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126話 フェーレアリア平原の狂戦(2)

 帝都への行く手を遮る民兵たち。

 ロアの広域魔法による殲滅は、何十万もの命を消し飛ばした。

 だというのに、民兵の数が減っているようには見えなかった。


「帝国の民全てが煽動されているとでも言うのかッ!」


 ラクサーシャが苛立ちを顕にする。

 帝国がこれほどまでに腐敗しているとは。


 もはや情けをかける余地は無い。

 帝国全てを滅ぼす勢いで、連合軍側から魔法が放たれる。

 轟音と共に放たれる魔法の数々によって、決して少なくない数を葬ったはずだった。

 しかし、その勢いは増すばかりだった。


 際限無く現れる民兵たち。

 ラクサーシャを始め、連合軍側の強者たちが攻撃を開始する。

 惜しみなく魔力を注ぎ込み、民兵たちを葬っていく。


「――行くぞッ!」


 ラクサーシャが刀を構える。

 その身に纏う魔力が激しく明滅し、これから放たれるであろう技の凄まじさを予期させる。

 僅かな間を置いて、ラクサーシャが刀を振り抜いた。

 刹那、前方の民兵が消し飛んだ。


 だが、ラクサーシャはその程度では終わらない。

 振り抜かれた刀が、即座に次の一太刀へと移る。

 彼の刀が縦横無尽に駆ける。


 ラクサーシャが刀を振るう度、大地が抉れ、民兵が消し飛ぶ。

 裂地と呼ばれるそれは、彼の奥義である断空を連続で使用する技だった。


 しかし、それほどの技を以ってしても民兵の物量を押し返すことはかなわない。

 連合軍の何倍もあろうかという大軍が凄まじい勢いで迫ってくるのだ。

 どれほどの力を持っていようと、この差を覆すことは容易ではない。


 既に民兵との距離は詰まってきていた。

 彼我の距離が失われていき――遂に民兵と衝突する。


 凄まじい勢いで連合軍の隊列を崩していく。

 其処彼処で戦闘が行われ、命が失われていった。

 混沌とした光景だったが、存外に連合軍側の被害は少なかった。


 練度では明らかに連合軍のほうが上だった。

 未熟さが目に付く動きで武器を振るう民兵に対して、連合軍側の兵士は冷静に対処していく。

 まともな鎧を身に着けているのだから、隙間を狙われさえしなければ恐れるほどの相手ではなかった。


 しかし、物量に問題があった。

 次々と押し寄せる民兵に、徐々に連合軍の兵が飲み込まれていく。

 どれほど練度に差があろうと、敵軍に飲み込まれてしまえば成す術が無い。


 襲い来る民兵の波。

 次々に仲間が飲み込まれていけば、兵士たちの心に恐怖が生まれてしまう。


 ラクサーシャは付近の民兵を消し飛ばすと声を上げる。


「怯むなッ! 敵はもはや大軍ではない!」


 長時間の交戦によって、途方も無い数の民兵を葬っていた。

 気付けば、民兵の数も終わりが見えてきていた。


 半ば恐慌状態に陥っていた兵たちに士気が戻る。

 数を減らした状態ならば、敵は烏合の衆でしかない。

 魔核薬で正常な思考を失った相手ならばなおさらだった。


 ラクサーシャの鼓舞によって連合軍は民兵たちを押し返す。

 やがて全ての民兵が地に伏すと、ようやく一同は一息ついた。


 ラクサーシャが刀を鞘に納めると、そこにヴァルマンがやってきた。


「恐ろしいものだね。帝国は全てを注ぎ込んで連合軍を潰す気みたいだ」

「狂っている。この果てに何があるのか、私には分からん」


 ラクサーシャは憤慨していた。

 アウロイに、そして皇帝に。

 血が滲むほど硬く握られた拳が怒りの度合いを物語っていた。


 かつては良き皇帝の下に栄えた帝国。

 積み重ねてきた歴史が、一刻にして失われたのだ。

 現皇帝の所業は、決して許されるものではない。


「帝国も追い詰められているというのか。しかし、まだ正規軍が現れんのが不自然だ」

「あるいは、これさえも目的なのかもしれないね。アウロイが何を考えているかは分からないけど、この先には何か恐ろしいものが待っていそうだ」


 ヴァルマンは身震いする。

 相手は常識の通用する相手ではないのだ。

 帝国の民全てを魔核薬で狂わせ、煽動して民兵として利用する。

 これほど恐ろしい所業は、大陸史において過去一度として存在しない。


「いずれにせよ、すぐに分かることだ」


 ラクサーシャは険しい表情で前方を見つめる。

 眼前に広がる巨大な都市。

 連合軍は遂に、帝都へと辿り着く。

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