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#3 ファミリー

 男に連れられて知らないビルの中へと案内された。

部屋のドアを開けて私に入るように促すと、呼んでくるのでここで待っていてほしいと言われた。ゆっくりと閉まるドアから部屋の中へと視線を移す。


 窓から差し込む夕日が眩しくて目を細める。

真ん中にぽつりとソファだけが置いてある。

ソファに少年が座っていた。見覚えがある姿をたっぷり数秒見つめる。少年が微笑んだ。

「こんにちは」

「こんにちは」


 私が座ってるソファと、彼が座っているソファ。机もカーテンさえも他の物は何もない。室内には私達しかいない。防犯カメラとドア。

小さな窓から外を見た。ビルの5階にある一室。前に来た建物と似ている。

私は息を吸い、彼を見据えた。


「上園小乃果です」

 前回、あの場にいたのだから私の名前は聞いているはずだ。だけど、彼の名前を知るために私は言った。彼は僅かに目を瞠ったが直ぐに落ち着いた声を出した。

吾妻あづま 信弥しんやだ」


「吾妻さんですか……」

 顔から想像できる名字と随分かけ離れている。私の感想を知ってか知らずか、彼は自嘲的な笑みを浮かべていた。


「若櫻木グループさんは今度はどんな用件ですか?」

「違うよ。いま君が居るのは赤のファミリー」

 赤のファミリー、聞きなれない名称だ。でも、前に一度聞いた。

「若櫻木グループ。別名、青のファミリーはこの場にはいない」

「貴方がいるじゃないですか」

 それに、若櫻木さんの名前を出されたから私はここに来たのに。

「若櫻木のボスもここに来るよ。でも、ここは赤のファミリー。そして、オレは赤のファミリーに属している」

 ほら確認しろ、と言わんばかりに右手首を見せられた。

つるつると光沢のある白いリングのデジタル時計がついている。腕時計はどこか近未来を感じさせた。

手首をくるりと回転させる。内側の手首に映える白いリング。リングには赤いマークが刻まれていた。

「オレが赤のファミリーに属している印。この腕時計型の端末はふたつのファミリー全員が持っている。

青のファミリーに属していたら、青の印になる。オレの場合はちょっと特殊で青のファミリーとして動いていることもあるけどね」


 この前、白衣の少女――彩賀ちゃんが見せてくれた場面が頭の中でちらつく。

「じゃあ、真っ白のままで印がない場合はどこにも属していない、ということですか?」

「正解」

 吾妻さんはにこにこと微笑んでいる。

 嫌なことに気付いてしまった。頭の中で線が結ばれていく。若櫻木さんに「赤のファミリーを知っているか?」と言われた意味がようやく理解できた。


 私が最初に会った怪我の男は赤の印がついていた。


 青が赤を追っている? 青のファミリーと赤のファミリーの抗争――というのは、しっくりこない。そもそも私はいま赤のファミリーにいる。ということは、


 ふ、と彼の口から吐息が零れた。

「これと同じもの見たことあるんじゃない? もうひとつ見てたものがあれば嬉しいんだけど」

 

 私は僅かに眉を寄せた。

「前回でお話は終わったはずです。どうして私に話すんですか」

「……男は車で逃げた。あの怪我だし仲間と逃げたと思うのが普通だよね。車以外に怪しいものはなかったけれど、君がいた。だから君を若櫻木のボスに会わせた。君は関係ないと分かったけれど、周辺の防犯カメラを調べて気になったことがあるんだよね」


 ガチャ。

部屋のドアが開き一人の男性が入ってきた。体格はがっしりしていて黒服を着崩して、大きな歩幅で真っ直ぐ私の前に来ると手を差し出した。

 炎のような瞳の男性だ。

 意図が分からず、たっぷり十秒位見つめていたと思う。


「あぁ、そうだ。赤のボスこと、檜内ひのない まことさんが話があるんだって」

 吾妻さんの気の抜けた声が耳に届く。

 そういうのは、もっとはやく言ってください。

「反応が遅れてすいません。上園小乃果です」

 さっ、と立ち上がり手を出すと、握手された。

 私の正面の席に檜内さんが座り、その横にずれて座っている吾妻さんがにこにこと笑っている。

 悪戯っ子の顔だ。先程までの、どこまでが本当のことか分からない。


「檜内さん、私は誘拐されたんですか?」


 檜内さんの眉間にしわが寄った。吾妻さんをじろりと見る。

「お前、手荒な真似したのか」

「やだなー。してないですよ。そもそもオレの意見は採用されなかったですし」

「で、どうやって連れてきた」

「一緒に来ない? って声かけたらしいです。オレは遠くから見てたので会話は聞き取れてないです」

 見てたのか。黒服に声をかけられる、という人生二度目の経験を見られてたのか。


「まぁ、いい。本題に入る。上園」

「はい」

 檜内さんに呼ばれると背筋が伸びる。話し出す前に、吾妻さんの言葉が挟まれた。


「ボス、ストップ。姫ちゃんって呼びましょうよ」

「呼ばなくていいです」

 間髪いれず言えば、吾妻さんが不満げな声を漏らす。

「せっかく本人の前で姫呼びができるのに」

「どうして姫なんですか」

「探す目標の名前は付けたほうが連絡しやすいでしょ」

「探す、って誰ですか」

「君。上園小乃果ちゃん。さずがに一般人の名前をべらべら話すのもあれだからコードネームつけたんだ。それが姫」


「……頭が痛くなってきました」

 自慢げに話す姿を見ると、吾妻さん発案なんだと分かる。分かるけど理由になってない。「頭痛薬いる?」と言う言葉をスルーして、発言を考え直した。


「私は探されていたのですか?」

「うん。それと、声を掛けるタイミングをはかって後をつけてた」

 あの視線はこれか。

「ストーカーまがいのことはやめてください」

「え」

 吾妻さんは、ぱちくりと瞬きをした。


「私のこと三日間も、つけてたじゃないですか」

 一番気がかりだったことを確認するために口にする。

 今日だけじゃない。彼らと関わってからずっと視線は感じていた。


「え?」

 大きい瞳が私を見て、口がぽかんと開いている。

「え……?」

 予想外の反応に不安を覚える。


「三日間って、月、火、水? 姫ちゃんをつけてたのは今日だけだよ」

「冗談だと言ってください。吾妻さんがストーカーなんでしょ」

「事実を捏造しないでくれる? そんなに怖いんだったら若櫻木のボスに言っとこうか」

「言ってどうするんですか。自意識過剰女で終わりですよ」

「そんなことないと思うけど」

「とにかく、この話題は一旦保留しましょう。こわいので」

「こわいんだ」

 怖いですよ。ストーカーと彼らが関係あってもなくても怖いものは怖いです。関係あった場合、一般人の私が解決できるとは限らない。最悪のシナリオ。


「檜内さん、本題をどうぞ」

 私達が会話している間、ヒーローの変身シーンを待ってくれる悪役のように檜内さんは黙っていた。案外いい人なのかもしれない。


「あぁ。この男を知ってるな」

 うわぁ。デジャブ。

 携帯端末の画像を見せられた。

若櫻木グループに見せられた画像と似ている。決定的に違うことは男の顔が見えていたことだった。


「知ってるというか、見たことはありますよ」

「もうひとり仲間がいたことは知っているか?」


 知っている。

と、言うことは簡単だ。私が答えたことで彼等の問題が解決したとしても、私の問題は解決しない。

もっと適切な言葉を考えないと――

「その前に、質問させてください。怪我の男がしていた同じ時計を、吾妻さんも他の方もつけています。貴方たちは彼の仲間なんですか」

「いや、仲間ではない。確かに、赤のファミリーと青のファミリーで使用している端末だが、盗まれたものだ」

「端末?」

「時計型の白いリングのことだ。定期的にメンテナンスもしている。先日、修理に出したものが複数盗まれている。外部からどこかのファミリーが関わっていると思うんだが……中々、掴めなくてな。そこで上園に聞きたい」

 赤い瞳が私を見る。

「彼以外の仲間を見ていないか」


 濁りのない瞳だ。若櫻木さんとは、また違うタイプに思える。

後ろを振り返らずに前に進んでいく。私が一般人であることに躊躇いはない。手掛かりがあれば、それをひとつも逃したくはないのだろう。

「見てますよ」


「本当か?!」

 身を乗り出し、勢いあまって両肩をガシリと掴まれた。ぐいっと顔が近付き距離が近付く。迫力ある顔だ。


「お前に頼みがある」

 両肩掴んで言う台詞じゃないですけどね。

「ちょっと、姫を乱暴に扱わないでくださいよ」

 吾妻さんのよく分からない助けが入ったところでガッ、とドアが壊れそうな音を立てて開いた。


「……」

「……」

「……」

 私達はドアの方を向いて固まった。

私の肩を掴む檜内さん、何故か私を後ろから抱きしめる吾妻さん、間に挟まれサンドイッチな私。

「……、姫から離れろ」

 そして貴方も姫呼びですか、若櫻木さん。

2.11修正、サブタイトル追加

2.16修正


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