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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
謀略の魔国編

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49話 状況把握

 ラクサーシャが戻ると、エルシアの機嫌が途端に悪くなった。

 それでも殺気を押し殺しているのはクロウたちへの気遣いだろう。


「それで、神殿を調査して何を知りたいの?」

「そうだな。先ずは、俺たちがここに来るまでのことを話した方がいいか。確か、解放軍を結成するところまでは話したよな?」

「ええ。昨日聞いたわ」

「なら、王国のことから説明した方がいいか」


 クロウはこれまでのことをエルシアに説明する。

 帝国を出て、ラズリスの町へ行ったこと。

 そこで魔石鉱の問題をレーガンとセレスと共に解決したこと。

 そして、その奥で不死者に会ったことまでを話すと、エルシアは目を見開いた。


「……不死者って、御伽噺の中の存在じゃなかったの?」

「それが、実際には存在するんだ。異様なほど強くて、正直、アレは人間の手に負えるようなもんじゃないぜ」

「それで、不死者はどうしたのよ?」

「旦那が相手をしたんだけど、途中で去っていったぜ」

「去っていったの? うーん、目的がよく分からないわね」


 エルシアは首を傾げるが不死者の存在については一応納得したらしく、クロウに話の続きを促す。


「それで、俺たちは王国で強者の情報を集めて回っていたんだ。手に入れた情報をもとに足取りを追っていたんだが、この辺りで見失ったんだ」

「その強者ってどんな人なの?」

「聞いた限りだと、エルシアよりも小さな女の子だ」

「そんな幼い子が戦えるの? あたしより小さいっていったら、それこそ子どもじゃない」

「その辺りは会ってみないと分からないな。けど、聞いた限りじゃ年齢不相応の気配を身に纏っているらしいぜ」


 クロウが少女について持っている情報は少ない。

 分かっていることは竜牙の双剣を背に交差させ、漆黒の鎧を纏った少女というだけだ。

 その少女の足取りは不明で、部下に探させても未だに見つかっていない。


「それで、その後は王都でセレスと会って、王に謁見する機会を用意してもらうことになった」

「王に謁見するのはいいけれど、どうやって?」

「武道大会を開くことにしたんだ」

「……え?」


 エルシアは意味が分からないといった様子で聞き返した。

 クロウは今のセレスには発言力が無いことと、王国内の協力者が少ないことを伝える。

 正式に謁見の機会を設けようとすれば、元老院の横槍が入ることだろう。

 そのために、武道大会で王の目の前で剣を振るい、謁見の機会を得る必要があった。


「そんな滅茶苦茶な方法で……。まあ、理には適っているけど」

「そうでもしないと謁見なんて厳しいからな。それに、実際に目の前で力を見せた方が信頼されるだろ?」


 ラグリフ王は王位を継承してからずっと消極的だ。

 彼が玉座に着いた時には既に帝国もあの状況であったのだから、萎縮してしまうのも仕方のないことだろう。

 そんな王を動かすには、それぐらいのことをしなければならなかった。


「エイルディーンの王は情けないわね。王として、民を守ろうと思わないのかしら?」

「王だからこそ、じゃろうて。戦う道は過酷極まる。結果的に勝利したとて、その過程でどれだけの民の命が失われることかのう。ラグリフ王も、ある意味では王として成すべきことをやっているのかもしれぬ」

「そういう道もあるのは分かっているわ。けど、どうしても納得できないのよ」


 エルシアは不服そうに呟く。

 理性的には分かっているのだ。

 だが、それでもラグリフ王の在り方に不満があった。


 帝国に恭順の意を示せば、過酷な支配を受ける可能性はあるが民の命を繋ぎ止めることは出来るだろう。

 敵対すれば、一人残らず滅ぼされるだけだ。

 どちらを採るにしても一長一短。

 なればこそ、エルシアは誇りを失わずに立ち向かうべきだと考えていた。


「そのためにも、なんとしてでもラグリフ王に謁見する必要があるんだ。まあ、旦那が出るんだし大丈夫だとは思うぜ」


 クロウの言葉に、エルシアは顔をしかめる。

 自分を軽くあしらえるほどの強いのだから、その点に関しては何の心配もない。

 だが、エルシアはラクサーシャの力をあまり頼りにはしたくなかった。


「で、武道大会までの空き時間で魔国に行ったんだ」

「魔国っていうと、ちょうど王位継承争いの真っ只中じゃない。状況を見るに、第一王子が勝つと思うけど」

「けど、俺たちは第二王子派に付いたんだ」

「え? 戦力を得るなら、第一王子に恩を売っておいたほうが遥かに良いでしょ」

「普通ならな。けど、第一王子はには問題が多い」


 クロウは第一王子派がガーデン教に纏わる遺跡を調査して非道な研究を行っていることを伝える。

 シュトルセランが隷属させられていたと聞くと、エルシアは納得する。


「それなら、第二王子派に付くのも当然ね。同じ状況なら、あたしでも第二王子派に付くわ」

「ま、そういうことだ。けど、そこからが問題だ」


 クロウは続ける。


「考えてみてくれ。帝国も、第一王子派も、同じガーデン教について調べていたんだ。ほとんど名前も知られていなかった宗教の遺跡がここ十年で急に出てきたなんて、どう考えても不自然だろ?」

「言われてみれば、そうね……。偶然とは言い難いわ」


 そこで、エルシアははっと顔を上げた。


「帝国と第一王子派に遺跡の場所を教えた人物がいるのね?」

「ご名答。そして、そいつの名前まで分かっているんだ。ガーデン教の聖典に登場する人物。錬金術師アウロイ・アクロスだ」

「アウロイ・アクロス……。神話に登場するような過去の人物が、未だに生きているなんて」

「ああ、そいつも不死者らしいぜ」

「……はあ、不死者ばっかりね。けど、どうしてそれが分かったの?」

「魔国のロズアルド高原の遺跡で旦那が接触した。その時に、アウロイの目的を知ったんだ。」

「何て言っていたの?」

「聖女との契約に従い、世界を救済する。そう言ってたんだよな?」

「うむ」


 ラクサーシャは頷く。


「で、問題はその方法だ。魔国や第一王子派に神代の技術を与えて、そこからどうやったら世界の救済に繋がるのか。それが分からないんだ」

「そう。それでこの神殿を調査しに来たのね?」

「ああ、そういうことだ」


 話を聞き終えるとエルシアは難しそうな表情を浮かべる。

 次々に明かされた事実に、つい昨日まで思い浮かべていた復讐劇とは全く違うことに驚いていた。


「あたしは、帝国を滅ぼして、そいつを殺せばそれで終わりだとばっかり……。想像していたよりも面倒なようね」

「残念ながらな。まあ、それも神殿を調査するしかないさ」

「けど、そんな手掛かりになりそうな物は見つかってないわよ? あたしもここしばらくは神殿を調査してたけど、骸骨ばっかりで嫌になるくらいよ」


 大きなため息を吐く。

 求めていた大魔法具アーティファクトもなかなか見つからず嫌気が差すほどに神殿は何も見つからない。

 その上に魔物も出てくるのだから、調査はなかなか捗らなかった。


「ただ、気を付けた方が良いわ。あたしでもたまにてこずるような魔物もいるから、そこの二人はともかくとしてクロウとベルは危ないわよ」

「そんなに強いのがいるのか?」

「ええ。一昨日なんて、徘徊する怨嗟シュライエン・ゲシュペンストに遭遇したくらいよ」

「あれと遭遇したのか。よく一人で倒せたな」

「当たり前よ。神殿も思った以上に丈夫だったから、最大火力で塵芥さえ残さず消し飛ばしてやったわ」


 エルシアの最大火力といえば、昨日ラクサーシャに放った大魔法具アーティファクトの斉射である。

 多彩な戦術を持つエルシアは、一対一から一対多まで様々な状況に対応出来る万能型だった。


「神話級の魔物って言っても、あれはその中では低い方よ。そのくらいなら、あたしでも出し惜しみしなければ問題なく倒せるわ」


 それを誇るわけでもなく、エルシアは平然と言ってのける。

 それだけの実力があれば各国から声が掛かるほどだったが、それをラクサーシャの前で誇れるほど愚かではない。


「あたしがほとんど探索しちゃったから残ってるのは地下室くらいよ。誰かの部屋みたいだけど、それが手掛かりになるとは思えないわ」

「まあ、一応見てみようぜ。何かしら見落としがあるかもしれないしな」

「そうじゃのう。儂の感知魔法を使えば、隠し通路なども見つかるかも知れぬからのう」

「そんなことが出来るなんて、便利ですね」

「ほっほ、魔術は理解さえ出来れば万象を引き起こす。儂にあと四半世紀あれば、空でも飛べそうじゃのう」


 シュトルセランは陽気に笑うが、実際にそれだけの猶予があれば可能かもしれない。

 そう思わせるだけの能力をシュトルセランは持っていた。


「じゃあ、決まりね。地図は私が大雑把にだけど作ってあるから、それを見て地下室に向かいつつ、シュトルセランの感知魔術を使って隠し部屋を探しましょ」


 エルシアの言葉に皆が頷いた。

 一同は準備を手早く済ませ、神殿の中へ入っていく。

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