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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
狂乱の帝国編

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間話 シャルロッテの誕生日作戦

 ラクサーシャには一人娘がいる。

 その名をシャルロッテと言い、母親譲りの美しい金髪が特徴の少女である。

 まだ子ども故にあどけなさを残しているが、将来は美人になるだろうと周囲から言われていた。


 そんなシャルロッテは今、自室の机に向かっていた。

 机の上には彼女が書いた設計図と、様々な魔石。

 そして、帝都の装飾品店で購入したロケットペンダントが置いてあった。


 シャルロッテは指先に魔力の刃を作り出すと、楕円形のロケットペンダントに模様を刻み込んでいく。

 高密度の魔力によって鮮やかな切り口で描かれたのは、アドゥーティス教の象徴である片翼の十字架だった。


 シャルロッテがそれを作っているのには訳があった。

 長い間国外で戦っているラクサーシャが、久々に屋敷に帰ってくるからだ。

 明日はラクサーシャの誕生日であるため、シャルロッテはプレゼントをしたいと考えていた。


 せっかくならば、いつも身につけられる物が良い。

 なかなか家に帰ってこられないのだから、自分の写真を入れたい。

 そう思ったシャルロッテはロケットペンダントを送ることに決めたのだ。


 シャルロッテは母親に似て器用なため、ペンダントの出来栄えは非常に良かった。

 色とりどりの魔石を散りばめるなどして煌びやかな装飾を施されたそれは、アクセサリーとして一級品の出来となっている。

 だが、彼女はそれだけでは満足しない。


 再び指先に魔力の刃を作り出す。

 先ほどまでよりも真剣に、シャルロッテは魔石を繋ぐように模様を描いていく。

 少しでも線が歪めばやり直しになってしまう。


 描いているのは彼女が独自に編み出した術式だった。

 シャルロッテはもともと魔導具に興味があり、ラクサーシャに買って貰った魔導具を分解して独学で作り方を学んでいた。

 幼い頃からそれを続けてきたシャルロッテは、既に自作できるほどの知識と技術を持っていた。


 二時間ほど経過すると、シャルロッテは額の汗を拭いた。

 完成した術式に魔力を通し、魔法の発動を確かめる。

 動作の確認を終えると、シャルロッテは安堵のため息を吐いた。


 シャルロッテはペンダントを机の上に置くと、手鏡を取り出す。

 髪の乱れを手櫛で直すと引き出しを開ける。

 取り出したのは箱型の魔導具だった。


 箱型の魔導具を顔の前に持って行くと、シャルロッテはにっと笑った。

 魔導具が光を発すると、中から一枚の紙が現れる。

 魔術式投影機と呼ばれるそれは、人間の姿を映し出す高価な魔導具だった。


 写真を何度か取り直すと、気に入った写真をペンダントに合うように切り取った。

 ペンダントに写真を入れると、最後に少し大きめの魔石を取り付ける。

 魔石には複雑な術式が刻まれていた。


 シャルロッテはペンダントを机の上に乗せると、両手を突き出す。

 すうっと息を吸い込むと、その体から魔力が溢れ出した。

 ラクサーシャ譲りの膨大な魔力がペンダントに流れ込んでいく。


 精神を集中させる。

 少しでも気が散れば、魔力の流れが乱れてペンダントが砕け散ってしまう。

 少しずつ、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。

 やがて魔力が枯渇寸前になると、シャルロッテは作業を終えた。


「ふふ、出来たっ!」


 それまでの真剣な様子から一変し、シャルロッテはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを露わにする。

 魔力を使い果たして疲れ切ってはいたが、それ以上に達成感があった。


「お父様、喜んでくれるかなぁ……」


 出来上がったペンダントを眺めながら、シャルロッテは呟いた。


 窓の外を見れば、夜も更けていた。

 シャルロッテはベッドに潜り込むと、明日に期待を馳せながら眠りについた。




 カーテンの隙間から朝日が射し込み、シャルロッテは目を覚ました。

 窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 シャルロッテはカーテンを開けると、太陽の位置を確認した。


「早起きしちゃったかしら。私ったら、よほどお父様に会うのが楽しみなのね」


 まだ空の色は淡く、町を見れば人影もほとんどなかった。

 シャルロッテは窓を大きく開けると、朝の空気を胸一杯に吸い込んだ。

 町の静けさとは対照的に、彼女の心は躍っていた。


 少しして、部屋の扉がノックされた。

 入ってきたのはシャルロッテの専属のメイドだ。

 メイドはシャルロッテが起きているのを見ると目を丸くした。


「お早うございます、シャルロッテ様。珍しく早起きなのですね」

「当たり前じゃない。今日はお父様が帰ってくるのよ。寝坊なんてしてたらお祝いの準備ができないわ」

「そうですね。ラクサーシャ様もさぞお喜びになるでしょう」


 メイドはシャルロッテの様子が微笑ましく感じた。


「アンネリース、一番かわいい服を持ってきて。今日はとびっきりお洒落するわ」

「ええ、そういたしましょう」


 メイドのアンネリースは数分と経たずにドレスを持ってきた。

 シャルロッテの美しい金髪を引き立てられるような赤いドレスだ。

 アンネリースに着せてもらうと、シャルロッテはその場でくるりと一回転する。

 ドレスのスカートがふわりと広がり、金髪がさらさらと舞った。


「どうかしら?」

「とても可愛らしいです。まるで人形のよう」

「そう? ふふ、お父様が帰ってくるのが楽しみだわ」


 シャルロッテは姿見を見て、嬉しそうに笑った。


「そうだ、せっかくだからお父様に手料理を作ってあげたいわ」

「それは良い考えですね。すぐに厨房の用意をさせましょう」


 アンネリースは近くにいたメイドを呼びつけると、厨房への伝言を任せる。


「さあ、アンネリース。早く行きましょう」

「まだお食事を作るには早いかと。ラクサーシャ様がお帰りになるのは夜ですからね」

「言われてみればそうね。でも、そうしたら暇になっちゃうわ」


 シャルロッテは首を傾げて考える。

 すると、アンネリースが尋ねる。


「シャルロッテ様、贈り物の準備は大丈夫でしょうか?」

「ええ、完璧よ!」


 シャルロッテは自信満々と言った様子で返事をすると、机の引き出しからペンダントを取り出した。

 アンネリースはそれを見ると、頬をひきつらせた。

 ラクサーシャ譲りの膨大な魔力が込められたペンダントは、大魔法具アーティファクトに匹敵するほどの魔力を感じさせた。


「……シャルロッテ様」

「ふふ、ほめていいのよ」

「流石にやりすぎかと」


 そう言われ、シャルロッテは改めて自分の作ったペンダントを見る。

 中を開けると自分の写真が入っており、その出来栄えに頬を緩ませた。

 だが、よく見てみると膨大な魔力が込められており、その異様さを理解する。


「確かにこのままじゃダメね。――隠蔽アオスブレンデン


 シャルロッテが魔術を使うと、途端にペンダントから感じた威圧感が消え去った。

 正しくは覆い隠したのだが、アンネリースは剥き出しよりは良いだろうと判断しそれ以上は言わなかった。

 何より、シャルロッテが愛情を込めて作った物なのだから、メイドの自分が口を挟む必要はないと思った。


「シャルロッテ様」

「なにかしら?」

「折角ですから、飾り箱にでも入れてはどうでしょうか?」

「それはいい考えね! いっそのこと、屋敷中を飾り付けるのはどうかしら?」

「それは良いですね。では、屋敷の者総出で取り掛かります」

「私も手伝うわ。なにかをやっていないと落ち着かないもの」

「では、一度服を着替えた方が宜しいかと。動きやすい服を持ってきますので、少々お待ちください」

「ええ、任せたわ」


 こうしてラクサーシャの誕生日祝いの準備が着々と進んでいった。

 そして夜になると、ラクサーシャが帰宅する。

 玄関から物音が聞こえ、シャルロッテは自分の部屋を飛び出した。


「おかえりなさい、お父様!」


 階段を慌ただしく駆け下りてきた娘の姿にラクサーシャは頬を緩めた。

 シャルロッテはラクサーシャに抱きつく。


「うむ、今帰った。良い子にしていたか?」

「もちろんよ。今日だって、アンネリースが起こしに来る前に起きたわ」

「それは偉いな」


 ラクサーシャはシャルロッテから視線を外す。

 そこでようやく、屋敷の異変に気付いた。


「これは……」


 屋敷の中が色とりどりの紙で飾り付けられていた。

 驚いたように辺りを見回すラクサーシャに、シャルロッテが小さな箱を手渡した。


「ふふ、お父様。誕生日おめでとう!」

「誕生日……そうか、今日は私の誕生日だったか……」


 ラクサーシャはそこでようやく、今日が自分の誕生日だったことに気付いた。

 戦いばかりの日々で、そんなことを気にする余裕が無かったからだ。


「開けて良いだろうか?」

「もちろんよ」


 ラクサーシャは大切そうに箱を開け、ペンダントを取り出す。

 美しい装飾を施されたペンダントを見て、感心したように息を吐いた。


「これは、シャルロッテが作ったのか」

「そうよ。お父様がいつまでも元気でいてくれるようにって、心を込めて作ったのよ」

「そうか……ありがとう」


 ラクサーシャはシャルロッテの頭を優しく撫でる。

 母親に似て優しい子に育ったものだと、ラクサーシャは嬉しく思った。

 ラクサーシャが手を戻すと、シャルロッテは名残惜しそうな表情をし、微笑んだ。


「お父様。誕生日のお祝いのために、がんばって手料理も作ったのよ」

「ほう、それは楽しみだ。ならば早く食堂へ行こうか」

「ええ、行きましょう」


 シャルロッテはラクサーシャの手を引いて食堂へ向かう。

 その日はラクサーシャにとって、最高の誕生日となった。

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