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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
流浪の王国編

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29話 双牙の竜姫

 潮の香りと共に船がやってくる。

 巨大な船が港に停泊すると、乗客たちがぞろぞろと船を降りてきた。

 魔石鉱開放の噂を聞きつけた商人や、稼ぎを得るためにやってきた屈強な冒険者。

 大陸を旅する吟遊詩人もいれば、観光に来た上流階級の人間もいた。


 その中で一人、異彩を放つ者がいた。

 漆黒の鎧を身に着けており、背には竜牙で作られた双剣が交差している。

 一目見て一級品であると分かるだろうそれを背負っているのは、まだ幼い少女だった。


 背丈はまだ子どもくらいだろう。

 だというのに、その目つきは子どものソレではない。

 命のやり取りを生業にする者ならば、少女がどれだけの命を奪ってきたことかが理解できるだろう。

 そうでない者には、ただただ恐ろしく映る。


 白銀の髪を靡かせ、その者は辺りを見回す。

 一つ結びにされた髪が太陽の光を受け、虹色に煌めいた。

 芸術の顕現とも言えるだろう少女に人々は息を呑む。


 鋭い視線を辺りに向ければ、野次馬たちは恐れをなして散っていく。

 彼女に近付ける者がいるとするならば、彼女の実力を理解できない阿呆か、もしくは彼女と同じ天涯の存在か。

 いずれにせよ、エリュアスにはどちらも存在しない。


 港町一帯の気配を察知し、少女は残念そうに首を振った。


「……ハズレなの。次、いく」


 小さく呟くと、少女は歩き始めた。

 その歩みは竜の如く、強者の存在を観衆に思い知らせる。

 背中が見えなくなる頃に、ようやく町はいつも通りの様子に戻った。





 それから数日後。

 ラクサーシャたちは港町エリュアスに到着した。

 潮風の香る町並みは、ラズリスと比べると華やかな印象を与える。


「ほう、ここがエリュアスか」


 ラクサーシャは感心したように呟く。

 帝国は海に面していなかったため、港町というものが初めてだった。

 磯の香りが新鮮で、つい町並みを眺めてしまう。

 ベルもラクサーシャ同様初めてらしく、辺りをきょろきょろと見回していた。


「嬢ちゃんは港町は初めてか?」

「はい。帝国には海がなかったので」

「なら、旨いモンを食わねぇとな。頼むぜ、クロウ」

「やっぱり俺なのか……」


 クロウはがっくりと肩を落とす。

 情報を集めるついでに、それとなく料理屋の話を集めなければならない。

 戦闘ではあまり役に立てていないことを思い出し、クロウはせめてそれくらいはやるべきかと思い直す。


 港町をしばらく歩く。

 やはりミスリルプレートの冒険者であるレーガンは有名らしく、自然と道が開いていく。

 戦鬼の二つ名は広く知れ渡っているようだった。


「やっぱミスリルプレートってすごいな。人が道を開けてくぜ?」

「オレも、昔は喜んでたんだけどなあ……」


 クロウが感心したように言うが、レーガン本人はあまり好ましく思っていないようだった。

 腕を組み、難しそうな表情で唸る。


「オレ程度じゃまだダメだ。ラクサーシャに会って、あのバケモンに会って、まだまだ上がいるってことを思い知らされた。こんなんじゃまだ満足できねぇ」


 首に下げたミスリルプレートを摘み、レーガンは首を振った。

 それまでの自分は未熟だ。

 ミスリルプレートという位置に満足して、それからは碌に鍛錬もしていなかった。


 その結果が、不死者との戦いだ。

 己の未熟ゆえに、そもそも戦うことさえ許されなかった。

 圧倒的強者であると自負していた彼にとって、それは目を覚まさせるには十分な衝撃だった。


 レーガンはラクサーシャに視線を向ける。


「なあ、ラクサーシャ。オレに稽古をつけてくれねぇか? これから先、今のままじゃダメな気がすんだ」

「うむ、勿論だ。折角ならば、クロウもどうか」

「お、俺か!?」


 ラクサーシャとレーガンを見れば、自分より遥かに格上であることが分かる。

 いずれ彼らのような実力者と遭遇していくだろう。

 自分だけ弱いままでは足手まといになってしまう。

 それだけは避けなければならない。


 クロウは少し考え、頷いた。


「そうだな。俺も、戦えるようになったほうが良い」

「うむ。早速、今夜から始めるとしよう」


 ラクサーシャは満足げに頷く。


 しばらく歩き、海辺の宿に宿泊を決める。

 景色が良いため値は張るが、食事付きで味の評判も良い。

 また、近場に冒険者ギルドがあり訓練場を使えるのも決め手となっていた。


 荷物を片付けると、クロウは窓の外の様子を窺う。

 大陸各地から人が来ているようで、方法収集にはうってつけの町だ。


「旦那。俺はちょっと散歩してくるぜ」

「うむ」

「夕食時には戻る」


 そう言うと、クロウはエリュアスの町に繰り出す。

 それを見送ると、ラクサーシャは通信水晶を取り出した。

 ラズリスでの一件や元老院の問題について報告する。


 水晶に魔力を込めると、少ししてヴァルマンとシャトレーゼが映し出された。


『やあ、リィンスレイ将軍。それと、そちらの方は誰かな?』

「オレはレーガンだ。冒険者をやってる」

『レーガンっていうと、あの戦鬼レーガンかな?』

「おうよ。ってか、よくしってんなあ」


 レーガンが驚いたように言う。

 帝国はその荒れ具合から冒険者ギルドがなく、その手の情報は入ってきにくい。

 魔物が出ても帝国の戦力ならばどうにもなるため、余計に冒険者と縁がなかった。


『まあ、ミスリルプレートほどとなれば知っているよ。大陸屈指の実力者だからね』

「そう言ってもらえると嬉しいもんだ。で、そちらさんは誰なんだ?」

『私はヴァルマン・シエラ。解放軍の諜報部隊だよ』

「へえ、そりゃすげぇな。解放軍ってのも結構しっかりしてんだな」


 レーガンは感心したように頷く。

 帝国での出来事は聞いていたが、実際に諜報部隊などの単語を聞くと、改めて復讐の規模を思い知る。


「ヴァルマン。幾つか報告がある。一つは、ラズリスの魔石鉱の奥に、ガーデン教の遺跡があった」

『遺跡か……今までガーデン教関連の情報は無かったからね。こっちから何人か調査に向かわせよう』

「それと、遺跡の奥で不死者と交戦した」

『不死者かい? それはまたすごい相手に会ったね。倒したのかい?』

「倒せんかった。あれは、今の私では厳しいかもしれん」

『それほどの相手かあ……分かった。こっちでも調べてみるとしよう』

「頼む」


 シャトレーゼは報告の内容を紙にメモしていく。

 進行状況を確認すると、ヴァルマンはラクサーシャに視線を戻す。


『報告は以上かな?』

「いや、もう一つある。王国の上層部が帝国に取り入ろうとしている」

『上層部か……どこから聞いたんだい?』

「近衛騎士団のセレス・アルトレーアだ。可能ならば、彼女を影で援助してほしい」

『了解。ラジューレ公爵に連絡を入れておこう。それで、上層部のどこが帝国と繋がっているのかな?』

「元老院だ。まだ行動には移っていないが、王も恭順の意向を示しているらしい」

『そこまできているのか……思ったより事態は深刻だ。すぐにでも対応しよう』


 ヴァルマンは難しそうな表情で頷く。


『それと、こっちからも報告がある。指揮官ガルム・ガレリアが少数の部下をつれて帝国の外へ出た。気をつけてほしい』

「うむ、心得た」


 ヴァルマンとの通信を切断する。

 話を聞いていたレーガンが腕を組んで唸る。


「騎士ってのも結構大変なんだなあ。オレはてっきり、貴族様の前で剣を振ってりゃいいのかと思ってたぜ」


 レーガンは王都で奮闘しているであろうセレスのことが心配だった。

 だが、ラクサーシャは首を振る。


「セレスならば問題ないだろう。彼女は信念を持っている」

「そういうもんか? ま、心配してたってしゃあねぇし、メシでも食おうぜ」

「うむ、そうするとしよう」


 ラクサーシャたちは宿の食堂へ向かう。

 同じ頃、王都ではセレスが一人立ち向かっていた。

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