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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
謀略の魔国編

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62話 何を求めるか

 馬車は獣人の集落をやや過ぎた辺りで馬車を止めた。

 前方に広がるのは枯れ果てた大地だ。

 先ほどまでは地面も硬く馬車での移動も可能だったが、ここから先は足での移動となる。

 獣人たちの管理から離れた地には凶悪な魔物で溢れている。


 燦々と輝く太陽が身を焦がす。

 体温が高まっているのは暑さか、それとも帝国への怒りか。

 それを考える必要は無い。

 ただ、遺跡へ向かうのみだ。


 クロウが砂漠の地図と方位磁針を取り出す。

 だが、エルシアが首を振った。


「必要ないわ。さっきから、これがすごい反応を示しているみたいだし」


 エルシアは懐から方位磁針を取り出した。

 強力な魔道具や大魔法具アーティファクトに反応を示すそれが、ぴたりと方向を指し示していた。

 その反応は生半可なものではない。

 神殿にて、アウロイが生み出した試作型自律魔道書の時と同等だった。


 方位磁針に導かれるままに歩いていく。

 魔国の南方ということもあり、ランサ砂漠は魔境に近い位置にある。

 特に最奥は魔境と繋がっていることもあり、凶悪な魔物も多い。

 中には神話級の魔物も含まれている。


 ラクサーシャは次々と現れる魔物を斬り捨てていく。

 彼にとっては魔物の階級などは関係ない。

 ただの一太刀で切り伏せていく様は、最強と謳われるに相応しい強さだった。


 エルシアは不愉快そうに顔をしかめつつも、その戦い振りを観察する。

 完成された技術を前に、ただ不貞腐れていることは凡愚の発想。

 故に、不愉快であろうともラクサーシャの戦い方から学んでいく。


 しばらく歩くと、方位磁針の反応が更に強った。

 見れば、針が僅かに震えている。

 エルシアはその様子から遺跡の状況を察する。


「結構な戦力が揃っているようね。少なくとも二人……いえ、三人は強者がいるみたいね」

「うわ、三人もいるのかよ」

「一人がガルムとして、他は誰がいるものか」


 ラクサーシャは腕を組む。

 指揮官としてガルムが行動する際のことを考えると、もう一人は見当が付いた。


「一人は恐らく、ガルムの補佐官を勤めるレイナ・アーティスだろう。だが、もう一人が分からんな」

「他にいるとすれば、シュヴァイくらいか?」

「なあ、第一王子派の戦力って可能性もあるんじゃねぇか?」

「それも有り得る。いずれにせよ、実際に出向かなければ分からんな」


 ラクサーシャの言葉に皆が頷く。

 前方に視線を移せば、遺跡はもう間近まで迫っていた。


 到着すると、先ほどの考えが事実であることに気付いた。

 第一王子派の研究者たちが倒れており、遺跡の奥へと足跡が続いている。

 砂漠にあるためか遺跡は酷く風化しており、これまでのような美しさは感じられなかった。


 そして何より、奥から未だに戦闘の音が聞こえていた。

 ラクサーシャたちはその中に、重く鈍い剣の音が混ざっていることに気付いた。

 塊剣のガルム・ガレリア。

 その男は、この通路の先にいる。


「行くぞッ!」


 ラクサーシャの合図に合わせ、一気に遺跡の中へ駆け込む。

 第一王子派の兵も帝国の兵も敵だ。

 視界に映った全ての敵を切り伏せ、ラクサーシャたちは遺跡の中心部に辿り着いた。


 そこは儀式の間だった。

 部屋の置くには台座があり、そこに少女が横たえられている。

 作り物めいた美貌の少女だったが、ラクサーシャの意識はそちらへは向いていない。


 久しく見ていなかった姿があった。

 かつて共に戦い、今では敵になった男。

 身の丈ほどもある大剣で魔国の兵を叩き潰し、ガルムが振り返った。

 その表情は嬉々としていた。


「来たか、ラクサーシャぁぁああああッ!」


 塊剣を振り翳し、ラクサーシャへ襲い掛かる。

 振り下ろされた一撃をラクサーシャは迎え撃たんとする。


「――奥義・瞬魔」


 ラクサーシャの魔力が爆発的に高まる。

 刹那に放たれた一閃がガルムの塊剣を弾き返した。

 ガルムは一度距離を取ると、再び塊剣を構える。

 その顔には余裕の色が窺えた。


「テメェにこんなところで会えるとは思わなかったぜ」


 ガルムは昂揚していた。

 ラクサーシャとの再戦をどれだけ待ち侘びていた事か。


「ガルム。獣人の集落を襲撃したのはお前か」

「なら、どうする?」

「お前をこの場で殺す」


 ラクサーシャの殺気に当てられ、しかしガルムは平然としていた。

 そこには何故か余裕の色が窺えた。


 塊剣を構えるガルムのもとに一人の女性がやってくる。

 怜悧な目をしたショートカットの女性。

 レイナ・アーティス補佐官がそこにいた。


「ガルム指揮官。一人で戦うのは無謀かと」

「だろうな」


 そうは言いつつも、ガルムは元より一人で戦うつもりでいた。

 今の彼にはそれだけの自信があった。


「ラクサーシャ。テメェの見ていた世界が、今の俺には分かる」

「……何を言っている?」

「こういうことだッ!」


 ガルムから膨大な魔力が放出される。

 最後に戦ったときには、これほどの魔力は無かったはずだった。

 放たれる威圧感はラクサーシャに迫っていた。


 ガルムの姿が掻き消える。

 その巨躯からは想像もつかないような素早さで塊剣を振り下ろした。

 刃が向かう先はラクサーシャではなかった。


「先ずは雑魚から消し飛ばしてやんよッ!」


 塊剣が向かう先はレーガンだった。

 レーガンは戦斧を思い切り振り回して迎え撃つ。

 戦斧と塊剣がぶつかり合い、拮抗する。


「うおおおおおッ!」


 レーガンが咆哮する。

 紫電が迸りガルムの塊剣を押し返そうとするが、ガルムは笑みを浮かべていた。

 刹那、ガルムの魔力が爆発的に高まる。

 レーガンはその光景に見覚えがあった。


「てめ、それはラクサーシャの……」


 言い終える前にガルムの塊剣が振り下ろされた。

 込められた魔力が炸裂し、地面に大きなクレーターを生み出す。

 だが、そこにレーガンの姿は無い。


「はあ、はあ……。あっぶねぇ」


 レーガンは少し離れた場所に倒れていた。

 そこに覆いかぶさるようにセレスも倒れている。

 危険を感じ取ったセレスが咄嗟にレーガンを押し倒していたのだ。


「すまねぇ。助かったぜ」

「気にするな。と、言いたい所だが……」


 セレスは立ち上がるとガルムを見据える。

 先ほどの爆発的な魔力の高まりはセレスも見覚えがあった。


「ラクサーシャ殿の奥義。まさか、それを再現出来る者がいるとは」


 ラクサーシャの奥義・瞬魔。

 それは体内に秘めた膨大な魔力を体中に循環させ、強引に身体能力を跳ね上げるものだ。

 戦士ならば誰もが使用する身体強化ではあるが、ラクサーシャのそれはその比ではない。


 問題は、それをガルムが再現したということだった。


「あぁ、最高だ。これが最高峰の力か。たまんねぇ」


 明らかに異常だった。

 何故、ガルムがそれだけの力を付けているのか。

 ラクサーシャに匹敵するだけの魔力量に、魔導兵装による強化。

 単純な力比べならば、ラクサーシャでさえ厳しいかもしれない。


 ラクサーシャは悦に浸っているガルムを鋭い視線で見つめる。

 力を得るために何をしたのか、ここまでの道程を振り返れば想像が付いた。


「……獣人の魔核を喰らったか」

「ああ、その通りだ」


 ガルムは犬歯を剥き出しにして嗤う。

 罪を罪とも思っていないかのような態度に、ラクサーシャの表情が険しさを増す。


「そうまでして力を手に入れて、何を求める」

「俺が求めてるのは一つ。ラクサーシャ、テメェの首だ」


 塊剣をラクサーシャに向けて突き出し、挑発的な笑みを浮かべた。

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