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3

数日後の金曜日。


学校から帰り、制服を脱ぎ捨て、二階にある自室のベッドで横たわりながら、ぼんやりと本を読んでいた。


日は暮れてきたものの、外ではまだ蝉が、その短い余生を、自らの鳴き声で埋め尽くすために全力を懸けていた。


時折、開けた窓から風が通り抜けて、カーテンを揺らした。珍しく涼しい日だった。


本を隅に置き、少し目を閉じる。


穏やかな夕暮れ。


大きく膨れ上がる雲。


風に揺られて、さらさらと音を立てる木の葉。


どこか遠くで、子供のはしゃぐ声が聞こえる。


気が付くと僕は、巨大な湖の真ん中に、仰向けに浮かんでいた。


周囲は森に囲まれていて、遠くの方で蝉や、鳥の鳴き声が聞こえた。


水も空気も澄み切っていて、耳をすませば、あらゆる生き物の息吹を感じられる気がした。


優しく滴る水の音。


太陽の光が反射して、様々な角度で交錯する。


楽園の様だな、ここは。


そう思ったのも束の間、湖に浮かぶ僕の身体は、何か強い力に流され始めた。


不審に思い、流れ行く先に目を向けると、湖の中央に大きな穴が空いている。滝の様な音を立て、湖の水は全てその穴に吸い込まれていく。


真っ暗で底の知れない穴。その怒涛の渦に、一度飲み込まれたら、どこに行き着くのだろうか。混乱と恐怖で体が縮み上がった。


我に返り、必死に反対方向へと水を掻くが、僕の身体も少しずつ吸い込まれていく。


藻掻けば藻掻く程、手足に力が入らなくなる。


もう駄目だ。


その時、携帯電話の着信音がした。


目を覚まし、夢だと気付き、深く息を吸い込んだ。心臓はまだ強く音を立てていた。


携帯電話に手を伸ばし、時間をみる。一時間ほど眠ってしまったらしい。着信したのは、佐藤からのメールだった。


『これから辰子山に行ってみないか?』

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