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138話 絶対的強者(1)

 魔界とは人智を超越した世界。

 現世では神話級と呼ばれる魔物でさえ、魔界では常識的な存在だ。

 周囲から恐ろしい気配を感じつつ、一同はその奥へと歩みを進める。


 リアーネの魔人兵は現世へ出払っている。

 魔物の気配に注意さえすれば、危険に晒されることは無かった。


 エルシアは歩みを進める度、強大な気配に近付いていくのを感じていた。

 一歩、また一歩と進む度に足が重くなっていく。

 自分とはあまりにもかけ離れて過ぎているのだ。

 震えを押し殺すように、エルシアは剣を握る手に力を込めた。


 突如、景色が移り変わる。

 荒れ果てた大地が水晶の城へ。

 かと思えば、死屍累々の廃墟へ。


 忙しなく移り行く景色は幻想か、あるいは現実か。

 感覚が狂うほどの移り変わり。

 ふと、ロアが口を開く。


「此れは、かつての戦争か」


 周囲を見回せば、苛烈な戦場の光景。

 咽返るほどに濃厚な死の臭いが充満した世界。

 戦いに慣れている一同でさえ、この光景はあまりにも残酷に見えていた。


 だが、それも束の間の事。

 幾許かの時間を彷徨い続けた一同の前に、ようやく終わりが見えた。


 それは、どこまでも続く階段だった。

 硝子のような透き通った階段が、暗い空の果てまで続いている。

 その奥に、強大な気配があった。


「かぁーっ、これを進むのかよ」


 レーガンがうんざりした様子で呟いた。

 道中で見た様々な光景。

 神代の記憶に触れて、一同の精神は消耗していた。


 だが、この先に成すべき事が残っている。

 聖女リアーネを殺し、全てを終わらせるのだ。

 神代から続く凄惨な物語を。

 そして、彼らの長きに渡る復讐劇を。


 一歩踏み出せば、自然と足が動いた。

 永遠とも思えるほどの長い階段。

 上り終えた先に、悪魔がいた。


「あら、やっと来たのね」


 不愉快な、甲高い声が辺りに響く。

 周囲に浮遊する水晶の柱に、悪魔のような相貌が映し出されていた。


「随分と待ち侘びたわ。この私を待たせようだなんて、無礼にも程があるわ」

「偉そうに……ッ!」


 エルシアが殺意に満ちた目で睨み付ける。

 彼女の復讐劇は、様々なものと絡み合って複雑なものになっていた。

 それは、途中でエルシア自身が混乱してしまうほどに。


 だが、今では何をするべきかが明瞭だ。

 目の前にいる悪魔リアーネ

 全ての元凶であるこの女を殺す。

 己の命を賭してでも、確実に殺さなければならない。


 強烈な殺意に当てられて、リアーネが返したのは苛立ちの表情だった。


「無礼だと、何度言わせれば気が済むこの劣等がッ!」


 極大の熱線がエルシアを襲う。

 全力で魔法障壁を構築しても、なお防ぐことの出来ない極大魔法。


 だが、エルシアには抗う術がある。


「はぁあああああッ!」


 全ての魔力を込める勢いで、エルシアが剣を構えた。

 破魔剣オルヴェル。

 かつて、ヴァハ・ランエリスがリアーネを殺した魔剣。


 その威力は健在だった。

 剣に魔力が満ち、極光を放ち始める。


 エルシアは剣を思い切り振り下ろす。

 術式破壊レジストが、リアーネの熱線を切り裂いた。


「小娘がぁッ!」


 だが、それは遥か昔、神代での出来事だ。

 今のリアーネは、過去の彼女とは比べ物にならないほどに力を増している。


 浮かび上がったのは、空を覆いつくすほどの無数の魔方陣。

 その全てが、先ほどエルシアに放った極大の熱線を打ち出すものだった。

 これら全てを防ぐことは、エルシアの力では不可能だ。


 雨のように降り注ぐ熱線。

 絶望的な状況。

 だが、エルシアの表情に諦めの色は無い。


 彼女には仲間がいた。

 苦楽を共にしてきた旅の仲間が。


「喰らいやがれ――降雷裂波ブリッツ・シュラーク・ヴェレ


 紫電が迸る。

 レーガンの咆哮と共に、雷鳴が轟いた。


「奥義――烈火の一閃グリューエン・デーゲン


 灼熱が薙いだ。

 セレスの叫びと共に、業炎が爆ぜた。


「妖刀『喰命』よ――彼の者を喰らい尽くせ」


 黒炎が空を蝕む。

 クロウの命令に応え、空が黒く染まる。


 三人の奥義が合わさり――降り注ぐ熱線と衝突する。

 全てを防ぐことはかなわない。

 だが、最低限でいいのだ。

 自分たちが凌げさえすれば、それで十分だ。


 周囲の空間が崩壊していく。

 足場が崩れ、抉れ、失われていく。


 だが、それでも耐え抜いた。


 愕然とするリアーネに、左右からロアとシェラザードが肉迫する。

 片方は、蒼炎を纏った不死者の拳。

 もう片方は、竜種の力を秘めた漆黒の鉄槌。


 振り下ろされた二つの拳は、しかし、リアーネには届かない。


「塵芥でも、やれば出来るじゃない」


 リアーネの両腕が左右に突き出されていた。

 片方がロアの拳を、もう片方がシェラザードの拳をそれぞれ掴んで離さない。


 彼女の意識は手中の二人には無い。

 感心したように、エルシアたちを見つめていた。


「人の身で極大魔法を凌ぐ。これがどれだけ凄いことか分かっているの?」


 掴んでいた二つの拳を握り潰し、リアーネが笑みを浮かべた。

 背筋がゾクリとするようなおぞましい表情。

 そして、リアーネが嗤う。


「極大魔法っていうのは、本来はこういうものなのよ?」


 極大の熱線が二つ。

 左右に向けて、リアーネの手から撃ち出された。

 向かう先は二人の強者――。


 ロアとシェラザードが極大の熱線に飲み込まれた。


 エルシアたちは、その光景を呆然と眺めることしか出来なかった。

 不死者になる前のラクサーシャと同等か、それ以上の存在。

 自分たちでは全く届かない領域にいる二人。


 その二人が、一瞬にして消し飛んだのだ。


「ありえない、こんなの……」


 弱気な言葉が、エルシアの口から零れ落ちた。

 本人でさえ自分の言葉に驚きが隠せない。


 リアーネは、あまりにも格が違いすぎたのだ。

 圧倒的な極大魔法。

 絶対的な能力。

 彼女こそ、最強だというのか。

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