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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
真実の皇国編

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82話 二人の強者

 人目を憚るように、黒いローブの男が裏道を進む。

 その巨躯では表通りを歩くにはどうにも目立ってしまう。

 それ故に、彼は裏道を通らざるを得ない。


 皇国は治安が極めて良いため、裏道であろうとならず者と遭遇することはない。

 あくまで人通りが少ないという意味での裏道だ。

 それならば、男のような巨漢でも身を隠しながら移動ができるだろう。


 男が目指すのは一つの建物だ。

 そこにいる少女のために男は動いていた。

 しかし、それを阻む者が一人。


「久しぶりだな、序列二位ツヴァイト

「……序列一位エーアストか」


 顔が割れているなら仕方ない。

 黒いローブを捨て去って、レーガンはフランツに対峙する。


「逃げ出したかと思えば、また戻ってくるとは。まったく、田舎者の考えは私には分からない」

「テメェには関係ねぇ。こいつはオレとミリアの問題だ」

「気安く呼び捨てにするな。ミリア様だ」

「しらねぇっての。あいつはミリアだ」


 剣呑な空気が辺りを包む。

 しかし、フランツは剣を抜こうとしない。


「……テメェ、何のつもりだ?」

「ここで殺してしまえばミリア様に嫌われてしまう。貴様の首は保留だ」

「随分と余裕そうじゃねぇか。オレに勝てると思ってんのか?」

「当然だ。貴様のいない内に、私の剣は鋭さを増している」


 鋭い眼光でレーガンを見据える。

 眼前の男は、確かに強者の気配を纏っていた。

 レーガンも旅で自信を付けて来たはずだったが、目の前の男もかなり出来るようだった。


「けどよ、オレだって力は付けてるんだ。一方的に勝てると思うなよ?」

「私に傷一つ付けられたならば、それは賞賛すべきことだろうな」


 あくまでも余裕の表情を崩さないフランツ。

 相応に場数を踏んできているのだろう。

 冒険者として魔物を相手取ってきたレーガンにとって、対人を専門としてきたフランツは分の悪い相手だった。


 だが、レーガンとてラクサーシャの指導を受けている身だ。

 そう簡単に負けるわけにはいかなかった。


「神託の儀式なんてぶっ潰してやる。絶対に、だ」

「一人で出来る事など限られているだろうに、愚かなものだな。我ら聖騎士を相手に、どこまで持つか見物だな」


 くつくつと笑いながら去って行くフランツに、レーガンは歯を軋らせる。

 確かに個の力は無力だ。

 それはここまでの旅で散々思い知ってきたことだ。


 しかし、レーガンは仲間に助力を請えなかった。


「これはオレの問題だ。巻き込むわけにはいかねぇ」


 今はどこにいるかも分からない仲間の顔を思い浮かべる。

 不義理な別れ方になってしまったことが悔やまれるが、ここまでの旅は大切な思い出だった。

 レーガンは再び歩き出す。

 彼の目的のためには、必要なものがあまりにも大きすぎた。


 レーガンは大陸でも屈指の実力を誇る冒険者だ。

 アスランに次ぐ逸材とされ、短期間でミスリルプレートへと上り詰めるほど。

 それだけの実力を持ちながら、扱う武器は魔道具でさえない武器だった。


 聖騎士には守護兵装と呼ばれる装備が与えられる。

 各々の能力に見合った武器と鎧は、大魔法具アーティファクトに匹敵するほどの代物だ。

 レーガンが与えられたのは守護聖典『聖者の翼ツヴァイト・シュッツヘル』と白銀の重鎧。

 それを纏えば、レーガンの能力は飛躍的に高まるだろう。


 しかし、レーガンはそれを好まなかった。

 確かに強力な武器ではあるが、それは与えられた武器だ。

 皇国から与えられた武器を使うほど、彼の心は堕落していない。


 レーガンが目指す先。

 それは彼の故郷の村だった。

 もう十年以上も帰っていなかった故郷へ、久しく戻ることにしたのだ。

 神託の儀式まで、あと十日まで迫っている。




 一方、ラクサーシャたちは皇国について得られた情報をクロウから聞いていた。

 クロウはまだ自分について深く語らないが、皆が彼を信頼しているため追求はしない。

 なにより、クロウ自身が「レーガンの問題が片付いたら話す」と言っているのだから、無理に聞く必要もないと考えていた。


「まだレーガンの居場所は分からないみたいだが、代わりに幾つか重要な情報が入ってるぜ」

「ほう、聞こう」

「一つ目は、強者の足取りについてだ。皇国で、例の少女の目撃情報が入った」


 クロウが言う少女とは、王国の港町エリュアスで噂を聞いた少女である。

 あの時は見失ってしまったが、それが再び皇国で目撃情報が入った。


「その子は皇国内にいるらしい。今はレーガンを優先してるからどこにいるかまでは分かっていない」


 竜の気配を纏う少女。

 それだけでも重要なことだったが、話はそれだけではない。


「こっちもやばそうなんだが、王国の遺跡で遭遇した骸骨面の不死者がいるだろ? あれも皇国内で目撃情報があった」


 その言葉にラクサーシャが眉を顰めた。

 王国で戦った際は自分の敗北は明らかだった。

 自分よりも格上の存在と出会った初めての瞬間でもあった。


「アレがどのような目的で来ているのか、分からんな」

「あいつがどんな奴かも分かってないしな。アウロイの配下か何なのか。どっちにしても、警戒したほうが良さそうだ」


 双牙の竜姫と骸骨面の不死者。

 皇国内の事情は更に複雑さを増して行く。

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