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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
流浪の王国編

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31話 強者の足取り

 港町に到着した翌日。

 初日の鍛錬を終えたレーガンは学んだことを身に覚えこませようと必死に戦斧を振っていた。

 一方、クロウは体中が筋肉痛に苛まれ、碌に動けない状態だった。


「あの、クロウさん。大丈夫ですか?」

「死にはしないけど、キツイぜ……」


 これだけ体を動かしたのはいつ振りだろうか。

 クロウは戦闘の経験があまり無く、普段使わない筋肉を使ったために体中が痛みを発していた。

 ベルに治癒魔法をかけてもらい、多少は痛みが和らぐ。


「はあ、助かった。ありがとな」

「いえ、私にはこれぐらいしか出来ませんから」

「それでも、十分すごいと思うけどな」


 ベルの神聖魔法は旅する上で非常に役立っている。

 クロウは魔法が使えないが、戦闘面でも役に立ちたいと思っていた。

 実際のところ、彼の情報収集能力は非常に優れているのだが、そこで満足はしていなかった。


 クロウは昨日の鍛錬を思い出す。

 ラクサーシャやレーガンの動きはとても目で追えるものではなく、かなり手加減をされた状態での鍛錬となっていた。

 それでも付いて行くのがやっとで、必死に短剣を振り続けたため腕が上がらなかった。


 だが、昨日に引き続き情報収集をしなければならない。

 気になる話を耳にしてしまったものだから、情報屋としてきっちりと調べておきたかった。


 船乗り曰く、幼い少女だという。

 冒険者曰く、人の形をした竜だという。

 相反する二つの特徴だが、それが一人を指していることまで分かっている。

 それだけの覇気を纏った者ならば期待できるかもしれない。


 体を起こすのは億劫だったが、クロウは体に鞭を打って行動を始める。

 今日の内に正確な情報を得てラクサーシャたちに報告をしておきたいと思った。

 少女の行方を追うには早い方が良い。


 町へ繰り出していくクロウを見送ると、ベルは自室へ戻っていく。

 宿に空きがあったため、男女で分かれて宿泊している。

 必然と、ベルは一人部屋となっていた。


 クロウが帰ってきたのは半日後のことだった。

 宿の食堂で食事をしながら情報を伝える。


「数日前、エリュアスに腕の立つ人間が来たらしい」

「ほう。入れ違ってしまったか」

「みたいだな。どうやら少女らしいんだが、纏う雰囲気が異様だって噂でさ」


 クロウは伝え聞いた少女の特徴を伝える。

 漆黒の鎧、竜牙の双剣、一つ結びにされた白銀の髪。

 当然のことながら、誰も心当たりがなかった。


「白銀の髪ってのが気になるなあ。大陸にそんな特徴の種族なんていねぇだろ?」


 レーガンが腕を組んで唸る。

 大陸各地とまでいかずとも、様々な場所を旅してきた。

 そのレーガンでさえ心当たりがないのだから、少女の種族は分からないだろう。


「大陸の西方に行きゃあ、獣人がわんさといるけどよ。白銀の髪なんて、聞いたことがねぇなあ」

「獣人か。帝国や王国ではあまり見かけんな」

「こっちはあっちと比べると寒ぃからよ、あんまり来るやつがいねぇんだ」

「一度、西方に向かうのもいいかもしれんな」


 獣人は人と獣の特徴を併せ持っており、全体的に人間よりも身体能力が高い。

 強者を求めるならば訪ねるのもいいだろう。

 ラクサーシャが考えていると、レーガンがふと疑問を口にする。


「そういや、エルフって可能性はねぇのか? 銀髪じゃねぇけど、光の加減によっちゃあ見間違えるかも知れねぇ」

「いや、それはない。エルフは既に、帝国が滅ぼした」

「マジかよ……」


 ラクサーシャは当時のことを振り返る。

 火が燃え移るが如く一気に攻め上げ、逃げる暇すら与えずに殺戮した。

 もう十年も前のことだが、鮮明に覚えていた。

 思えば、帝国が仕掛けた侵略戦争はそれが始まりだった。


「で、その少女の足取りを追うのか?」

「うむ。噂相応の実力者ならば、探す価値はあるだろう」

「なら決定だ! 行こうぜ!」


 レーガンがスープを一気に飲み干す。

 食事を終えると、ラクサーシャたちは席を立った。


「それで、少女はどこへ向かったんですか?」

「王国の南西方としか分かってないな。まあ、そっち方面に行けばなにかしら情報は得られるだろうから大丈夫だ」

「うわ、マジか。南西かよ。あっちのほうは魔境に近いから、あまり行きたくねぇんだよなあ」


 魔境とは、魔力濃度が非常に高く人の住むことの出来ない地である。

 大陸の南西へ行けば行くほど魔力濃度は高くなっており、特に濃い地帯は魔境と呼ばれていた。

 魔境には凶悪な魔物が多く、時折境界を越えて現れる魔物は非常に手強い。


「レーガンは魔境のほうに行ったことがあるのか?」

「おうよ。駆け出しの頃に、調子にのって魔境に乗り込んだんだ。そしたらバケモンだらけでよお。徘徊する怨嗟シュライエン・ゲシュペンストほどじゃねぇけど、かなりやばかった」

「それは無謀すぎるだろ……」


 クロウは呆れたように見つめるが、レーガンは豪快に笑うだけだった。

 むしろそれだけの度胸が無ければ冒険者は務まらないのかもしれない。

 クロウはそう思ったが、やはり、レーガンは特殊に思えた。


「魔境か。その近辺ならば、腕の立つ者が多いかもしれんな」


 ラクサーシャも乗り気らしく、レーガンに魔境について話を聞いていた。

 魔境近辺ともなれば、相応の実力がなければ生きていけないだろう。


 そこで、クロウに疑問が浮かぶ。

 なぜ少女は魔境の方へ向かったのか。

 どのような目的があるのかは分からないが、用心した方がいいかもしれないと考えた。


 その日の内に荷物を整理すると、ラクサーシャたちはエリュアスを出た。

 海の美しさに未練が残るが、潮の香りが無くなる頃にはそれも薄れていった。

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