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その週は、日吉の言う通り、毎日晴れ続きであったが、金曜に雲行きが怪しくなり始め、土曜の夕方から遂に雨が降りだした。かと思ったが、これが予想以上の豪雨になり、とてもじゃないが外に出られる様子ではなかった。
僕は、机の上の課題から顔を上げ、肘をついて、カーテンもまだ閉めていない窓の外を見る。強く打ち付ける雨が、外で起こるすべての情報を遮断している。
僕の周りの全てのものが、四角い部屋の中から、外を静かに見つめているようだ。部屋の壁に掛けてある時計の秒針だけが、唯一前進する非情な機械のように感じた。
大きく深呼吸をして、再び課題に取り組む。こういった静かな時間が好きだった。雨の音と、秒針の進む音、そしてノートに文字を書き込む音。全てがシステマチックに重なっているように感じ、とても深く集中することができた。
これは、人に話しても理解してもらえないことなのだが、集中している時、僕の頭の片隅には、いつもある景色が浮かんでいた。
群青色に染まる空。石畳の敷地に、小さな社がぽつんと立っている。ただそれだけの風景。
子供の頃の記憶なのか、はたまた何かの映画で観た景色なのか、定かでは無いが、この場所が頭の片隅にあるな、と感じた時、どんなことでも捗った。
集中しているのに、他の事を考えている、というのは矛盾している。けれどもこれが僕にとっての集中なのだ。
張りつめた静寂を、メールの着信音が打ち破った。
ふっと我に返る。そこに残るのは「あぁ、集中していたんだな」という気持ちだけ。
時計を見ると、そろそろ準備をしなければいけない時間ではあったが、外の様子からすると、難しいだろう。
『今日はさすがに無理そうだね。』
白川からのメールだった。
『そうだな。一応佐藤に聞いてみるよ。』
『まさか今日、辰子山には行かないよな?』
佐藤にメールを送る。
しかし、いくら待っても彼からの返事が来ることは無かった。