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しとしとと雨が降る朝のホームルーム。クラスの担任が、冷静を装ってはいたが、あからさまに青白い顔で、佐藤の失踪を告げた。
僕らとの約束の二時間も前、彼はどこかへ出て行き、それから家に帰っていないと佐藤の親から、学校に電話があったようだ。警察にも既に届けているようである。この所、不審な言動は無かったか、思い詰めた様子は無かったか、どんな些細な事でもいい、心当たりがある者は伝えて欲しい。先生はそう言ってクラスを見回す。
クラス中がどよめいた。すすり泣きだす女子もいた。なんの翳りも無いような男の、突然の失踪はそれだけ僕らにショックを与えた。
とりあえず、通常通りに今日の授業は進行する様だが、とてもそんな雰囲気ではなかった。
僕は佐藤の携帯電話に掛けてみるが、電波が届かない所にいるか、電源が入っていないらしい。コールすらしない。
日吉が不安気な顔で僕に話しかけてきた。
「佐藤君から連絡とか無かったの?」
「うん、メールをしたけど返ってきてない。電話も掛けてみたけど、繋がらなかった。」
「もしかして佐藤君、一人で辰子山に行ったんじゃないかな…。」
白川は涙目になって言う。
その可能性が高い。けれど、あの大雨の中、あの暗い山道を、一体彼はどんな心境で進んだのだろう。