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129話 城壁を越えよ(3)

 セレスがレイナと剣を交えている時、少し離れた場所ではクロウとレーガンが戦場を駆けていた。


「レーガン、十時の方角から敵が来るッ!」

「おっしゃ、いくぜ!」


 レーガンは戦斧『雷神の咆哮ブリッツ・ブリューレン』を召喚する。

 その身に漆黒の鎧を装着すると、迫り来る帝国軍の兵に向き直る。


「喰らいやがれ――降雷裂波ブリッツ・シュラーク・ヴェレ


 戦斧を振り下ろすと紫電が迸る。

 生半可な手合いでは防ぐことさえかなわない一撃。

 レーガンの最大にして唯一の技が唸る。


 大地を伝う紫電によって一帯の帝国兵が蒸発する。

 だが、レーガンたちがいるのは敵地の奥。

 休む間も無く帝国軍が押し寄せる。


 だが、レーガンはそれさえも上回る。

 戦鬼と称されるに相応しい戦いぶり。

 幾千もの兵士が押し寄せようと、戦斧を振り回して戦場を荒らしていた。


 その傍らにいるのがクロウだったことも幸いだった。

 レーガン一人では戦場慣れしておらず、存分に力を振るうことは難しい。

 だがそこにクロウの戦況分析と判断が加わることによって、迫り来る兵の全てを押し返せるほどの殲滅力を得ていた。


 だが、戦場は単騎で支えられるほど甘くは無い。

 その証拠に、第二城壁の奥から新たに足音が聞こえてきた。


 現れたのは帝国が誇る騎士団だった。

 その手に持った剣からは不純な魔力が漏れ出している。

 悪魔を模した鎧を見れば、彼らが帝国軍の最大戦力であることが窺えた。


 非道な研究によって生み出された兵器――魔導兵装。

 それを装備した騎士の数は千人。

 戦場全体を見渡せば大した数ではないだろう。

 だが、帝国騎士団はたったの千人だけで周辺諸国を滅ぼしてきた実力がある。

 

「ようやく本命のお出ましってか!」


 レーガンが肩を唸らせる。

 犬歯を剥き出しに、ギラギラと闘争心に溢れた瞳を前方に向ける。


「けど、さすがに数が多いな」


 クロウは敵の数を見て呟く。

 二人は第二城壁のすぐ近くで戦っているのだ。

 であれば、そこから現れた帝国騎士団全員と剣を交えることになってしまう。


 仕方ないとばかりに、クロウは妖刀『喰命』を虚空から呼び出す。

 これを後方に通してしまえば連合軍の被害が大きくなってしまう。


 まだ後方にはヴァルマンがいる。

 彼の近くにはシャトレーゼとザルツがおり、また彼の隠密部隊も控えている。

 だが、彼らでは帝国騎士団を相手にすれば分が悪すぎた。


「レーガン、俺たちで出来る限り数を減らしておこう」

「おうよ!」


 二人は武器を構えて帝国騎士団を迎え撃とうとした時――上空に魔法陣が浮かび上がる。

 魔力の気配に顔を上げたときには、既に光の雨が降り始めていた。


「妖刀『喰命』よ――彼の者を喰らい尽くせ」


 クロウが剣を翳し上げると、雨を阻むように黒炎が展開された。

 防御に関してはシェラザードの全力の一撃をも耐える黒炎の障壁。

 降り注ぐ光の雨の全てを防ぎきった。


 だが、その隙は大きかった。

 クロウが光の雨に対処していた時、迫り来る帝国騎士団を相手取っていたのはレーガンのみ。

 気づけば、二人は帝国騎士団に取り囲まれていた。


 レーガンは険しい表情を浮かべる。

 流石の彼でも、これだけの数を相手取ることは厳しかった。

 全てを倒すことよりも、この場をどう切り抜けるべきかに思考を切り替える。


 だが、クロウの視線は第二城壁の上に向けられていた。


 綺麗な装飾を施されたメイスを翳し上げ、その女性は魔術を詠唱していた。

 まるで歌っているかのような美しい詠唱。

 彼女が歌う度、上空に魔方陣が展開される。


 光の雨を齎した魔術師。

 裏切りの修道女。

 ベル・グラニアが連合軍をかき乱す。


 ベルがこれほどの大規模魔術を扱えるとは。

 クロウは驚くと共に、やはり自分たちは騙されていたのだと思い知る。


 一瞬だけ、クロウとベルの視線が交差する。

 美しい声色で詠う彼女の表情は歪だった。


 しかし、今はベルに意識を裂く余裕は無かった。

 視線を戻せば、大量の帝国騎士が剣を構えている。

 一斉に攻撃されてしまえば、二人では対処しきれない。


 クロウは妖刀『喰命』を翳し上げ、手札を切る。


「――来い、閉門の楔パルフェ・ランクェスッ!」


 主の呼び声に天が応じた。

 それは、大地を揺るがす咆哮。

 遥か彼方から、青白く輝く巨竜が現れた。


 帝都の上空に現れた巨大な竜。

 その背に巨大な魔方陣を発生させ、再び咆哮する。


 それは、広域に渡る術式破壊レジスト

 生命を除く、あらゆるものの魔力を消し去る魔術。

 帝国が誇る魔導兵装とて例外ではない。


 二人を取り囲んでいた帝国騎士が体勢を崩す。

 魔導兵装から供給される力が失われ、感覚の違いに体を上手く動かせずにいた。

 過ぎた力を得ただけでは、本物には勝てない。


 レーガンは戦斧を構える。

 周囲を取り囲む騎士たちは、もはや脅威足り得ない。

 無駄に重い鎧を着込んだだけの的だ。


 紫電を迸らせ、戦斧を振るう。

 それだけで、三桁を超える騎士が吹き飛んだ。


「おっしゃ、ぶっ潰してやるぜ!」


 勢いを取り戻したレーガンが、戦斧を振り回しながら騎士たちを葬る。

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