職場恋愛
うららかな春の日の午後、いきなり、妻に別れを切り出された。
「実は、他に好きな人が出来たの」
「ムムムッ……」
少なくとも私は狼狽した様子は見せなかったと思う。
「いったいどの男なんだ?」
「いやだわ、知っていたの」
「薄々は感じていた……」
確かに私には予感があった。そして私にも、言わねばならないことがあったのだ。
「君が正直に打ち明けてくれたんだから、私もやはり白状しなければいけないだろうね。実は私も浮気をしている」
妻もさすがだ。ピクリとも表情を変えない。冷静に前を向いたまま尋ねた。
「あの三人の中の誰?」
「なんだ、君も気づいていたのか。お互い、隠しことは苦手だね」
「それほど驚くことではないでしょう、狭い職場ですもの」
確かにそれはそうだ。私は小さく肩をすくめて言った。
「それじゃあ、気持ちよく別れよう」
「よかったわ、考えが一致して。ではここには一緒にいられないわ。どちらがここを出ていくの? 」
「当然、君だろう。私はなんと言ってもここの主なんだから」
「それはおかしいわ。私は出ていくつもりはないわよ。世間の人はどっちが本当の主と思うでしょうか。みんなの意見を聞きましょう」
妻はそう言いながら私をグッと睨んだ。確かに妻の言い分は一理ある。
「仕方ない、では我々二人のうち、どちらが出ていくべきだろうか」
私は部下たちに問い掛けた。
皆は即座に彼女を支持した。
「私の勝ちだわ。それじゃあ、あなたにはここを降りてもらいましょうか」
そう宣言すると、お雛様はお内裏様を蹴落として、五人囃しの一人を自分の隣りに座らせた。