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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
真実の皇国編

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85話 霊峰を行く

 窓の外を物憂げに見つめるミリア。

 神託の儀式を前にして、彼女の心は揺れていた。

 思い出すのはレーガンの言葉。


『ミリア。神託の儀式はダメだ。ありゃ、お前が思ってるような神聖なモンじゃねぇ』


 当時のミリアはレーガンを突き放した。

 必死に説得しようとする兄を疎ましく思っていた。

 アドゥーティス教の信仰者として、巫女に選ばれるのは最大の誉れである。


 皇国を統べる皇女となるのだ。

 アドゥーティスの神々から授かった未来視の力を駆使して世界を良い方向へ導く。

 それが皇女の役目といわれていた。


 ミリアは神父ルタから近年の大陸の事情を聞いていたせいか、余計に使命感があった。

 帝国の暴走を止めるには、自分が皇女になって未来視を使う必要がある。

 巫女が扱える未来視は皇女のものよりも数段劣るため、なおさら皇女の地位が必要だった。


 今代の皇女アズハラは皇女としては非常に優れていた。

 的確な未来視と類稀なる頭脳。

 その二つが合わさることにより、皇国はこれまで以上に繁栄している。


 しかし、皇女アズハラは帝国への対処をしていなかった。

 このままでは大陸がどうなるかも分からないというのに、自国の繁栄ばかりで他国に目を向けない。

 皇国自体、昔から閉鎖的な気質はあった。

 しかし、アズハラの代ほど他国との関わりを絶ったことはなかった。


 ミリアはそれが疑問だった。

 皇女に与えられる未来視は、ミリアが見ている未来よりも鮮明に移っているはずである。

 巫女であるミリアでさえ皇国の危険を察知しているというのに、アズハラが知らないはずはなかった。


 神託の儀式は近い。

 様々な不安を抱えつつ、ミリアは窓の外を眺めていた。




 霊峰ヴァイス・ラヴィーネベルク。

 常人では立ち入ることさえ不可能。

 魔力の吹き荒れる過酷な環境の中、ラクサーシャとクロウは頂上へと歩いていく。


 ラクサーシャは霊峰の魔力濃度に抗するだけの魔力を内包していた。

 山頂付近になれば吹雪に体温を奪われるだろう。

 だが、動けないほどではない。

 この程度で倒れるほど、ラクサーシャはやわではなかった。


 だが、クロウはそうもいかない。

 魔力をほとんど持たない彼では、生身で霊峰を登ることは不可能。

 霊峰の魔力に当てられ、数分と経たずに動けなくなってしまう。


 クロウの体を黒炎が覆っていた。

 銀世界の中で、彼だけが熱を放っていた。

 あらゆる物を喰らう黒炎は、吹き荒れる魔力さえ燃やし尽くす。

 吹雪とて、身に触れる前に解けてしまうことだろう。


 二人は霊峰を登るだけの資格を持っていた。

 強者のみが存在を許される領域。

 神話級の魔物が跋扈する世界。

 魔境にさえ匹敵する極寒の地獄がそこにあった。


 幾度となく魔物との戦闘があった。

 およそ人の手に負えるとは思えないほどの化け物。

 それらを前にしても、ラクサーシャの強さを思い知るだけだった。


 ラクサーシャは魔力もほとんど込めず、一刀の下に魔物を切り伏せる。


「流石は旦那だな。霊峰の化け物さえ、魔力をほとんど使わないなんてな」

「如何に強かろうと所詮は魔物。理性を持つ相手よりは遥かに殺り易いだろう」

「そう言えるところがすごいんだけどな……」


 クロウは目の前の男の理不尽さを改めて思い知る。

 ラクサーシャ・オル・リィンスレイ将軍。

 人間として、彼の強さは完成されていた。


 霊峰は山頂に近付くにつれて魔力濃度も飛躍的に高まっていく。

 濃い魔力は極彩色の霧となって可視化する。

 吹雪と合わさり幻想的な光景が広がるが、二人にそれを楽しむほどの余裕はない。


 ここまで来ると、もはや視覚は意味を成していなかった。

 腕を伸ばせば手が見えなくなるほど。

 だというのに、ラクサーシャは襲い来る魔物を切り捨てていく。


「なあ、旦那。この視界の悪さで、なんで敵の場所が分かるんだ?」

「長年の勘だ。僅かな殺気を感じ取れば、魔物の位置くらいは把握できる」


 ラクサーシャは容易く言い放つが、これが出来る者はそういない。

 どれだけの研鑽を積めばその領域へ至れるのか。

 クロウには想像の付かない領域だった。


 それからしばらく歩くと、ふと、ラクサーシャが顔を上げる。

 その視線の先には霊峰の山頂――神殿があった。

 彼の第六感が強者の気配を感じ取る。


「クロウ。件の不死者は、もう神殿に着いたようだ」

「早いな。やっぱり、身体能力が高い不死者なのか」


 感心したように言うも、事態はそんな能天気に構えられるものではない。

 クロウが視線を向けると、ラクサーシャは頷いた。

 その体に魔力を循環させ、凄まじい速さで神殿へと駆けて行く。


 その先に感じる気配。

 生命を感じさせぬ、しかし、力強い気配。

 不死者との再戦が間近に迫っていた。

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