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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
謀略の魔国編

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65話 三つ巴(3)

 ラクサーシャたちの戦闘の余波が届かぬ場所でセレスたちは戦っていた。

 氷魔の領域ペルマ・フロストの影響は大きく、レイナはこの領域において真価を発揮出来るようだった。


 レイナがレーガンに肉迫する。

 既にセレスは弱体化している。

 なれば、レーガンを先に始末するべきだと判断した。


 素早く突き出されたレイピアを紙一重で交わし、レーガンはレイナの腕を絡め取る。

 その剛腕にかかれば、鎧を纏った人間であろうと振り回すことは容易い。

 レーガンはレイナの身体を振り回し、周囲の柱に叩き付けていく。


「おらぁああああッ!」


 紫電を迸らせ、レーガンの咆哮が響き渡る。

 レイナの頭を掴むと力任せに地に叩き付けた。

 地に大きく減り込んだレイナに容赦なく拳打を浴びせる。

 何度も殴り続けるも、最後の一撃には手応えは無い。


「ちぃッ!」


 顔を上げれば、レイナが荒い息を吐いて立っていた。

 頑丈な鎧に守られて身体は無事のようだったが、地に叩き付けられた顔には大きな痣が出来ていた。

 頬から血を垂れ流すも、その戦意は衰えない。


「戦鬼レーガン。その評価は、少しばかり上方修正する必要があるでしょう」

「強がってんじゃねぇっての。鏡でも見たらどうだ」

「見ずとも、私の美しさは理解していますので」


 レイナは軽口を叩くとレイピアを構え直す。

 その目が青く輝き、放たれる威圧感が増した。

 その重圧にレーガンが顔をしかめる。


 戦斧を構え直すレーガンの横をセレスが飛び出していく。

 一直線にレイナに迫り、剣を振るう。


 流麗な剣閃。

 セレスの剣には剣舞を髣髴とさせるような芸術的な美しさがあった。

 しかし、そこには普段よりもキレが無い。


「その程度では、私に届きませんよ?」


 レイナはセレスの剣を容易く受け流す。

 その剣速は先ほどまでとは比べ物にならないほど増している。

 レーガンが見た限りでは、その一閃は剣聖アスランに匹敵する。


 レイナはセレスの剣を弾くと攻勢に出る。

 狙うのは鎧の隙間。

 精密に繰り出された一撃がセレスの肩を貫いた。


 剣を持つ右肩を貫かれ、セレスは苦痛に呻く。

 その隙を逃すまいとレイナがレイピアを構える。


 だが、続く一撃は紫電に遮られた。

 レイナがその場から飛び退けば、戦斧を振り下ろした状態のレーガンが目に映った。


 レーガンは慌ててセレスに駆け寄る。


「おい、大丈夫かよ?」

「問題ない。私はまだ戦える」


 肩を貫かれても剣を取り落とさないのはセレスの心の強さの現われだった。

 しかし、利き腕が使えなければこの場では戦いようが無い。

 セレスは左手に剣を持ち替えようとするが、レーガンが首を振った。


「その体じゃ、あのバケモンとは戦えねぇって」

「しかし、レーガン。一人で相手取れるような相手ではないだろう」

「だからといって、セレスに戦わせるわけにもいかねぇ」


 レーガンは背後を振り返る。

 周囲で行われる戦闘に恐怖しているのか、ベルは蹲ってしまっていた。

 これでは回復魔法は望めないだろう。

 戦士ではない彼女にとって、人間同士の殺し合いは酷く恐ろしいものに見えているのだとレーガンは思った。


 レーガンは悩む。

 目の前にいるレイナは戦士として明らかに格上だ。

 彼の頭に過ぎるのは、ある選択肢。

 それを選択しようとした瞬間、背後から声がかかった。


「ありがとう。もう平気よ」


 エルシアが剣を構えてやってきた。

 極光を纏った剣を見れば、それがどれだけの代物なのかははっきりと見て取れた。

 大魔法具アーティファクトの中でも最上級のそれは、エルシアの切り札の一つだ。


 エルシアは周囲を見回す。

 氷魔の領域ペルマ・フロストは三人にとって不都合だ。

 故に、それを破壊する。


「――術式破壊レジスト!」


 剣を構え、レイナに肉迫する。

 だが、エルシアの動きは一流のそれではない。

 レイナが迎え撃とうとすると、エルシアの姿が掻き消えた。


 刹那、極光がその脇腹を穿った。


「がぁあああああッ!」


 その苦痛にレイナが獣のように叫ぶ。

 エルシアの剣はレイナを鎧ごと切り裂き、そのまま氷魔の領域ペルマ・フロストを打ち砕いた。

 術式を破壊され、維持出来なくなった魔法が消滅した。


 血が溢れ出る脇腹を押さえ、レイナがエルシアを睨む。

 だが、エルシアの関心はそこには無かった。

 鎧の切り口。

 その隙間から覗くのは、蒼い魔力光を発する術式。


 問題は、それが人体に刻まれているということだ。


「何よ、それ……」

「生体人形。それも、随分と手が込んでるみたいだな」


 声に振り向けば、短剣を片手にクロウが戻ってきた。

 所々怪我をしているようだったが、帝国の騎士を相手に勝利したようだった。

 しかし、その表情は浮かない。


 クロウは意識を切り替えると、改めてレイナを見つめる。


「なあ、あんたはどこまで知っているんだ?」

「何のことでしょうか。そもそも、貴方は何者ですか?」

「質問しているのは俺だ」


 クロウから強烈な殺気を感じ、レイナは気圧される。

 その現象にレイナは疑問を抱いた。

 目の前の男からは大して魔力を感じない。

 それなのに何故、自分はこの男を恐れているのか。


 得体の知れない恐ろしさを振り払い、レイナはクロウを見据える。

 改めてみれば、目の前の男は魔力の無い一般人にしか見えなかった。


「私はただの生体人形。帝国の一兵士に過ぎませんが?」

「生体人形なのは分かる。けど、あんたはどうやら特別製みたいだ。それに補佐官という地位。明らかに優遇されすぎているとは思わないか?」

「さて、どうでしょうか?」


 はぐらかそうとすると、再び得体の知れない恐怖が込み上げてきた。

 やはり、目の前の男は異常だ。

 レイナは錯乱した脳内とは対照的に、表情は真顔のままだ。


「話す気が無いなら、仕方ないな」


 再び感じる強烈な殺気。

 先ほどまでとは比べ物にならないそれは、クロウがレイナを殺すと明確に示した合図だった。

 クロウが虚空から何かを呼び出そうとして、視線をレイナから外した。

 見れば、エルシアたちも同じ方向を見つめていた。

 ラクサーシャとガルムでさえ、同じ方向を見つめている。


 疑問に思い、レイナも視線を移す。

 そして、目にしてしまう。

 本物の生体人形を。


「起動完了。出力確認開始」


 台座に横たえられていた少女が上体を起こしていた。

 眠たげな瞳で何かを呟いている。

 その光景に、皆の意識が少女へ奪われる。


「出力五割。魔力不足を確認。魔核の供給が足りていません」


 少女は台座から降りると、ラクサーシャたちに視線を移す。

 肩口で切り揃えられた髪がふわりと揺れた。


「生命反応確認。戦力評価、上。害意無し。戦闘は不必要と判断します」


 その言葉の直後、少女の目が赤く光る。


「体内に術式を確認。害意あり。精神支配の術式と判断します」


 少女は自分の腕を見つめる。

 そこに浮かんでいるのは隷属の術式だった。

 その時、術式が赤く輝き始める。


「術式を排、除……」


 少女が仰向けに倒れる。

 びくりと体を痙攣させ、そのまま動かなくなってしまう。


 僅かな静寂の後、少女は身を起こした。

 そこには不気味な笑みが張り付いていた。


「生命反応確認。戦力評価、上。害意無し。討伐対象と判断します」


 少女から膨大な魔力が立ち上る。

 既に苛烈な戦闘を行ったラクサーシャたちは、かなり消耗してしまっている。

 新手の参入は厳しかった。


「試作型生体人形、シグネ。戦闘態勢へ移行します」


 右腕に魔力が収束し、剣を象る。

 左腕に魔力が収束し、砲を象る。

 背から噴出した魔力が翼を象る。


執行開始を開始しますリリーフ・デア・ヴァールハイト


 神代の技術の結晶。

 完成された生体人形がラクサーシャたちに牙を剥く。

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