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118話 戦鬼の刻

 出撃までは一週間の猶予があった。

 本来は長い船旅を経て、さらに馬車で陸路の移動もあった。


 ラクサーシャたちが閉門の楔パルフェ・ランクェスの背に乗って空を移動してきたため、物資の搬入はまだ終わっていなかった。

 出撃まで最短でも五日。

 万全を期して、一週間の猶予を設けていた。


 しかし、それは建前だ。

 これから死に行くラクサーシャに、仲間たちと過ごす猶予を用意したのだ。

 彼自身は死を贖罪と考え、一刻も早く解決して死ぬべきだと考えている。

 それでも少しくらい猶予を与えるくらいは、アドゥーティスの神々もお許しになるだろうとのことだった。


「よお、ラクサーシャ。今からメシでも食わねぇか? さっき、良い肉が入ったみたいなんだ」

「ほう、それは良い。早速向かうとしよう」


 レーガンに誘われ、ラクサーシャは食堂へ向かう。

 時刻は丁度昼時だった。

 物資の運搬や訓練で疲弊した兵士たちが賑やかに食事を取っていた。


 ラクサーシャとレーガンが食堂へ入ると、それに気付いた兵士たちが一斉に敬礼した。

 それを満足げに眺めた後、ラクサーシャは食事を続けるように促す。

 一時的に静まり返った食堂だったが、すぐに賑やかさを取り戻した。


 料理が運ばれてくると、レーガンは手をすり合わせて舌なめずりする。

 肉の塊といってもいいほどの厚切りステーキが運ばれてきたのだ。

 レーガンはフォークを手に、肉に喰らいつく。


「うめぇ! やっぱ肉は最高だ!」


 肉を喰らい、酒を飲み。

 豪快に食事を勧めるレーガンを好ましく思いつつ、ラクサーシャもステーキをナイフとフォークで切り分ける。

 一口ほどの大きさに切ると、その肉を口に運ぶ。


「ほう、中々に上質な肉だ。王国の西部……ライファ草原の角兎ホーンラビットか」

「おお、当たりだぜ! よくわかるな」

「ライファ草原の角兎ホーンラビットは肉質が柔らかく、仄かに甘みがある。大陸でも、あの場所でしかこの肉は得られん」

「はぁー、すげぇモンだな。ま、オレは肉なら何でも良いけどな」


 そういって、レーガンは肉に喰らいつく。

 彼からすれば、食事は質よりも量だった。


 ラクサーシャはそんなレーガンに苦笑しつつ、酒を呷る。

 肉のこってりした脂を麦酒ビールで流し込めば、弾ける炭酸と喉越しで爽快さが味わえる。

 これならば、飽きずに肉を堪能できるだろう。


「なあ、ラクサーシャ」


 食事の最中に、レーガンが手を止める。

 じっとラクサーシャを見つめていた。


「オレは他の皆みたいにあんまり頭良いことは言えねぇ。けどよ、一つだけ言える事がある」


 その表情は真剣だ。

 レーガンはどこか震える声で、しかし力強く語る。


「確かに、ラクサーシャの背負ってるものは重い。重すぎる。それを償うために覚悟を決めることは、きっとすげぇことなんだと思う」


 だが、とレーガンは続ける。


「オレは、もういいんじゃねぇかって思うんだ。もう、十分苦しんだはずだ。そうだろ、ラクサーシャ」

「……すまない」


 ラクサーシャはその選択肢を断る。

 申し訳なさそうに、大切な仲間への謝罪を込めて。


「だよなぁ……」


 レーガンは残念そうに肩を落とす。

 だが、すぐに気を取り直して酒を呷る。


「かぁーっ、やっぱメシ食ってるときは最高だ!」


 その決意を曲げることは出来ない。

 ならばせめて、残った猶予は大切に使いたい。


 レーガンは普段通りの振る舞いで、肉を喰らい続けた。

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