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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
流浪の王国編

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20話 共闘

 ラズリスの町は炭鉱夫が多いことから酒場が多かった。

 仕事帰りには毎日のように酒場に通い、安価なエールを片手に騒ぐ彼らだったが、冒険者たちが現れてからはそうもいかなくなっていた。


 以前、冒険者と炭鉱夫の間でいざこざがあり、乱闘騒ぎが起きた。

 無論炭鉱夫たちが適うはずもなく、現在では冒険者の陰でひっそりと酒を飲むことしかできない。

 腕っ節の強い者たちが集まっているせいか、武器を持たない炭鉱夫たちは飲み騒ぐことが出来ないでいた。


 酒場の一角で愚痴る炭鉱夫たちを気にも留めず、冒険者たちは酒を飲み暴れ回る。

 酔った勢いで机を叩き割るような輩も出てくる始末だったが、店員は怒ることも出来ずおろおろとしているだけだ。

 時には冒険者から因縁を付けられることもあるため、酒場に寄り付かなくなる者も増えてきている。

 それ故に酒場側も、冒険者からを相手に強く出られないでいた。


 それを分かっているからか、冒険者たちもやりたい放題だった。

 飛び交う怒声は、夜明けるまで止むことはないだろう――普段ならば。


 酒場の扉が開かれ、三人組が来店する。

 瞬間、酒場内が一斉に静まり返った。

 酒場の中には、声を潜めて話す者さえいない。


 先頭を歩くのはスキンヘッドの大男、戦鬼レーガンだ。

 優に二メートルはあるだろう身の丈に、丸太のように太い腕。

 その身に刻まれた無数の傷から、歴戦の強者であることが察せられる。


 その次に続くのは、赤き髪の女騎士セレスだ。

 その美貌もさることながら、若くして近衛騎士団の団長を務める実力。

 悠然と歩く様は、見る者を平伏させるだけの力強さがあった。


 王国で彼らを知らぬ者はいないだろう。

 冒険者でも最高ランクを誇るミスリルプレートの戦鬼レーガンと、近衛騎士団の団長セレス・アルトレーア。

 なぜこの二人が揃っているのかを考える間もなく、客たちの視線は三人目の男に釘付けになる。


 ある戦士は、彼の身のこなしに僅かな隙もないことを察し冷や汗をかく。

 ある魔術師は、彼の内に秘められた膨大な魔力にただただ戦慄する。

 その腰に差した刀からは大魔法具アーティファクト級の威圧感を感じる。


 ラクサーシャを前にして、誰もが呆然と見つめることしか出来なかった。


 三人は酒場の一角に席を取ると、適当な料理と酒を注文する。

 最初に口を開いたのはレーガンだった。


「それで、共闘ってのは具体的になにをするんだ?」

「ふん、冒険者風情と共闘など……っ!」


 セレスが声を荒げようとするが、ラクサーシャの視線に射抜かれて閉口する。

 ラクサーシャが視線を外すと、セレスはほっとしたように息を吐いた。


「先ほど言った通りだ。近衛騎士団から派遣された討伐隊とレーガンのパーティ。それに私と私の仲間を加え、協力して魔石鉱の亡霊を倒す」

「近衛騎士団を甘く見られては困るな、剣士殿。私たちならば、そこにいる大男と組まずとも戦える」

「その根拠はどこにあるというのだ? 亡霊の強さなど、まだ分からんだろう」

「ふん。所詮は魔物、我らにかかれば容易い」


 鎧に刻まれた近衛騎士団の紋章に手を当て、セレスが自信満々に言い放つ。


「わりぃけど、近衛騎士団で足りるとは思えねぇな」

「なんだとッ!」


 凄まじい形相で身を乗り出すセレスに、レーガンは首を振る。


「別に挑発の意図があるわけじゃねぇ。事実として、魔石鉱の亡霊は異常な強さを持っている」

「貴様になぜ分かる!」

「――ダチが死んだんだよ。オレと同じく、ミスリルの冒険者がな」

「なっ……」


 セレスは絶句する。

 ミスリルの冒険者が死んだという事実ではなく、友を失ったというレーガンの言葉に対しての驚きだった。


「オレは仕事としてこの依頼を受けるのと同時に、あいつの敵討ちをしてぇんだ。だから、騎士さんよ。さっきのことは謝る。オレたちの同行を許可してくれ」


 レーガンは立ち上がると、頭を深々と下げた。

 先ほどは頭に血が上っていたが、共闘という手段が提示された以上、仕事を奪い合う必要もない。


 レーガンの真摯な姿勢に、セレスも否とは言えなかった。


「……ふん、勝手にすると良い」


 セレスが承諾すると、レーガンはもう一度頭を下げて席に着いた。

 ラクサーシャはそれを見届けると、本題に戻る。


「この町や王国のことを考えれば、行動は早い方が良い。明日の朝には出発できるようにしておいてくれ」

「それはいいが……剣士殿。行動を共にするなら、せめてもう少し貴殿のことを知っておきたい」


 セレスの問いにラクサーシャはどこまで話すかを考える。

 彼の信念が、共に戦う者に不義理な行動をすべきではないと言っていた。


「私は旅をしている。大陸の各地を巡り、腕の立つ者を求めているのだ」

「流浪の剣士というわけか。しかし、剣士殿程の実力者が、そういるとは思えないな」

「オレたちも腕っ節に自信はあるがなぁ。あんたから見れば、まだまだひよっこなんだろうな」

「いや、二人も相当な実力者だろう。謙遜する必要はない」


 ラクサーシャはそう言うが、二人の表情は優れない。

 先ほどの一幕で、自分たちが彼の足元にも及ばないことを理解してしまったからだ。

 もしラクサーシャが本気を出したならば、一分の足止めさえする自信がなかった。


「剣士殿。実力者を求めて、貴殿は何を成そうというのか」

「私の成すことは――復讐だ」


 それを聞いた途端、二人は固まってしまう。

 ラクサーシャから溢れ出る殺気は、自分に向けられてはいないと理解していても恐ろしさを感じた。

 その眼光に、何よりも強烈な憎悪を感じる。


 ラクサーシャは二人の目を見据える。


「二人に助力を願いたい。どうだろうか?」


 急な話に二人は戸惑う。

 が、セレスは自分の鎧を一瞥し、口を開く。


「すまない、剣士殿。私は王に忠誠を誓った身ゆえ、復讐に手を貸すことは難しい」

「オレは、そうだなぁ。あいつの仇が取れたなら、手伝うのも悪くねぇかもな」


 セレスの反応は予想していた。

 だが、レーガンの好意的な返答に驚いてラクサーシャは身を乗り出す。


「良いのか?」

「おうよ。オレのパーティは結構年な奴が多くてなぁ。敵討ちを終えたら解散するかって話が出てたから、一人旅でも始めようと思ってたんだ。オレなんかでよければ、力になるぜ」

「そうか……感謝する」


 ラクサーシャは想定よりも早く協力者を得られたことに驚き、また、レーガンの人の良さに感謝する。


 その後は食事をしつつ、明日からの予定を話し合った。

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