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「あの銅像、夜になると動くのよ」
祖父の墓参りを終え、家のソファに座り、一息ついた頃に母が突然言い出した。
なんの事だろうか。
言葉を頼りに記憶を辿ると、ふと思いつく事があった。
地元有数の霊園であり、神社と寺が併設されている辰子山。
目的の墓に向かうまでの道のりは坂道で、入り口から段々と傾斜して行く道をしばらく進むと、左手に拓けた場所があった。
そこにはまるで隕石が墜落したかのように、半球状の窪みができていた。丁度今日、辰子山へ向かう為に乗ったバスが、一台入るほどの広さと深さだろう。勿論、危険なので、腰ほどの高さに鉄柵が敷設されていた。
その窪みの中心には、僕が一飲みにされてしまいそうな程の、大きな魚の銅像が寂しげに置いてあるのだった。
「都市伝説でしょ?」
漫画をパラパラと捲りながら僕は答えた。
「そんなところかしら。よくお婆ちゃんに言われたわ。悪さばっかりしてると、水神様に食べてもらうぞって。」
母は笑いながら言う。
水神様と言うのか、あの像は。
そんな事を思いながら、夜の闇に動くあの像を想像すると、少し背筋が寒くなった。