな?


 あの笑顔を。



 もう一度だけ……。

































 いってきます。

 そう、言って家を出たその子は、あの日の君によく似ていた。

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