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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
謀略の魔国編

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38話 賢者の術式破壊

 シュトルセランが敵に回ることの恐ろしさを知っているのはラクサーシャのみ。

 まだ武力衝突が無いため、ウィルハルトもシュトルセランがどれほど強力な魔術師かは分からなかった。


「リィンスレイ将軍。シュトルセラン殿について、分かる範囲で情報を頂きたいのだが」

「シュトルセランは、私が知り得る限りでは最も強い魔術師だ。魔力総量は並の魔術師程度だが、術式に非常に深い理解がある」


 何代も前の時代より、帝国は実力重視である。

 家柄などは関係無くその人間を個人として評価していた。

 その評価基準において、シュトルセランの魔力総量は大きな枷となるだろう。


 だというのに彼が帝国の賢者として皇帝に使えられたことには理由があった。


「私やエドナのような魔術では、魔力量で強引に威力を上げたに過ぎん。シュトルセランの術式は精密だ。生半可な質の魔術では、彼に術式破壊レジストされてしまうだろう」

術式破壊レジストとは?」

「他者の魔法に干渉することで、魔法を構成する術式を掻き乱すことを言う。シュトルセランは術式の綻びを瞬時に見抜く」


 術式破壊レジストは本来、人の身で扱える技術ではない。

 飛来する魔法の術式を見て、綻びを正確に見抜く必要があるからだ。

 それこそ、神話や伝承に出てくるような現実味の無いものである。


 しかし、シュトルセランはそれを実現して見せた。

 凡才ながら勉学に励み、術式の構築に長き時間を費やしてきた彼だからこそ可能なのだろう。

 鍛え上げられた鋭い洞察力と術式に関する膨大な知識を持つ彼は、千の魔術を同時に術式破壊レジスト出来るとさえ言われている。


「故に、体外で魔力を扱う技は全て無効化されるだろう。身体能力の強化のみで、大陸最高峰の魔術師と相対せねばならん」

「それほどか。兄上は、如何にして味方に付けたのか」

「先ほどの話が本当ならば、シュトルセランが自ら第一王子派に付くとは思えん。何か事情があるのかもしれんな」


 ラクサーシャは腕を組み、瞑目する。

 シュトルセランが第一王子派に付く理由が分からなかった。


「なあ、旦那。もしシュトルセランと戦うとして、勝てるのか?」

「シュトルセランも魔力は並程度だ。魔術や剣技が使えずとも、持久戦に持ち込めば勝てなくは無い。私かレーガンのどちらかがいれば勝てるだろう。しかし、シュトルセランと優秀な前衛が組んだならばその限りではないだろう」


 シュトルセランの魔術妨害と優秀な前衛が組み合わされば、流石のラクサーシャでも勝てるとは断言できなかった。

 ウィルハルトは難しい表情になる。


「魔国には、リィンスレイ将軍を相手に出来るほど腕の立つ人間はいない。しかし、国外から招くことも出来るはず。兄上ならば既に用意している可能性がある」

「一度、ヴァルマンに連絡を入れるか」

「ヴァルマンとは、あの叡智のヴァルマン・シエラか?」

「うむ。相談するならば、彼が最適だろう」


 ラクサーシャは通信水晶に魔力を通す。

 少しして、ヴァルマンの姿が映し出された。


『やあ、リィンスレイ将軍。それと、そちらは……』

「俺はウィルハルト・リザリック・カルネヴァハ。魔国カルネヴァハの第二王子だ」

『私はヴァルマン・シエラ。解放軍の諜報部隊を率いている』


 自己紹介を終えると、ラクサーシャたちは本題に入る。


『それで、リィンスレイ将軍は第二王子に付くんだね?』

「うむ。しかし、一つ問題が生じている」

『問題?』

「シュトルセランが第一王子派に付いているようだ」

『それはまた、厄介なことになっているね』


 ヴァルマンは腕を組み、考える素振りをする。

 今すぐに判断は出来ない。

 もう少し情報が出揃ってからの方が、より優れた案を出せるだろう。


『魔国の方はあまり情報が届いてないけど、ちょっとこっちでも調べてみよう。明日には通信を入れられると思う』

「分かった」


 ラクサーシャは通信を切ると、水晶を懐へしまった。


「第一王子側の動きはヴァルマンが調査する。だが、クロウ。お前にも動いてほしい」

「勿論だ。こういうときこそ、俺が活躍できるからな」

「うむ。頼んだ」

「リィンスレイ将軍。知らぬ顔だが、この方々は?」


 ウィルハルトはクロウとベルに視線を向ける。

 有名なラクサーシャやレーガンなら兎も角、二人を知らないのは仕方の無いことだろう。

 視線を受け、二人は自己紹介をする。


「俺はクロウ・ザイオン。情報屋だ」

「私はベル・グラニアです。治癒術士をやっています」


 二人の自己紹介を聞き、ウィルハルトはラクサーシャに視線を向ける。


「失礼だが、リィンスレイ将軍。この二人は信用できるのか? 例えば、帝国の手の者の可能性は」

「それはない。二人の信頼性は、私が保証しよう」

「それならば信じよう。お二方、申し訳ない」


 深々と頭を下げるウィルハルトに、二人は困惑する。

 王族、それも第二王子ともあろう者が頭を下げるなど、そうあることではない。

 彼は身分の差など気にしない性格だった。


「ウィルハルト殿下、幾つか質問が」

「いいだろう」


 クロウが尋ねると、ウィルハルトは頷いた。


「まず、一つ。殿下はリィンスレイ将軍であると分かって接触をしてきたようですが、なぜお分かりに?」

「この町に部下を忍ばせている。部下からの連絡で、他国から腕の立つ人間が入国したと聞き、接触をした。まさか、リィンスレイ将軍だとは思わなかったが」

「それでは、全くの偶然と」

「ああ。将軍とは、以前に魔国で開催されたパーティーで会っているからな。忘れはせんさ」


 帝国が王国と停戦協定を結んでから数年ほど立った時、魔国で開かれたパーティーに両国の重役が招待された。

 その時にラクサーシャの顔を見て、それから忘れないと言う。


「俺は一度見た顔は忘れない。そのおかげで、リィンスレイ将軍だと分かった」

「なるほど」


 クロウは納得したように頷く。

 政治を行うものとして、その特技は誇れるものだろう。


「次に。こっちが本題ですが、第二王子派の戦力を教えていただきたい」

「国内の有力貴族はほとんどが兄上に付いている。私に付いているのは、ここにいるレッソフォンド卿くらいだ」


 ウィルハルトに名を呼ばれ、後ろに控えていた眼鏡の男が恭しく頭を下げる。


「レッソフォンド卿の爵位は子爵。私兵の数は千といったところだ。それ以外に末端貴族が数名。合わせて二千に届かないくらいだ」

「それで、第一王子派の戦力は?」

「……おそらく、二万を超えている。こちらの十倍はあるだろう」

「なるほど」


 クロウは内容を聞き終えると、それを手帳に書き込んでいく。

 今の戦力では、第一王子派に勝つことは難しいだろう。

 如何にラクサーシャが強かろうと、それだけの数を相手にすれば消耗してしまう。


 あとは、自分の足で第一王子派の情報を集めれば良いだろう。

 シュトルセランが第一王子派に付いた事情も調べた方が良い。

 クロウは必要な情報が何かを整理する。


 今日の内に出来ることは終わり、ウィルハルトはゆっくりと息を吐いた。


「明日に話し合いを再度行うとして、今日はこれくらいにしておこう。リィンスレイ将軍たちには、俺たちと共にこの地下室で待機して頂きたい」

「旦那。俺は第一王子派の情報を探ってくるぜ。必要な情報が多いから、一週間以上かかるかもしれない」

「うむ。護衛はいるか?」

「いや、俺一人でいけるぜ」


 クロウは腰の短剣を叩く。

 ラクサーシャに鍛えられ、それなりに実力は上がってきている。

 過信はしていないが、それでも自信はあった。


 クロウを見送ると、ラクサーシャたちは隣の部屋に移動する。

 外の様子を警戒しつつ、明日のヴァルマンの報告を待つのみだ。

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