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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
真実の皇国編

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87話 仲間であること

 シュトルセランは即死だった。

 本人は何が起きたのかさえ知る由も無いだろう。

 それほどまでに、ベルの裏切りは予想外のものだった。


 エルシアが落ち着きを取り戻したのは夜だった。

 しばらく泣き喚いていたエルシアだったが、ふと、自分がセレスに抱き締められていることに気付く。

 顔を上げれば、自分と同じく悲しげな表情があった。


 何も悲しいのは自分だけではない。

 帝国が憎いのは自分だけではない。

 唐突に訪れた仲間の死を嘆いているのはセレスだって同じだ。

 自分ばかり子どものように泣いてはいられない。


「もう、大丈夫。ありがとう……」


 エルシアは涙を拭い、セレスから離れた。

 そして、倒れているシュトルセランに視線を向ける。


 彼は陽気な老人だった。

 魔術に長けた賢者と称されるも、実に暖かい人間だった。

 人間に対して良い印象を抱いていないエルシアさえ心を開ける相手だった。

 その彼が、もう動くことは無い。


 横たわるシュトルセランを見れば、今にも起き上がりそうな気がした。

 いつもの彼のように笑ってくれないだろうか。

 そんな淡い期待を抱いてしまうのは、まだ彼の死を受け止め切れていないということ。

 現実を見ようとよく見れば、その頭から血が流れている事に気付く。


 エルシアは深呼吸をする。

 これまでの道程で何回も死と遭遇してきた。

 時には躊躇無く死体を漁ったりもした。

 しかし、身近な人間の死は慣れないものだった。


 シュトルセランの身に纏う黒いローブ。

 特殊な術式が幾つも施された一級品の大魔法具アーティファクト

 そっと取ると、エルシアはそれを羽織った。


 そして、地面に転がる杖。

 賢者の愛用した、これまた特殊な術式を施された大魔法具アーティファクト

 それを空間魔法で収納すると、エルシアは立ち上がる。


「行きましょう」

「エルシア殿。もう、いいのか?」

「さっき大丈夫といったでしょう? あたしは平気よ」


 それが強がりであることはセレスにも分かった。

 しかし、その意思を尊重する。


「コウガ殿。レーガンの位置はいずこか」

「移動を開始しているようです。急げば半刻とかからずに会えるかと」


 コウガが合図をすると、先ほどの影の獣がやってきた。

 どうやらエルシアたちが悲しみに暮れている間、周囲の見張りをしていたらしい。

 三人が背に乗ると、夜の森を一気に駆け抜ける。


 そして半刻後、木に凭れ掛かって眠る男の姿が見えた。

 その巨躯と象徴的な巨大な戦斧を見れば、誰であるかは一目瞭然だった。


「レーガン」


 セレスの声に、レーガンはゆっくりと顔を上げる。

 そして、セレスの顔を見て驚いたように目を見開いた。


「なんで、セレスがここにいるんだ?」

「仲間だからだ」


 ぴしゃりと言うセレスに、レーガンは申し訳なさそうに頭を下げる。

 どうやらセレスは機嫌が悪いようで、レーガンは迂闊な事は言えないなと注意する。


「さて、レーガン。なぜ神託の儀式を潰そうとしているのか、聞かせてほしい」

「それを話すと、長くなるぜ」

「構わない。だが、儀式まで時間は無い。移動しながら聞かせてもらおう」


 夜の森を歩きながら、レーガンの過去についてを聞く。

 戦争孤児であったこと。

 神父ルタに拾われてアドゥーティス教の信仰者となったこと。

 神託の儀式を目にして、そのおぞましさを知ったこと。

 そして、妹が神託の儀式に臨もうとしていること。


 全てを聞き終えたセレスは、レーガン大きく息を吐いた。

 心なしか、その表情は安堵しているように見えた。


「……私は、レーガンが悪いことを仕出かすのではと、不安で仕方なかった」

「それは、悪かった」

「気にするな。杞憂だと分かった以上、どうでもいいことだ」


 セレスはレーガンに微笑む。

 仲間の本心が聞けて嬉しかった。

 月の光に照らされ、その姿は芸術的な美しさがあった。


 顔を赤くするレーガンに気付くことも無く、セレスはコウガに視線を向ける。


「それで、コウガ殿。レーガンの言うことは真か。神託の儀式は、本当に正しいものなのだろうか?」

「彼の言う通りですね。皇国は遥か昔から、聖女リアーネに乗っ取られている可能性があります」

「聖女リアーネ……ガーデン教がなぜ皇国に? 件の不死者と何か関わりがあるのか」

「そこまでは。しかし、神託の儀式が危険なものであることには変わりありません」


 コウガがそこまで言うと、その横に女性が降り立った。

 彼と同じく黒髪黒目の女性。

 大陸ではまず見かけることは無いであろう女性は、クロウの配下であるマヤ・アイセンベルだった。


 コウガとマヤ。

 見知らぬ二人を見て不思議そうに首を傾げるレーガンを他所に、話は進んで行く。


「我々も以前から目を付けてはいましたが、如何せん、皇国の保有戦力は高すぎる。止めるには戦力が不足しています」

「なら、あたしたちが加わったらどうかしら?」

「……若干分が悪いですが、巫女の救出だけならば不可能ではないかと」

「なら、決まりね」


 あっさりと話が決まり、レーガンはきょろきょろと皆の顔を見回す。

 命の危険があるというのに、なぜそこまでしてくれるのか。

 その表情が面白かったのか、セレスがふっと笑う。


「言ったはずだ、私たちは仲間だと。協力を惜しむことはない」


 セレスの言葉を聞いて、レーガンは深々と頭を下げた。

 旅を共にしてきた仲間。

 なぜ最初から皆を頼らなかったのか、自分の判断を悔やんだ。


「それに、今回はガーデン教も絡んでいるみたいだし。どっちにしても潰す必要があるわ」


 エルシアはローブの裾をきゅっと握る。

 犠牲を忘れてはいけない。

 だが、立ち止まってもいけない。


 レーガンは拳を力強く握り締め、天に向けて突き出す。


「神託の儀式なんてぶっ潰してやる。ミリアは奴らなんかには渡さねぇ!」


 その咆哮は、皇国の都にまで届いただろうか。

 神託の儀式は目前に迫っていた。

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