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128話 城壁を越えよ(2)

 ラクサーシャの攻撃によって第一城壁が崩落した。

 城壁の上にいた帝国の魔術師たちは大半が魔力放射に飲み込まれ、それを逃れた者たちも殆どが城壁の崩落に巻き込まれた。

 残った魔術師では連合軍を迎え撃つことは出来ず、遂に城壁内部へと侵入を許した。


 残す城壁は第二城壁。

 これを越えれば、その先に皇帝の首が待っているのだ。

 勢い付いた連合軍が富裕区に侵攻する。


 遥か前方に第二城壁が聳え立つ。

 かつて施されていたアドゥーティス教の華美な装飾は今や見る影も無い。

 物々しい壁が有るのみだった。


 帝国軍の迎撃は第一城壁のときよりも大人しくなっていた。

 第一城壁と違い多数の魔術師を乗せることは出来ず、迎撃をするには人数が心許無い。

 飛来する魔法も数が少なく、連合軍側の魔術師が展開する魔法障壁によって全てが阻まれていた。


 富裕区を燃え盛る炎の如く駆ける連合軍。

 その前方で、第二城壁の巨大な門がゆっくりと動き出す。


 金具の軋む音、地を擦る重低音。

 第二城壁の門が内側から開けられた。


 連合軍をを招こうというわけではない。

 その証拠に、石床を駆ける金属の足音が響く。

 城壁の内側から現れたのは、帝国軍の総戦力だった。


 その数は連合軍に僅かに劣る程度。

 逆に言えば、それだけの戦力を帝国が有しているのだ。

 装備の差を考えれば、押し負ける可能性も十分にある。


 迫り来る帝国軍の兵士を前に、連合軍も迎撃体制に入る。

 魔国の魔導砲が魔力を収束し始め、他の魔術師たちも魔術を構築していく。

 他の兵たちも、剣を手に取って帝国軍を迎え撃たんと身構える。


 その先頭にラクサーシャがいた。

 城壁の内部に入ってしまえば、隊列などは意味を成さない。

 そのため、彼の傍らには旅を共にした仲間たちが集っていた。


「行くぞッ!」


 ラクサーシャの掛け声と共に連合軍が動き出す。

 場所は帝都の市街地だ。

 地の利で言えば、土地勘のある帝国軍の方が遥かに有利だろう。


 だが、それを覆すのが彼らだ。

 物量差をも一人で覆し得る、一騎当千の強者たち。

 連合軍の兵を引き連れ――両軍が衝突する。


 始まる乱戦。

 其処彼処で断末魔が響き渡る戦場。

 直撃すれば死を免れない魔法が飛び交っている。

 血飛沫に身を染めながら、ひたすらに武器を振るい続けるのだ。


 敵味方が入り乱れて戦う中、セレスは一人の人物を視認する。

 混沌とした戦場の中を、涼しげに突き進む女性。

 連合軍の兵が斬りかかるも、軽くあしらわれた挙句に首を切り落とされてしまう。


 刹那、セレスの瞳に殺意の衝動が宿った。

 あの女は、決して逃してはならない。

 剣に灼熱の炎を纏わせ、その人物に斬りかかる。


「はあああああッ!」


 甲高い金属音が戦場に響いた。

 激情に染まる瞳が、凍えるような怜悧な瞳と交差する。

 相手はセレスとは対極的に、凍てつく氷を細身の剣に纏わせていた。


 補佐官レイナ・アーティス。

 港町での屈辱を晴らすべく、セレスは拮抗する剣に力を込める。

 その剣幕に僅かに体勢を崩され、レイナは後方へ飛び退いた。


「その気迫……」


 レイナがセレスの表情を見て、感心したように呟いた。

 そしてすぐに、その表情が冷たさを帯びる。

 無感情な顔をして、レイナは剣を構えた。


「港町での屈辱、晴らさせてもらおう」

「はあ、そうですか。威勢が良いのは構わないですが、やるだけ無駄かと」


 レイナの挑発的な言葉に対して、セレスの表情は一切動かない。

 激昂していないわけではない。

 ただ、怒りが限界まで振り切っているだけだ。


「覚悟ッ!」


 セレスが一気に間合いをつめる。

 乱戦状態では、味方を巻き込む氷魔の領域ペルマ・フロストは使えない。

 であれば、レイナは通常の魔術しか使えないのだ。


 剣術に自身のあるセレスは、それさえも使う暇を与えずにレイナを封殺しようと考えていた。


「無駄だと、言っているでしょうに……!」


 レイナの体に術式が浮かび上がる。

 彼女は帝国の生体人形の中でも特別製。

 単純な身体能力であれば、セレスでは遠く及ばない――はずだった。


「――ッ!?」


 再び交差する剣。

 だが、セレスの剣はあまりにも重い。

 どれだけ魔力を注ぎ込もうと、レイナはセレスを押し返すことが出来ない。


 拮抗した状態に苛立ちを感じるレイナ。

 対照的に、戦えていることに安堵するセレス。

 能力に開きのある二人だったが、別の要素でセレスが上回っていた。


「恐れているのか?」


 セレスの言葉に、レイナははっとなる。

 今、自分が浮かべている表情は何なのか。


 眼前の、気高き騎士の顔つき。

 対するレイナは、何を思って剣を振るうというのか。


「――恐れてなどッ!」


 魔力効率も考えず、強引にセレスを押し返す。

 生命の危機は脱したものの、今の打ち合いでは完全にレイナの負けだった。


 再びセレスが剣を構える。

 立ち上る炎は、心なしか先ほどよりも大きくなっていた。


 次に打ち合えば確実に死ぬ。

 そんな恐怖がレイナの心を支配していた。

 体が震えているのは、決して寒さが原因ではない。


 このままいけば勝てる。

 セレスに確信が生まれた瞬間、レイナが詠唱を開始する。

 当然、それを遮ろうとセレスが間合いを詰めようと駆け出す。


 だが、その行く手を閃光が遮った。

 上空の魔方陣から、閃光が雨のように降り注ぐ。


「くッ――魔法障壁!」


 セレスは魔法障壁を展開して耐え凌ぐ。

 幸いというべきか、それは彼女の魔法障壁を破壊するほどの威力は持っていなかった。


 しかし、その隙にレイナは詠唱を完成させてしまう。


此の地こそヒーア・ラントゥ・ヴァス――氷魔の領域ペルマ・フロスト


 極寒の領域が、乱戦中の敵味方を問わず呑み込んだ。

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