表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/157

間話 聖女の目的

 聖女リアーネ・ベーゼ・オルクス。

 ガーデン教の教祖にして頂点、さらにはアクロ帝国の王女として君臨していた女性。

 彼女には君臨者に足る素質があり、彼女自身もそれをよく理解していた。

 それ故に、大勢から聖女と称えられるほどに上り詰められたのだ。


 ガーデン教の教義は過激だ。

 当時、大陸で最も盛んだったアドゥーティス教に刃先を向けるような思想。

 だというのに衰退しなかったのは、単に彼女の能力があったからである。


 リアーネには魔術の才もあった。

 彼女を除く、全ての魔術師が成し得ないほどの領域。

 彼女だけが、魔道の極みに至っていた。


 魔力収束。

 それはリアーネが最も得意とする技術だった。

 限界まで威力を高められた炎は、熱線と呼ぶ方が相応しかった。

 それほどまでに、リアーネは魔法を圧縮することに長けていた。


 戦場に出れば、彼女は自陣の奥から敵の軍勢を焼き払った。

 時には視認さえ困難な距離にいる敵大将を狙撃したこともあった。

 君臨者たる素質と、負けを知らぬ戦いぶり。

 彼女の元には、自然と人が集まってきた。


 アウロイはその中でも古参の一人だった。

 彼女がガーデン教を開いたとき、真っ先に賛同したのが彼だ。

 魔術の才はリアーネに劣るものの、様々な魔法技術でガーデン教に貢献した。

 最終的に、彼もリアーネの領域に追い付くことになる。


 世界の壁を破壊せよ。

 神々の支配から逃れるのだ。

 成し遂げたとき。

 喜べ、君は自由だ。


 リアーネはこう囁いて、兵を集めていった。

 そのほとんどが暴れたいだけのならず者だった。

 彼らを除いたとして、アドゥーティス教への不満を持つ者ばかり。

 ガーデン教を心から信じている者はほとんどいなかったのだが、リアーネはそれを気にしていなかった。


 アクロ帝国を建国すると、リアーネはついに大陸統一に乗り出した。

 数でこそアドゥーティス教の信仰者に劣るものの、戦力としては十分に戦える数が揃っていた。

 何より、リアーネとアウロイがいればほとんどの国は滅ぼせるのだ。

 その歩みを妨げられる者はいない。


 やがてラファル皇国を占領したとき、リアーネの前に二人の男が現れた。

 一人は、後に聖典で破壊者と称されたロア・クライム。

 もう一人は、ガーデン教を止めるべくアドゥーティスの神々から加護を授かったヴァハ・ランエリスだった。


 ロアだけならば、リアーネ一人でも倒すことが出来た。

 如何に優れた拳士とはいえ、天涯の領域に踏み入れてはいない。

 当時のロアにはリアーネに勝てるほどの力は無かった。


 だが、ヴァハ・ランエリスは違った。

 アウロイの自律魔道書から放たれる無数の大魔法を剣で打ち落した。

 リアーネの熱線に至っては素手で受け止めた。

 神々の加護は、リアーネとアウロイを以ってしても越えることはかなわなかった。


 そして、二人は死に至る。

 そこで終わればヴァハの英雄譚だろう。

 異教徒の企みを打ち破った英雄。

 実際、アドゥーティス神話ではそこで終わりを迎えている。


 だが、リアーネはそこで終わらなかった。

 現世への強烈な未練。

 本来ならば、リアーネはアウロイと共に不死者となっていただろう。


 しかし、彼女はその道を選ばなかった。

 魂の一割をラファル皇国の皇女マリアへ憑依させ、ラクサーシャと出会うまで皇国を支配し続けた。

 不死者に身を堕とす事が正しいことではないと、リアーネは知っていたのだ。


 次に目が覚めたとき、彼女は荒野にいた。

 どこまでも広がる荒涼な世界。

 その場所をリアーネは知っていた。

 そこへ至ることが、彼女の本来の目的だったのだ。


 全て、彼女の計画通りだった。

 皇国の支配を妨げられたのは誤算だったが、既に準備は整っている。

 あとは、アウロイに任せるのみ。


 眼下に広がる冥府の兵士。

 永き時をかけて、リアーネが支配した世界。

 さあ、戦争が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ