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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
流浪の王国編

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28話 不穏の月夜

 日が沈み、辺りが暗闇に包まれる頃。

 ラクサーシャたちは草原にキャンプを立てていた。

 焚き火を取り囲み、干し肉のスープを啜る。


 ラクサーシャたちから詳しい事情を聞き終えると、レーガンは予想していた以上の内容に驚きを隠せない。


「かぁーっ、そんなことがあったのか。将軍ってのも大変なもんだな」


 干し肉を咀嚼しながらレーガンが言う。

 もごもごと口を動かしながら喋る彼を見れば、セレスが冒険者に偏見を抱いていたのも仕方ないことだろう。

 ベルはレーガンの行儀の悪さに呆れているようだった。


「レーガンさん、食事はお行儀よくしてください」

「硬いこと言うなって。食事ってのは、オレの数少ない楽しみの一つなんだ」

「それでもです。命をいただくんですから、感謝の気持ちを忘れちゃダメです」

「それぐらいは分かってるっての。オレは命のやり取りで食ってきた冒険者だ。日々、命に感謝して生きてるぜ」


 そう言いつつレーガンは干し肉に豪快に齧り付く。

 帝都やシエラ領の教会で過ごしてきたベルは、レーガンのような粗暴な人間と会ったことがなかった。


 レーガンは適当にベルを宥めると話を戻す。


「にしても、帝国がそこまで腐敗してるなんてなあ。オレが知ってんのは、侵略戦争を周辺国にしていたぐらいだ」

「侵略戦争の理由は不透明だが、何か好ましくない研究をしているのは確かだろう」

「それ、オレたちで止められねぇのか? 直接乗り込んで暴れるとかよ」

「おいおい、それは短絡すぎだろ……」


 クロウが首を振る。

 だが、思い返してみればラクサーシャも単騎で反乱を引き起こした。

 力のある人間は皆こんな思考回路なのかと、クロウはため息を吐いた。


「なあ、旦那。ちなみにレーガンと二人で……いや、そこにシャトレーゼを加えて三人で戦うとしたら、いけるか?」

「難しいだろう。帝国は質と量を兼ね備えている。倒しきるよりも前に、こちらが消耗してしまう」

「だよな……」


 帝国の戦力は異常だ。

 魔導兵装は武の心得が無い人間でさえ竜種と互角に渡り合えるようになる代物だ。

 それが量産されているのだから、とても少人数で戦える相手ではない。


 特に、指揮官クラスとなれば大陸でも屈指の実力者だ。

 同じ重戦士であるレーガンとガルムが戦ったとして、力で押し切れるかは分からない。

 魔導兵装に生まれつきの素質など関係ない。

 皆が等しく悪魔のような力を手に入れることが出来るのだ。


「だけどよお、それは表の情報だろ?」

「うむ。私が知らぬ戦力があるかもしれん。それを考えれば、今の戦力ではまだ足りん」

「そんなバケモンを相手にすんのか。かぁーっ、燃えるじゃねぇか」


 深刻な表情の一同に対し、レーガンはむしろ笑みを浮かべていた。

 冒険者の中でも戦鬼と称えられるだけあり、戦闘狂の気質があるらしかった。


「なら、急いで戦力を集めねぇとな。次はどこに行くんだ?」

「先ずは王国の東へ向かう。そこにある港町ならば、人々の行き来も多いだろう」

「おお、いいじゃねぇか! あそこで食った魚は旨かったんだ!」

「ほう、行ったことがあるのか」

「おうよ。オレはもともと皇国の人間だからよ、船で王国に渡ってきたんだ」

「レーガンさんって王国の生まれじゃなかったんですね」


 ベルが驚いたように言う。

 レーガンの気性は皇国より王国に近いため、予想外だった。


 ラファル皇国は大陸の西側に位置する国である。

 王国を挟み帝国の反対側に位置する国で、アドゥーティス教が最も盛んな国である。

 皇国の民は信心深く、聖典を重んじる真面目な性格をしている。

 レーガンが皇国の出身と言えば、冗談と捉える人が大半だろう。


 ラクサーシャやクロウもレーガンが皇国出身だとは思っていなかったらしく、目を丸くしていた。

 レーガンは豪快に笑う。


「この話をするとみんな同じ顔をしやがる。オレはこんなマジメだってのによ」

「それは……仕方ないと思うぜ」


 クロウは苦笑する。

 干し肉を豪快に食い千切る姿は、とてもそうは見えなかった。


「レーガン。皇国を訪ねたとして、味方に付けられそうか」

「皇国は帝国のことを目の敵にしてるがなあ。あいつらは排他的だから他国と同盟なんて結んだこともねぇし、オレたちに協力してくれるとは思えねぇな」


 どこか棘のあるレーガンの様子から、過去に何かあったことを察する。

 少なくとも、良い思い出を持っているようには見えなかった。


「ならば、皇国は後回しとするか。今は港町で情報を得るとしよう」

「旨いモンも頼むぜ」

「それ、全部俺がやるんだろうな……」


 クロウは肩を落とす。

 戦力を集めるための情報収集なら兎も角、何が悲しくて美味い料理屋を探さなければならないのか。


 目指すは王国の東、港町エリュアス。

 他国の冒険者も訪れるため、強者を探すにはうってつけの場所だろう。

 現在地からは馬車で三日という距離だ。


 夕食を終えると、それぞれが寝る支度を始める。

 明日は早朝から移動を開始するため、早いうちに寝ることになっていた。


「あぁー……ねみぃ。オレはもう寝る」


 レーガンはよほど眠かったらしく、寝転がってすぐにいびきを立てて寝始めた。

 その傍らではクロウが顔をしかめながら毛布に包まっている。

 ベルは女性であるため、一人で馬車の中で寝ていた。


 ラクサーシャは一人、キャンプから離れて岩に腰掛けていた。

 その手にはペンダントが握られている。

 シャルロッテの写真を眺め、ラクサーシャは星空を見上げる。


「シャルロッテ」


 その名を呟く。

 返事は返ってこなかった。

 太陽のように元気な少女は、もういない。


 夜の静寂が余計にもの寂しく感じた。

 煌々と輝く月と、ちっぽけな星々。

 まるで帝国とその他の命を表したかのようだった。

 寂しさはやがて怒りとなり、憎しみとなり、帝国への憎悪で頭が塗り潰される。


 その度に、腰に差した軍刀『信念』を握り締める。

 これは復讐だ。

 しかし、信念を失ってはいけない。

 ラクサーシャは騎士として、信念だけは捨ててはならないと考えていた。


 帝国は非道だ。

 だが、復讐のために己が非道に堕ちてしまえば、騎士として失格。

 誇り高く、信念のある騎士になる。

 先代の皇帝に剣を捧げる際、ラクサーシャはそう約束した。


 それに反するということは、彼の騎士道に反する。

 騎士道に反するということは、騎士としての己を否定するということ。

 故に、違えてはならない。


 少し夜風に当たり、気分の落ち着いたラクサーシャはキャンプに戻る。

 だが、馬車の中からベルの気配を感じられなかった。

 何かあったのかと心配になり、ラクサーシャはベルの姿を探す。


 ベルは少し離れた場所に座り込んでいた。

 シャルロッテに似た美しい金髪が月光に照らされ、先ほどの感傷が蘇る。


 よく見れば、ベルは十字架を握り締めて何かを呟いている。

 ラクサーシャは不思議に思い、声をかける。


「ベル。こんな遅くにどうした?」


 ベルははっとした表情で振り返る。

 だが、それも一瞬のこと。

 十字架を懐にしまうと、いつも通りの表情に戻った。


「いえ。少し眠れなかったので、夜風に当たろうかと思って」

「そうか。しかし、この辺りの空気は冷える。早い内に戻ったほうがいい」

「そうですね。もう少ししたら戻ります」

「うむ」


 ラクサーシャは背を向けて歩き出す。

 誰にだって一人になりたいときはあるのだから、邪魔をするのは良くないだろう。

 そう考え、キャンプへ戻っていく。


 その背後でベルが険しい表情を浮かべていることには、気付くことはなかった。


 キャンプに戻り、ラクサーシャは仰向けに寝転がる。

 寝る前にもう一度だけシャルロッテの写真を眺め、ゆっくりと目を閉じた。

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