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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
流浪の王国編

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24話 ラズリス魔石鉱(3)

 一同は黙々と食事を取る。

 徘徊する怨嗟シュライエン・ゲシュペンストの気配は遠いが、いつこちらへやってくるかは分からない。

 故に、休憩といえど気を抜くことは出来ない。


 ラクサーシャはセレスに視線を向ける。

 その技量は高いが、冒険者であるレーガンに比べると連戦には向いていなかった。

 数名の騎士だけを引き連れて来たことにも疑問が残る。

 討伐隊を派遣するにしても、もう少し戦力を整えられないものなのか。


 黙々と食事を続けていた一同だったが、セレスがぽつりと呟く。


「……食事の伴奏とでも思って、私の話を聞いてほしい」


 そこにはいつもの悠然とした力強さは無く、散り際の花のような弱々しさを感じさせた。

 一同はセレスの話に耳を傾ける。


「今は亡き父は、かつて近衛騎士団の団長だった。今の私では到底及ばない、それこそ剣士殿に並ぶ実力者だった。身内贔屓が入っているかもしれないがな」


 セレスは苦笑する。

 それだけ誇れる父親だった。


「かつて帝国との戦争の際、父は命を落とした。戦場ではなく、床の上で。不治の病だったが、父からしきりに戦場へ連れて行ってくれと懇願された。国に忠義を尽くすのが騎士の誇りであり、生きる意味なのだと。こんなところで死ぬのは御免だと言っていた」


 セレスの表情は硬い。

 少しでも気を抜けば、自分がどうなるかを理解していた。


「許可が下りる頃には父は衰弱しきっていて、再び剣を握ることは叶わなかった。悲しそうに剣を見つめる父に、私は耐えられずに言ったのだ。私が貴方の分まで、国に忠義を尽くすと。だから、安らかに眠ってほしいと」


 セレスの腰には二つの剣があった。

 討伐任務のために用意された剣と、もう一つ。

 何か特別な効果があるわけでもない、しかし特別な剣。

 父の形見に手を添える。


「私はその日からひたすらに剣を振り続け、ようやく父と同じ地位にまでたどり着いた。これでようやく、国に忠義を尽くせる。亡き父の代わりに、剣を振るえると思った。思っていた」


 セレスの表情が歪む。

 肩が震えているのは、怒りか、悲しみか。


「だが、父が不在の内に王国は変わってしまった。誇り高き騎士団は、今や元老院の飼い犬だ。元老院は、帝国と繋がっていると噂されている。これでは、かつて命を賭して戦った騎士たちが……忠義を尽くした父が報われない!」


 一筋の涙が頬を伝う。

 溜め込まれた感情は、一度流れ出せば容易く止まることは無かった。


「全ては帝国のせいだ。王は、帝国を恐れて元老院に従っている。身を差し出して、属国になることを望んでおられる」


 セレスの言葉に、ラクサーシャたちは驚きを隠せない。

 その話が本当ならば、帝国はさらに力を付けることだろう。

 味方に付けるどころか、このままでは敵に回りかねない。


「元老院は私を疎んでいる。今回の討伐隊とて、あまりに小規模。私の失態を狙っている。帝国と戦うべきだと、そう主張する私は間違っているのか……?」


 余程追い詰められているのだろう。

 上層部に睨まれた中で、心折れることなく信念を貫いてきたのだ。

 ラクサーシャは己が帝国の言いなりになっていたことを恥じ、また、セレスの強さに感動を覚える。


「もし私が帝国の将軍――魔刀の悪魔のように強ければ。帝国と渡り合えるほどの力があれば、王もここまで弱気になることはなかったはずだ」

「それは違う。セレス、お前は魔刀の悪魔よりずっと強い。私が断言しよう」

「剣士殿……」


 セレスがラクサーシャに視線を向ける。

 ラクサーシャに父親の影を重ねていた。


「お前の信念は正しい。いずれ、報われるときが来る」


 力強く頷くラクサーシャに、セレスは涙を拭った。

 難しい言葉は要らない。

 ただ、己を肯定してもらいたかっただけなのかもしれない。


 悩みを打ち明けたことで気が楽になっていた。

 セレスは大きく深呼吸する。


「休んでいる暇は無い。今日中に遺跡を見つけ、亡霊を倒すぞ」

「おいおい、オレはまだ食い途中だっての」

「ふん、ならば歩きながら食べれば良い。今は少しの時間とて無駄にしたくはない」

「かぁーっ、落ち込んでたかと思えば、もう立ち直ったのかよ」


 レーガンは急いで昼食をかき込むと、戦斧を担ぐ。

 一同は再び探索を開始した。


 移動を始めてしばらく歩いていると、後方のラクサーシャが声を上げる。


「奴が方向転換をした。かなりの速度で接近している」

「またかよ、勘弁してくれっての」


 レーガンが愚痴る。

 クロウは即座に地図を確認し、逃げ込めそうな場所を探す。


「あっちに狭い通路がある。隠れてやりすごそうぜ」

「おうよ、なら早く隠れねぇとな」


 一同は通路の影に身を潜める。

 少しして、荒々しい足音が聞こえてきた。

 息を押し殺し、気配を可能な限り隠す。

 灯火トーチも消してあった。


 徘徊する怨嗟シュライエン・ゲシュペンストが姿を現す。

 骸骨の奥で揺らぐ二つの蒼炎は、こちらに視線を向けていた。

 不快な叫び声を上げるが、その巨体は通路に侵入できない。

 だというのに、いつまで経っても諦める様子はなかった。


 死霊の様子にセレスは疑問を浮かべる。


「我らに気付いているのか。しかし、なぜ……」

「急に方向転換してきたとなると……もしかしたら、このあたりに遺跡の入り口があるのかもな」


 クロウはそう言うと、地図を取り出す。

 周囲の地形を見て、大雑把に予想を立てた。


「とりあえず反対側に抜けようぜ。あんなのずっと見せられたらさすがにキツい」

「このまま暴れられては、崩落の危険もある。速やかに移動するべきだろう」

「オレが前方、後方はセレスと剣士さんに頼むぜ。お嬢ちゃんは余裕があれば、灯火トーチの数を増やしてくれねぇか?」

「うむ、心得た」

「分かりました」


 ベルは先ほどよりも多く灯火トーチを発動させる。

 クロウの見立てどおりなら、この近くに遺跡の入り口がある可能性が高い。

 見逃さないために、ベルは灯火トーチに集中する。


 背後の徘徊する怨嗟シュライエン・ゲシュペンストを警戒しつつ、クロウの予想した方向へ向かっていく。

 おぞましい怨嗟の声は遠ざかっていき、しかし、いつまでも聞こえ続けていた。


 かすかに聞こえる叫び声に、一同の精神が消耗していく。

 現れる魔物は移動するにつれて質が高くなっていく。

 勝てないほどではないが、連戦をするには厳しい相手だった。

 隊列を組み直し、前衛三人がかりで魔物の相手をする。

 

 道中の危険度が上がったこともあり、クロウの予想した場所へつく頃には皆が疲弊していた。


「ほう、これが遺跡か」


 ラクサーシャたちの前方には石造りの遺跡があった。

 内部はかなり広いらしく、迷宮のような造りになっている。

 そう簡単に探索しきることは難しいだろう。


 しかし、予定よりも早く遺跡を見つけることが出来たのは幸いだった。

 セレスは遺跡の入り口を見て、安堵の息を吐いた。


「ようやくというべきか……予定よりは早いが、ここまで疲れるものとは」

「神話級なんてバケモンがいたんだ、しゃあねぇよ」


 レーガンは肩を回す。

 ベルの魔力も消耗しており、クロウも緊張が解けたためか腰が抜けていた。

 セレス自身も、剣を握る手に力が入らなくなっていた。

 今日はこれ以上の続行は難しいだろう。


 セレスは剣を鞘にしまうと皆に振り返る。


「今日は帰るとしよう。明日からは総戦力で突入し、可能な限り探索する」


 セレスは懐から転移魔法の効果を持つ魔道具を取り出す。

 位置情報を記録すると、魔石鉱から脱出した。

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