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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
流浪の王国編

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21話 探索準備

 ラクサーシャが宿に戻ると、まだ二人は起きていた。

 ベルはクロウから先ほどの出来事を聞いており、事情は理解しているようだった。


「それで、どうなったんだ?」

「彼らと協力して、魔石鉱の亡霊を倒すことになった」

「へえ、あれでよく話が纏まったな」


 クロウは先ほどの光景を思い出す。

 殺し合う寸前まで来ていたあの二人が、手を取って戦えるようには思えなかった。

 ラクサーシャは笑みを浮かべる。


「二人とも根は善人だ、話し合えば理解し合えるだろう」

「そういうもんか。まあ、纏まったならそれに越したことはないけどな」


 クロウは首を傾げつつ、とりあえずは納得することにした。


「それで、今後の行動は?」

「明日の朝、町の西に集合する。魔石鉱までは数刻ほど歩くようだ」

「了解。着いたらすぐに魔石鉱に入るのか?」

「うむ。一度、魔石鉱の中を見ておく必要がある。明日は様子見といったところだろう」


 そう言うと、ラクサーシャはベルに視線を移す。


「ベルはどうする?」

「私も、魔石鉱の中までついて行きます。神聖魔法があれば、探索も捗ると思いますし」


 ベルはラクサーシャから貰ったメイスをきゅっと握る。

 ベルの神聖魔法は治癒魔法や灯火トーチ、さらには攻撃魔法も使用が可能だ。

 死霊の巣窟へ向かうならば、これほど相性が良い人材はいないだろう。


「人は無理ですけど、魔物なら倒せます」


 ベルの覚悟を聞いて、ラクサーシャは満足そうに頷いた。

 翌日に備え、ラクサーシャたちは睡眠を取る。




 朝日が地平線から頭を覗かせる頃。

 ラズリスの南にはラクサーシャたちが集まっていた。

 横ではセレスが腕を組み、顔をしかめていた。


「遅い! いつまで待たせる気だ!」


 セレスが声を荒げるのを部下の騎士たちが必死に宥める。

 まだ集合時間より早いのだが、短気な彼女は待たされるのが嫌いだった。

 腕を組みながら行ったり来たりを繰り返すセレスに、騎士たちはおろおろとするばかりだ。


 そろそろ限界だろうと思われたとき、ようやくレーガンたちが現れる。

 といっても、集合時刻よりも余裕はあるのだが。

 レーガンは片手を上げて陽気に笑う。


「よお、早いじゃねぇか」

「貴様が遅いのだろう! この私を待たせるとは何事か!」

「つっても、まだ集合時間まで半刻はあるじゃねぇか」

「集合時間の問題ではない、私を待たせるのが問題なのだ!」

「えー……」


 セレスの暴論に、レーガンは助けを求めるように仲間たちに視線を向ける。

 だが視線を逸らされ、レーガンは肩を落とした。

 セレスに詰め寄られているレーガンを余所目に、クロウが声を潜めて言う。


「なあ、旦那。全然仲良さそうに思えないんだけどよ」

「だが、昨日のような殺気は感じない。気にせずともいいだろう」

「うーん、喧嘩するほど仲が良いとはいうけどな……」


 クロウは二人の様子を見てため息を吐いた。


「全員揃ったようだし、そろそろ自己紹介といこうぜ」


 セレスに詰め寄られるレーガンを不憫に思い、クロウが助け船を出す。

 レーガンはクロウに小さく頭を下げると、自己紹介を始める。


「まずはオレたちからだな。オレたちは冒険者パーティ『雷神の咆哮ブリッツ・ブリューレン』だ」


 レーガンの仲間たちが次々に名を名乗る。

 全体的に攻撃よりなパーティらしく、前衛は戦士三人、後衛は魔術師二人となっていた。


「ほう、治癒術師はいないのか」

「おうよ。喰らう前にぶっ潰せってのが、このパーティの方針だ」

「そりゃあ……危なっかしいな」

「まあ、ポーションをたくさん持ってるからな。なんだかんだ平気なんだ」

「そ、そうか……」


 クロウが苦笑いするが、レーガンたちは豪快に笑っていた。

 次に、セレスたちに視線を向ける。


「我らはエイルディーン王国の誇る精鋭、近衛騎士団だ。今回の討伐任務に備え、対死霊系の武器を揃えてある」


 セレスが剣を鞘から抜くと、皆に刀身を見せる。

 一見すると装飾の施された剣にしか見えないが、ラクサーシャはその剣の内まで見通していた。


「魔道具か。聖属性の付与……剣の内部に術式を刻んであるのか」

「さすがは剣士殿。その通りだ」


 セレスはそう言うと、剣に魔力を込める。

 刀身から白炎がゆらゆらと立ち上った。


「この剣にかかれば、並みの死霊など一刀に斬り伏せられる。剣士殿の手を煩わせるまでもない」

「ほう、それは楽しみだ」


 ラクサーシャは笑みを浮かべる。

 これほどの実力者が揃っているのだ、面白いものを見られるかもしれないと期待するのは当然のことだろう。


 皆の視線がラクサーシャたちに向けられる。


「次は私か。私は大陸を旅する剣士だ。すまないが、名は事情があって言えん」

「俺はクロウ・ザイオン。情報屋だ」

「私はベル・グラニア、治癒術師です」


 ラクサーシャについては予め説明があったらしく、セレスの部下もレーガンの仲間も気にしている様子はなかった。

 また、ベルが治癒術師を名乗っているのは、単純にガーデン教の名が帝国の象徴であるためだ。

 服は帝国を出る際に着替えてあるため、彼女がガーデン教のシスターであることを知るのはラクサーシャたちだけだろう。


 それぞれが自己紹介を終えると、早速行動を開始する。

 セレスが町で調達した馬車を見せる。


「食料は一週間分用意してある。これだけあれば、魔石鉱の攻略は問題ないはずだ」

「一週間分……オレたちゃ結構食うからな。五日ってところだな」

「貴様ぁ……少しは節制をしろ!」

「んなこと言われてもよぉ。しばらくは戦い詰めになるんだ、メシが唯一の楽しみなんだ」

「ふん、これだから冒険者は好かん。食料の配分は我らが担当するからな」

「かぁーっ、騎士様にはこの気持ちはわからねぇってか」


 レーガンが悔しそうに言う。

 最も、食料を用意したのはセレスたちであるため、これ以上言うつもりはないようだった。


 馬車は四つに分かれており、一台が食料用となっている。

 それぞれが馬車に乗り込むと、魔石鉱へ向けて出発した。


 道中は平原が広がっているだけで、魔物と遭遇することはなかった。

 他の冒険者たちが既に魔石鉱へ向かっているのだろう。

 馬車に揺られながらしばらくすると、草木が少なくなり、やがて岩だらけになった。


 そして、魔石鉱に到着する。


「ここがラズリス魔石鉱だ。探索する前に、まずはキャンプを立てておきたい」

「うむ。キャンプを立てるならば見張りが必要だろう」


 実力を見るならば、この中ではラクサーシャ、セレス、レーガンの三人が飛び抜けているだろう。

 他に前衛は騎士四人、戦士二人、クロウ。後衛が魔術師二人とベルだ。

 この大所帯で行くには、魔石鉱は狭いだろう。


 レーガンがセレスに視線を向ける。


「魔石鉱の奥にある遺跡を見つけるまでは、最小限の人数で行くべきだろうな。じゃねぇと、狭くて武器を振り回せねぇ」

「ああ、そうするべきだ。効率を考えるなら、私とレーガン、剣士殿。それに後衛を二人入れてパーティを組むのが最善だろう」


 そうして皆で話し合った結果、一人目はベルが選ばれた。

 魔石鉱の死霊との相性や、神聖魔法の利便性からである。


「後一人だが……」


 セレスがレーガンの仲間に視線を向ける。


「そこの魔術師二人。使える属性はなんだ?」

「俺たちは炎魔法使いです……」


 後ろめたそうに魔術師二人が言う。

 『雷神の咆哮ブリッツ・ブリューレン』というパーティ名だというのに雷魔法を使えないと聞き、セレスの眉がつり上がった。


「炎魔法は酸素を奪ってしまう。開けた空間に出るまでは待機だろう。だが、これでは後衛が足りないではないか」


 セレスが辺りを見回し、クロウに視線を向ける。


「そこの情報屋。お前は何が出来る?」

「お、俺か? あんまり戦闘は得意じゃないんだけどな……あるとすれば、マッピングくらいか」

「ふむ……遺跡の方では有り難いが、魔石鉱では必要な能力ではないな」


 セレスが懐から地図を取り出して見せた。

 ラズリスの町で炭鉱夫から借り受けたものである。


「なら、俺も待機か……」


 クロウががっくりと肩を落とす。

 だが、ラクサーシャがそれを止める。


「クロウ。お前にはベルの護衛を頼みたい。それならば問題ないだろう?」

「まあ、それぐらいなら俺でもやれそうだ。けど、後衛の魔術師が一人で良いのか?」

「問題はない。魔法ならば、私も一通り使えるからな。皆もそれで良いか?」

「剣士殿がそう言うなら、私に異論はない」

「オレもそれでいいぜ」


 セレスとレーガンが頷く。

 魔石鉱の探索はラクサーシャ、セレス、レーガン、ベル、クロウの五人となった。

 当面はこの五人で遺跡の入口を捜すことになるだろう。


「よっしゃあ、早速いこうぜ!」

「貴様ぁ、勝手に仕切るな!」


 セレスに詰め寄られ、レーガンが必死に宥める。

 兎にも角にも、魔石鉱の探索が始まった。

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