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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
流浪の王国編

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18話 ラズリスの亡霊

 エイルディーン王国は帝国の南側に位置する。

 かつては帝国と戦争中であったが、長きに渡る戦争により両国の疲弊が激しかったため、帝国が先代の皇帝の時に停戦協定を結んだ。

 現在では目立った武力衝突も無いが、現在の帝国の様子からいつ開戦するか分からないと言われている。


 岩山や荒野の多い帝国領に対し、エイルディーン王国は緑豊かな大地が広がっていた。

 魔石鉱などもあり、非常に土地に恵まれた国である。

 見渡す限り草原が続いており、ベルは馬車に揺られながら新鮮な空気を堪能していた。


「いい空気ですね。帝国ではこんな美しい景色は見られませんでした」

「エイルディーンは土地に恵まれている。それ故に、かつては帝国と戦争状態にあった」


 ラクサーシャは周囲を警戒する。

 人間にとって住みやすいということは、魔物も繁殖しやすいということだ。

 王国は帝国に次ぐ大国であるため、魔物を野放しにするようなことは少ないだろうが、それでも帝国よりは数が多くなってしまう。


 尤も、帝国の過酷な環境で育った魔物と違い、王国の魔物は低級が大半である。

 大型の魔物が出ることは稀であり、出たとしても冒険者ギルドに依頼が張り出されるか、もしくは王国の騎士団が駆り出される。


「王国騎士団は帝国よりも練度が高い。味方に付けられるならば心強いだろう」

「問題は、どうやって味方に付けるかだな。一国の王に謁見するなんて、そう簡単に出来ることじゃないぜ?」


 クロウはそう言うと、密使の男に視線を向ける。


「なあ、ヴァルマンはどこまでコネがあるんだ?」

「一番権力があるのは王国の四大貴族の一人、アルバ・ラジューレ公爵ですね」

「ラジューレ公爵っていうと、ちょうど今いるところとは真逆か」

「そうなりますね。同行するより、ここら辺で別行動に移る方が得策かと思います」


 ラクサーシャは二人の会話を聞きながら地図を見る。

 ラジューレ公爵領は王国の南側で、現在いる場所は王国の北側だ。

 距離を考えれば、今は二手に分かれて別行動をした方が効率がいい。


 見れば、前方に町が見えてきた。

 魔物除けの壁に囲まれた町で、規模は並といったところだろう。

 ラクサーシャは密使の男に視線を戻す。


「ならば、私たちは徒歩で王国を回るとするか。上層部の方は任せた」

「了解です、リィンスレイ将軍。私も通信水晶を持ち歩いていますので、何かあれば連絡をしてください」

「うむ、心得た」


 やがて町の近くまで来ると、ラクサーシャたちは馬車から降りた。

 しばらく馬車に乗ったままだったため、足を軽く動かして体をほぐす。

 遠ざかる馬車の姿を見送ると、ラクサーシャたちは町の中へ入った。


 この町の名をラズリスと言う。

 草原に囲まれた場所にあるのだが、近くに魔石鉱があるため、しばしば魔物が現れることがあった。

 町の周囲に現れる魔物は低級ばかりのためあまり危険はないのだが、稀に魔石鉱から大型の魔物が出て来ることもある。

 幸い、ラクサーシャたちが馬車に乗っている最中に遭遇することはなかった。


 町の中は人通りが多く、活気に満ちている。

 魔石鉱が近くにある割には、埃っぽさもなく小綺麗な町だった。

 石造りの建物が規則的に建っており、旅人に優しい造りになっている。

 辺りをきょろきょろと見回し、少し前を歩いていたベルが二人に振り返る。


「とても賑やかですね。シエラ領より人が多い気がします」

「確かに賑やかだけどよ、やけに物騒だ」


 クロウは道行く人々を観察する。

 冒険者と思われる、武器を背負った男たちが闊歩しており、どうにも町の雰囲気とは合っているようには思えない。

 そのほとんどがかなりの実力者らしく、その威圧感にクロウは肩身が狭く感じた。


「なんにせよ、まずは宿を探そうぜ。行動拠点がないと動きにくいからな」

「うむ、そうしよう」


 ラクサーシャたちは町を歩き始める。

 落ち着いた雰囲気のこの町に冒険者が集うのは非常に不自然で、何か大型の魔物が現れたのではとクロウは予想する。

 しかし、それにしても異常な数の冒険者がいた。


 しばらく町の様子を見ながら歩くと、手頃な宿を見つけて中に入った。

 案の定、宿の中は冒険者でいっぱいだった。

 受付のカウンターにはふくよかな中年の女性がいた。


「なあ、男二人と女一人なんだけど、部屋は空いているか?」

「うーん、一部屋なら空いてるけどねぇ……」

「なら、それで良いぜ」

「あら、良いのかい? 分かったわ」


 女将は簡単な受付を済ませると、クロウの顔をまじまじと見つめる。


「アンタも魔石鉱の亡霊を狩りに来たクチかい?」

「亡霊だって? そんなもんがいるのか」

「まさか知らないでラズリスに来たのかい? あたしゃてっきり、他のやつらみたいに亡霊を倒して一攫千金を狙いに来たのかと思ったよ」

「その話、詳しく教えてもらえないか?」

「え? まあ、別に構わないけどねぇ……」


 クロウが予想以上に食いついてきたため、女将はやや困惑気味に語り始めた。


「この町は昔から炭鉱で魔石を取って生計を立てていたんだけどねぇ。少し前に誰かが遺跡を掘り起こしちゃったみたいなのよ。そしたら死霊が出るわ出るわで、魔石鉱が死霊に占拠されちゃってねぇ。町では墓を荒らされた亡霊の祟りだって噂が広まってるわ。けど、魔石鉱が使えないと生きていけないからって冒険者ギルドに依頼をしたのよ」

「それで冒険者がこんなに集まってたのか」


 クロウは納得したように頷く。

 真剣に考える姿が亡霊を狩りに行こうとしているように見え、女将が制止する。


「でも、アンタみたいな細っこいのはやめといた方がいいわ。最近も有名な冒険者が魔石鉱に向かったけど、そのまま帰ってこなかったのよ」

「マジかよ、それは怖いな」

「悪いことは言わないから、よしておきなさい」

「ああ、忠告は肝に銘じておくぜ」


 クロウは女将に礼を言うと、ラクサーシャたちと共に部屋に向かった。

 必要最低限の情報は揃ったが、もう少し調べておくべきだろう。

 女将だけでなく、実際に魔石鉱へ向かった冒険者に話を聞いた方がいい。


 クロウは荷物を置くなり、すぐに行動を開始する。


「旦那。俺は情報収集をしてくるぜ」

「分かった。私は一度、ヴァルマンに連絡を入れておこう」

「了解。それじゃ、行ってくるぜ」


 ラクサーシャとベルに見送られ、クロウは情報収集へ向かった。

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