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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
流浪の王国編

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33話 衰弱する騎士

 燃えるような赤髪を靡かせ、悠然と町を歩く。

 腰には一振りの剣のみ。

 近衛騎士団の紋章を拵えた立派な鎧はもう無かった。


 セレスは赤を基調とした服装をしていた。

 ロングコートは術式を施された高級品で、彼女の動きを邪魔することはない。

 最善とまでは行かずとも、十分な装備はしていた。


 町を歩けば、民衆の噂話が聞こえてくる。

 そのほとんどが自身への悪口であることにセレスは気付いていた。

 近衛騎士団長から王国騎士団の副団長への降格。

 それは瞬く間に国中に広まり、また、良くない噂も流れ始めていた。


 曰く、セレス・アルトレーアは裏切り者だと。

 曰く、セレス・アルトレーアは親の七光りだと。

 噂が広がるにしても、あまりに不自然な速さ。

 それが元老院の仕業であることにセレスは気付いている。


 気付いていたとて、耐えられるかといえば別の話だろう。

 守るべき民にさえ嫌悪された中で、剣を振るい続けることなど常人には出来ない。

 それが出来るのは、彼女に強い信念があるからだ。


 だが、扇動された民衆が敵に回るということは生易しいことではない。

 彼女を好ましく思わない者がそこら中に溢れているのだから。


 セレスが町を歩けば、民衆から悪意が向けられる。

 ただの陰口ならばまだマシなほうだろう。

 問題は、それ以上の輩がいることだ。


 セレスの肩に男がぶつかってくる。


「テメェ、よそ見してんじゃねぇよ!」

「……」

「あ? 黙ってねぇで何か言えやオラァ!」


 冒険者であろう風貌の男たちに因縁を付けられ、セレスはため息を吐く。

 それまでもこのようなことは偶にあったが、ラズリスでの一件の後は露骨に増えていた。

 それがただの小者ならばまだいいが、冒険者となると状況も変わってくる。

 相手の胸元には、ゴールドプレートが輝いていた。


 相手の数は五人。

 冒険者パーティとしては珍しく、全員が前衛なのが厄介だった。

 腕の立つ前衛を五人も相手にするには、今のセレスでは実力が足りない。


 無論、近衛騎士団の団長になるだけあってセレスの実力は高い。

 本気を出せば、この程度の輩なら撃退できるだろう。

 しかし、殺さずに手加減するには相手が強すぎた。

 殺してしまえば、自身の悪名は余計に高まるだろう。


「おいおい、見ろよ。コイツ、体が振るえてんじゃねぇか」

「騎士サマがビビってんじゃねぇよ!」


 冒険者の煽りにも顔色一つ変えず、セレスは無言を貫く。

 手を出せばその時点で終わりだ。

 この国のために、堪えなければならない。


 体の振るえは、決して怖気づいているのではない。

 怒りに身を任せ、敵を切ることを堪えているのだ。

 ラクサーシャに咎められ、セレスは忍耐の重要さを知った。


 そう容易く抜刀してはいけない。

 必要なときに抜くのみ。

 それが騎士としての在り方だと。


「戦時にベッドで震えていた奴の娘なんかに国が守れるかよ」


 敬愛する父への侮辱。

 それだけは見過ごせなかった。

 鍛え抜かれた抜刀術は、冒険者を刹那に切り伏せることだろう。


 剣に手を添えようとしたとき、冒険者たちが硬直する。

 セレスの殺気に当てられたからではない。

 それ以上の存在が、彼らの行動を咎めたからである。


 彼らの視線の奥。

 そこにいるのは、顔を怒りに染めた男。

 抜刀するまでも無い。

 悪魔の如き視線は、それだけで冒険者たちを退散させる。


 逃げ出していく冒険者から視線を外し、セレスはその男に視線を向ける。


「剣士殿……」


 ラクサーシャは歩み寄ると、何も言わずにセレスの頭に手を置いた。

 以前のセレスならば抜刀して追い返していたかもしれない。

 だが、抜刀せず堪えたその姿にラクサーシャは感心していた。

 どこか、娘の成長を喜ぶような父親の姿があった。


 涙を堪え、セレスは尋ねる。


「なぜ、剣士殿がここに?」

「物資の調達と馬車の修理。それと、幾つか調べたいことがあってな」

「なるほど。私でよければ、王都で案内役をしよう」

「良いのか?」

「……少し、時間を持て余していた。案内くらいの時間はある」


 セレスの表情が曇る。

 その様子と装いから、ラクサーシャは何があったのかを察する。


「元老院か」


 ラクサーシャは王城を見据える。

 王国を味方に付ける前に、そちらを解決しなければならないだろう。

 しかし、王に謁見する手段がない。


「宿を取ってある。セレス、少し時間を借りたい」

「剣士殿の頼みならば、喜んで」


 ラクサーシャはセレスを連れ、宿へ戻る。


「お、旦那。良い情報が……ってセレスもいるのか」


 クロウが二人を出迎える。

 ベルやレーガンの姿もあり、セレスは安心したように息を吐いた。

 やはり、この面子のほうが落ち着く。


「それで、剣士殿。どのような用で私を?」

「うむ。一つ、頼みがあってな。王との謁見を申し出たい」

「謁見か。それならば……いや、難しいか」


 セレスは難しい表情を浮かべる。


「恥ずかしながら、私はもう近衛騎士団の団長ではない。王への謁見を許可できる立場に無い」

「なんでそんなことになったんだ?」

「魔石鉱に同行した騎士の中に裏切り者がいた。遺跡のことを、元老院は知ってしまった」

「マジかよ……」


 クロウは顔をしかめる。

 元老院が知ってしまえば、それを帝国に報告するかもしれない。

 そうなれば、余計に帝国と近付いてしまうだろう。


「それは止めないといけねぇな。元老院をぶっ潰せばいいんだろ?」

「そんな単純な話じゃないぜ。王が納得しなければ、政治能力が低下するだけだ」

「かぁーっ、国ってのも面倒なモンだなあ」


 レーガンが頭を掻くが、ラクサーシャは首を振る。


「いや、それで良い。元老院は元々、王への助言機関だ。今の王国では力を持ちすぎている」

「けどよ、それじゃ余計に王国が弱るぜ」

「分かっている。そのためにも、謁見する必要がある」


 ラクサーシャは首を捻るが、なかなか良い案が浮かばない。

 一国の王と謁見することは、以前の将軍という肩書きがあるなら兎も角、今の身分のない状態では厳しかった。


 そこで、クロウが思いついたように手を打った。


「なら、こんな案はどうだ?」


 語られたクロウの案は秀逸で、皆が納得して頷いた。

 セレスの協力を取り付け、謁見への準備が始まった。

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