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139話 絶対的強者(2)

「怯むなッ! まだ、戦いは終わっていない!」


 セレスの声が凛と響き渡る。

 それによって、レーガンの士気が再び最大限にまで高まった。


「そうだ、まだ終わってねぇ! オレは、こんなところで終わるわけにはいかねぇんだ!」


 レーガン戦斧を構え、リアーネを睨み付ける。

 それに倣うように、クロウが妖刀『喰命』を構えた。


「俺も、こんなところで死ぬのは御免だな。聖女だろうと何だろうと、殺して現世に帰るんだ」


 クロウの体から黒炎が立ち上る。

 揺らめく炎を見て、リアーネが驚いたように目を見開く。


「貴方、東国の……。へぇ、道理で……」


 ニヤニヤと愉快そうに笑みを浮かべる様子は、やはり悪魔だった。

 リアーネが手を翳すと、無数の魔方陣が展開された。


 そして、極大の熱線が撃ち出された。


「妖刀『喰命』よ――彼の者を喰らい尽くせ」


 展開された黒炎の障壁が熱線を受け止める。

 衝突の余波で周囲の地面が抉れていくも、黒炎の障壁はまるで堪えていなかった。

 それを見て、リアーネがやはりといった様子で頷く。


「やっぱり、妖刀『喰命』だったのね。劣等が使っているせいで、全く気付けなかったわ」


 リアーネが嘲り嗤う。

 対して、クロウの表情は険しい。


「どうやら、当代の契約者は妥協で選ばれたようね」


 興味を失ったように、リアーネがクロウから視線を外した。

 そして次に、セレスに向けられる。


「その瞳。どれだけ窮地に陥ろうと、決して折れない信念。さっきの掛け声も、中々良かったわよ?」

「貴様に賞賛されて、喜ぶと思ったか」

「あら残念。この私が褒めているというのに、随分と偉そうね」


 ――嗚呼、気に食わない。


 その呟きと共に、極大の熱線が放たれた。

 セレスが身構えるも、熱線は急に軌道を変えて飛んでいく。

 視線を向ければ、レーガンが戦斧を振り抜いた姿勢で立っていた。


「貴方は……少しばかり見苦しいわね。実力は申し分無し。これで見目麗しい剣士なら、手元に置いても良かったのだけれど」

「誰がてめぇなんかの下に付くかよ。オレは、オレの仲間のためにしか戦斧は振るわねぇ」

「思い上がりも甚だしいわね。貴方のような粗野な男なんて、こっちから願い下げよ」


 ――やはり、気に食わない。


 その呟きと共に、極大の熱線が放たれた。

 レーガンが紫電を迸らせて身構えるも、熱線は彼の元に辿り着く前に掻き消えた。

 視線を向ければ、エルシアが恐怖心を押し殺して剣を構えていた。


「破魔剣オルヴェル……忌々しい、あの男を思い出す。貴女は、かつての私になら勝てたでしょうね」

「今のあんたにも、あたしは負けないわ」

「威勢だけは良いけれど、現状を理解したほうが良いわよ?」


 ――本当に、気に食わない。


 リアーネから発せられる気配が変わる。

 底冷えするような冷酷な瞳。

 その内には強烈な殺意の衝動を秘めていた。


「愚かしい。本当に愚かしい。脆弱な人間の在るべき姿は、情けなく地に這って命乞いをすること。だというのに……」


 リアーネの視線が一同に向けられる。

 絶対的強者を前にして、どうしてこうも強気でいられるものなのか。

 苛立ちが、表情に滲み出ていた。


「なぜ、この私に跪かないッ!」


 ゆらりと、虚空に魔方陣が浮かび上がった。

 これまでのソレとは一線を画す規模。

 極大魔法をも超越するそれを、この世界は形容する言葉を持たない。


 だが、強いて言うならば。

 それは、絶対的な破滅を齎すもの。

 滅びの魔法だ。


「劣等で、条理さえ解せない。ならいっそ、殺してしまえばいいのよ」

「世迷言を……ッ」


 セレスが剣を握る手に力を込める。

 どれだけ言葉を返そうと、全てが無駄だった。

 滅びの魔法を前にして、生身の人間に出来ることは無い。


「世迷言、それで結構。これからは、それが条理になるのだから」


 リアーネは狂っていた。

 それは後天的なものではない。

 生まれつき、彼女は狂っていたのだ。


「私こそが、現世を統べるに相応しい。決して、ラファル皇国のような綺麗事ばかり並び立てる劣等共ではない……ッ!」


 故に、ガーデン教が生み出された。

 大陸で盛んなアドゥーティス教が、彼女には気に入らなかったのだ。


 アドゥーティス教は美しすぎる。

 実在する神々を崇拝していることは、魔術の才に恵まれてた彼女だからこそ理解していた。

 空想の神を讃えている訳ではないのだから、アドゥーティス教は栄えている。


 それがリアーネには気に食わなかった。

 自分こそ至高、自分こそ天上。

 リアーネ・ベーゼ・オルクスこそ、この世を統べる神に相応しいと本心から思っていた。


 かつて、自分の歩みを阻んだアドゥーティスの使徒ヴァハ・ランエリス。

 神々の加護を受けた彼に、リアーネは一度敗北した。


 だが、今は違う。

 体に満ちる魔力のなんと強大なことか。

 靡く金髪の、なんと美しいことか。

 最高の肉体を手似れた彼女は、確かに神に相応しいほどの格を持っていた。


 故に、リアーネは詠う。

 自分こそが神に相応しいのだと、世界に向けて詠うのだ。


「私が何者か教えてあげる。天上にして至高。絶対的な超越者。だから跪け、劣等共――私こそが女神なのダズ・ヘヒステ・ヴィーゼン


 魔方陣が起動する。

 極大の魔力が術式を駆け巡り、金色の魔力光がリアーネを照らした。

 あまりの威力に、魔方陣の起動だけで大地が震える。


 エルシアたちに滅びの魔法が襲い掛かる。

 力を合わせたところで防ぐことは不可能な威力。

 死を齎す絶対的な魔法が迫る。


 絶望的な光景を前にして、皆が諦めずにいた。

 まだ、終わっていない。

 命ある限り、決して諦めてはならない。

 彼ならば、如何なる状況にあろうと決して諦めないと知っているからだ。


 そして、その時が訪れる。

 死を眼前に控え、永遠とも思えるほどに時間が長く感じていた。

 皆の視線が、間近に迫る金色の閃光に集まっていた。


 故に、次の瞬間には皆が歓喜した。

 滅びの魔法が、たった一人の男によって掻き消されたのだ。


 軍刀『執念』を手に、ラクサーシャが皆の前に立っていた。

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