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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
真実の皇国編

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93話 雷神の咆哮(3)

 気付けば、聖女リアーネの周囲には無数の魔方陣が展開されていた。

 燦々と輝く太陽のように、煌く球体が浮かび上がる。

 どれほどの熱量を秘めているのだろうか。

 煌々と輝く熱球は、先ほどの熱線よりも膨大な魔力を感じる。


 レーガンは神父ルタに視線を向ける。

 心臓を熱線に貫かれ、彼は即死だった。

 悔しさに歯を軋らせ、レーガンは聖女リアーネに相対する。


「テメェが聖女リアーネか」

「そうよ。私こそ、聖アクロ帝国の聖女、リアーネ・ベーゼ・オルクス」


 妖しげな光を放つ瞳。

 その瞳にレーガンは寒気を感じた。

 全てを見通されるかのような錯覚。

 目の前の女は、自分が届く相手ではない。


 実力があるためか、リアーネの恐ろしさを理解してしまう。

 ラクサーシャに匹敵する天涯の気配。

 全力で戦ったとして、数秒と抑えられる気がしなかった。


 何より、レーガンは既に魔力が枯渇していた。

 フランツとの激戦により、既に戦いを継続できる状態にない。

 退こうにも、背を貫かれて終わりだろう。


 そんなレーガンの焦りさえ、聖女にとっては悦を感じるらしい。

 己の身を抱いて恍惚とした表情を浮かべる姿は、どこか淫靡さを感じさせる。

 神々しい純白の法衣を纏っているというのに、その姿は酷く禍々しい。


「まったく、酷い事をしてくれたものね。神託の儀式は、この私が現世に留まる手段だというのに」

「しらねぇっての。オレは、妹を助けに来ただけだ」

「貴方の事情なんて知らないわ。さあ、そこの巫女を渡しなさい」


 リアーネに視線を向けられ、ミリアは恐ろしさのあまり失禁してしまう。

 蛇に睨まれた蛙のように、ただ怯えることしか出来ない。

 今度こそ、レーガンが死ぬ。

 彼女の目には、残酷なほど鮮明に未来が見えていた。


 だが、レーガンは退かない。

 元より全てを投げ出す覚悟で助けに来たのだ。

 魔力が枯渇しようと、恐怖で体が震えようと。

 たとえ命を落としたとしても、妹を差し出すような真似は出来ない。


「へぇ、そう……」


 リアーネの目が細められる。

 不機嫌そうに、しかし、どこか楽しげに。

 瞬間、熱球から熱線が打ち出された。

 熱線はレーガンの膝を打ち抜く。


「ぐッ……」


 だが、倒れない。

 体の重心を反対側の脚に預け、レーガンはリアーネを睨みつける。

 何があろうと心は折れない。

 フランツを怯えさせるほどの気迫は、リアーネにはただの玩具だった。


 リアーネが手を突き出すと、次々に熱線が打ち出されていく。

 腕に、脚に、次々と熱線に貫かれていく。

 厭らしい事に、その全てが急所を避けている。

 体中を焦がされていく苦痛。

 だというのに、レーガンは倒れなかった。


 レーガンは荒く息を吐き出す。

 同時に、喉奥から何かがこみ上げてきた。

 吐き出してみれば、鮮やかな色をした血が聖地を赤く染めた。


「そろそろ限界でしょう? 妹を差し出せば、命だけは助けてもいいわよ」


 悪魔の囁きだった。

 死の間際にいる人間にとって、それはあまりにも甘美な取り引き。

 だが、レーガンが頷くことは無かった。


 頷いたのは、ミリアだ。


「……皇女様。私がそちらへ行きます。だから、お兄ちゃんを殺さないでください」


 諦めにも似た表情だった。

 これ以上足掻いてもどうにもならない。

 覆りようが無かった。


 だが、レーガンがそれを許すはずもなかった。

 声を荒げ、妹を説得する。


「何言ってんだッ! んなこと、絶対に許さねぇぞ」

「でも、私……これ以上、お兄ちゃんが傷つくところを見たくない」


 大粒の涙を零す妹の姿に、レーガンは改めて自分の体を見下ろす。

 立っていられることが不思議なほどに体中が酷い有様だった。

 焼け爛れた肌。

 傷跡からは血が滝のように流れ出していた。


 だが、レーガンは頷かない。

 ミリアの頭を少し乱暴な手つきで撫でて、犬歯を剥き出しに笑う。


「安心しろって。オレは、そう簡単には負けねぇ」

「でも!」

「オレは、戦鬼レーガン・カルロスチノ。お前の兄だぜ?」


 レーガンはおどける様に言ってみせる。

 泣き続けるミリアを背に庇い、レーガンは改めてリアーネに相対した。

 リアーネの表情は相変わらず歪んでいた。


「あっはははは! 無様ねぇ、惨めねぇ。これから貴方を殺せるかと思うと、ゾクゾクしちゃうわ」


 頭上に熱球を翳し上げる。

 ただでさえ強大な魔法が、更に大きさを増していく。

 その威力は計り知れない。


「この器だと、この程度が限界ね」


 どこか不満そうな口調で呟くリアーネ。

 だが、完成した魔法は、レーガンがこれまでに見てきた魔法の中で最も強力だった。


「私は塵芥も残さない――終焉の落日ハイル・フェーブス


 太陽が視界を埋め尽くす。

 レーガンが死を覚悟した刹那――太陽が消し飛んだ。


 遅れて、二人目の悪魔が壇上に降り立つ。


「すまん。遅くなったようだ」


 仲間の惨状に、怒りを隠す事をしない。

 強烈な殺気を向けられ、リアーネの表情が険しくなった。

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