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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
謀略の魔国編

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48話 面影

 翌朝。

 エルシアはまだ警戒心を抱いてはいたが、特に争いが起こることもなく朝食を終えた。

 食事を終えるとラクサーシャは刀を持って森の方へ向かう。


「近くに魔物の気配を感じる。すぐに戻る」

「ああ、分かったぜ」


 ラクサーシャを見送ると、次にベルが立ち上がった。


「私もちょっと、食後の散歩をしてきますね」

「旦那ならともかく、ベルは危なくないか? なんなら俺もついてくぜ」

「いえ、大丈夫です。私だって、神聖魔術を使えるんですよ?」

「うーん……そうか。まあ、あんまり遠くに行かないでくれよ」

「はい、お気遣いありがとうございます」


 ベルは微笑むと、皆に背を向けて歩き出した。

 森の奥に消えていくベルを見送ると、クロウは残った二人に視線を向ける。

 特に、エルシアには幾つか疑問があった。


「そういや、エルシアはなんでこの神殿に来てたんだ?」

「決まってるでしょ。遺跡には大魔法具アーティファクトが眠ってることが多いから、それを探しに来たのよ」

「よくこの場所が分かったな。この神殿なんて、大陸でも数えるほどの人間しか知らないはずだ」

「あたしにはこれがあるから」


 エルシアは懐から方位磁針を取り出す。

 豪華な装飾が施されており、さらに術式が刻み込まれていることを見ればそれが大魔法具アーティファクトであることが分かる。

 方位磁針の針はぴったりと神殿を指していた。


「これは大魔法具アーティファクトのような強力な道具の存在を感知してくれるのよ。これに導かれるままに来たらここに着いたわ」

「なるほどな」


 クロウは納得したように頷いた。

 そのような道具があるのならば、あれだけの大魔法具アーティファクトを持っていることにも納得がいった。


 シュトルセランは方位磁針をじっくりと見つめる。


「ふむ、こういった術式が特定の存在を感知するのか。ほほう、なるほど……。やはり大魔法具アーティファクトは面白いのう」

「この術式が読めるの?」

「勿論じゃ。賢者の称号は伊達ではないからのう」


 エルシアは感心したようにシュトルセランの顔を見つめる。


「そういえば、貴方は術式に詳しかったのよね」

「並大抵の術式ならば、読めぬことはないのう」

「なら、これはどうかしら」


 エルシアは懐に下げた剣を引き抜くと、その刀身を見せた。

 シュトルセランはそれを興味深そうに見つめる。


「これはまた、複雑な術式じゃのう。敏捷の術式が多いようじゃが……ほほう」

「分かるようね」


 シュトルセランの様子にエルシアは笑みを見せた。


「これは術式破壊レジストの術式が刻み込まれているの。貴方とは違って、距離は制限されるけどね」

「まさかそんな代物があるとはのう。技量のある剣士ならば、魔術師を封殺出来そうじゃな」

「ええ。これが切り札って訳ではないけれど、あたしの自慢の道具の一つよ」


 複雑な術式が施されたそれは、ラクサーシャの軍刀『信念』に近い気配を放っていた。

 得意げに胸を張るエルシアにクロウが尋ねる。


「なあ、そんなに手の内を明かしちゃっていいのか? まだ俺たちを信用できるとは分からないだろ?」

「それくらいは分かってるわ。同時に、信用されてないこともね」


 エルシアは首を振った。

 自分が彼らのリーダーに敵意、もとい殺意を抱いていることは明らかになっている。

 協力関係になったとはいえ、それだけで解決するほど生半可な憎悪ではない。

 ラクサーシャが傍にいると殺気が隠しきれずに溢れてしまうほどだった。


 自分がそんな態度を取っていては、信用されないのも無理はない。

 エルシアはクロウたちが少しだけ警戒していることに気付いていた。


「けどね。少なくとも貴方たちは、あの男と違って信用できると判断したの。だから、これくらいはね」


 手の内を明かすことで、自分が歩み寄ろうとしていることを見せたかった。

 長い時間を共に過ごすのだから、互いに警戒していては疲労が溜まるだけだ。

 これからのことを考えれば、その程度の情報を開示することに躊躇はなかった。


「それで、話し合いをするんでしょ? あたしもこの神殿は調査してる最中だから、ある程度のことは答えられるわ」

「そうだな。とりあえず、旦那とベルを呼んでくるか」


 クロウの言葉にエルシアはあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。

 ラクサーシャと会話をしたくないようだった。




 周囲に感じた気配を追って、ラクサーシャは森を歩く。

 魔境に近いこともあってか凶悪な魔物が多かったが、その全てを一太刀で切り伏せていった。

 ラクサーシャは易々と倒しているが、ベルやクロウには厳しい相手だろう。

 エルシアやシュトルセランならば戦えるだろうが、それでも長時間の戦闘は厳しそうだった。


 近くに感じる最後の気配を見つけると、ラクサーシャは刀を一閃する。

 それは彼の身の丈の倍はあろうかという巨躯のオーガだったが、抵抗する暇も与えず一太刀で切り伏せた。


 ラクサーシャは大きく息を吐き出した。

 周囲の魔物は倒し終えたが、すぐに仲間たちのもとへ向かう気にはなれなかった。

 自分が姿を現せば、エルシアは途端に機嫌を悪くしてしまうだろう。

 もう少しだけ一人になりたい思い、少し離れた場所にある岩に腰掛けた。


 昨晩もここで物思いに耽っていたが、今日もそうするらしい。

 ラクサーシャは己の精神の軟弱さに呆れていた。


「私は道を違えた。それも、致命的なまでに」


 首に下げたペンダントを手に取る。

 娘の思いが詰まったペンダントは、今も劣化することなくラクサーシャと共にあった。

 ペンダントを開ければ、シャルロッテの眩しい笑顔が見えた。


 どれだけ眺めていたかは分からない。

 ふと気が付くと、背後から気配が近付いてきた。

 だが、抜刀する必要はなかった。


「ベルか」

「はい。食後の散歩をしていたら後姿が見えたので」


 ベルは微笑む。

 ラクサーシャにとって、その笑顔が今はありがたかった。

 それが作り物の笑顔であるとは知らずに。


 ベルはラクサーシャが手にしているペンダントに視線を移す。


「これ、綺麗なペンダントですね。どうしたんですか?」

「娘がくれたのだ。もう、何年と前のことだが」


 ラクサーシャはそのときのことを思い出してしまい、悲しげに眉を下げた。

 今でもその時のことを鮮明に思い出せた。


 ベルはペンダントに興味があるらしく、ラクサーシャの手元をじっと眺める。


「あの……娘さんの写真、見てもいいですか?」

「うむ」


 ラクサーシャの後ろから覗き込むようにして写真を見る。

 にっと笑うシャルロッテの写真を見て、ベルは驚いたように目を見開いた。


「……これ、私の妹に似ています」

「ほう、ベルには妹がいたか」

「はい。ちょうど娘さんと同い年くらいですね」


 ラクサーシャはベルの顔を見て、それからシャルロッテの写真を見る。

 美しい金髪や顔立ちなど似ている点があり、そんなベルの妹ならば似ているだろうとラクサーシャは納得した。


「妹は元気か?」

「……はい。今は帝国の北にある教会でシスターをやってます」

「そうか」


 ラクサーシャは安心したように息を吐いた。

 それから少し会話をしていると、クロウがやってきた。


「お、旦那。それにベルも。こんなところで何やってるんだ?」

「少し、考え事をな」

「そうか。そろそろ神殿の調査について話し合うから、あっちに戻ろうぜ」

「うむ。そうするとしよう」


 立ち上がると、ゆっくりと深呼吸をする。

 己の咎なのだからしっかりと向き合わなければ。

 ラクサーシャは軍刀『信念』を握り締め、気合を入れ直した。

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