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97話 方針

 アドゥーティス教が長年に渡って管理されていた。

 この場にいる者のほとんどが信仰者であったために、その衝撃は計り知れない。

 愕然とする一同の前にクロウが立った。


「リアーネの目的が何だったのか。まあ、言うまでもなくこれだよな」


 クロウは懐から楔の眷石ヘクセ・ヒュムネを取り出す。

 たかが魔石の一つ。

 されど、その格は最上位。

 常人が触れたならば、膨大な魔力に呑まれて廃人と化してしまうだろう。


 この場において、それを直視出来る者は限られていた。

 レーガンとセレスは体の震えを堪えていた。

 エルシアは机に手を突いてどうにか立っていた。

 ミリアに至っては、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまっていた。


「皆の反応を見ての通り、これは生半可な力じゃ近づくことさえままならない代物だ。多分、リアーネはこれを何かに利用としていたんじゃないか?」


 クロウがロアに視線を向ける。


「ふむ、その可能性は十分に考え得る。我が覚えている限りでは、あやつらは魔石や魔核といった魔力を秘めた物を集めていた記憶がある」

「うーん、問題は用途だけど……分からないな。本来の使い方以外には、動力にするぐらいしか使い道が無いんだ」

「動力、って考えれば生体人形はどうなんだ?」


 レーガンがクロウに問いかける。

 大量の魔核を動力にして動く兵器。

 楔の眷石ヘクセ・ヒュムネを得たならば、それこそガーデン教の掲げる世界の壁を破壊することさえ現実になるかも知れない。


 そこで、シェラザードがはっと気付く。


「アウロイが大量の生体人形を引き連れていたの。竜族を殺し尽くしたのもそのせいかも」

「……ちょっと待ってくれ。竜族を殺し尽くしたっていうのは本当か?」


 クロウに問われ、シェラザードはこくりと頷いた。


「私は竜族の唯一の生き残り。他の皆は、アウロイに殺された」


 竜族が殺し尽くされた。

 その事実は、クロウの想像の中で最も悪い状況だった。


「シェラザード・ランエリス。我が友ヴァハの血を引く竜乙女ドラゴンメイドよ。汝が一族は勇猛なる竜種。それが殺し尽くされる事態とは、如何なるものか」

「竜族は神代からずっと世界を見守ってきたの。ヴァハ・ランエリスの意志を継いで、ガーデン教を阻むこと。だけど、アウロイは強かったの」


 人が踏み入れる事が困難な地。

 それが魔境である。

 その最奥には険しい岩山があり、そこには竜族が住まう。


 そこに、アウロイが現れた。

 百人ほどの兵を引き連れてきたアウロイを、竜族は当初は敵にならないと思っていた。

 彼が引き連れる兵は、戦闘経験があるようには見えない少女ばかりだったからだ。


 だが、アウロイの兵は竜族の予想を遥かに上回っていた。

 その体に刻んだ術式が、生体人形たちに竜種を圧倒するほどの力を与える。

 感情無き人形は殺戮を繰り返し、やがて竜族の里は滅んだのだった。


「多分、魔核が目的だと思うの。死体は皆、魔核を避けて攻撃されていたの」

「相手は一体、どれだけの魔核を保有してるんだ? そんなにあっても、使い道があるようには思えないな」


 クロウは難しい表情で考える。

 それだけの戦力を持ちながら、未だにアウロイは魔核を集めているのだ。

 本当に世界の壁を破壊しようとしているのか。

 だが、それを実現できるようには思えなかった。


 ガーデン教の目的は、神々の支配から逃れること。

 そのために、世界の壁を破壊して神界へ乗り込むこと。

 だが、壁を破壊するという時点で不可能だった。


 思い出すのは霊峰での戦いだ。

 ラクサーシャとロア、そしてシェラザード。

 三人の全力がぶつかり合っても、その予兆さえ現れなかったのだ。

 どれだけ魔核や魔石を集めたところで、この三人を超えることは出来ない。


「どっちにしても、まずはやるべき事があるな」


 クロウは皆の顔を見回す。

 そして、虚空から短剣を取り出した。


「――妖刀『喰命』。これは、楔の民を統べる者の証だ」

「楔の民……閉門の楔パルフェ・ランクェスの守人?」

「ご名答。俺は今代の族長ってわけさ」


 クロウはそう言うと、ラクサーシャに向き直る。

 そして、頭を深く下げた。


「旦那。俺はまず、旦那に謝らないといけない。俺が情報屋っていうのは嘘だ。今まで正体を隠していて、ごめん」

「構わん。私は気にしてはいない。むしろ、私は感謝をしているくらいだ」


 それはラクサーシャの本音だった。

 地下牢獄へ投獄された時、クロウと出会わなければ自分はあのまま死んでいたかもしれない。

 いくらラクサーシャといえど、両手を縛られた状態では脱獄もままならなかっただろう。


 ラクサーシャはクロウの発想に助けられた。

 自分では到底考え付かなかった策。

 そのおかげでラクサーシャは今こうして生きているのだ。

 感謝こそすれ、咎めることはしないだろう。


「俺はあの時、帝国でガーデン教の動きを探っていたんだ。でも、下手を打ってさ。旦那が来る数日前に投獄されたんだ」


 クロウは苦笑する。

 だが、あの時に下手を打ったからこそ今がある。

 そう考えると、どこか運命めいたものを感じた。


「俺が調べていたのは、帝国に異常な魔力の乱れを感じ取ったからだ。空間の歪みと言ってもいい。もし意図的に引き起こされたものなら、そこに門が開けられる可能性がある」


 世界を外界と繋ぐ門。

 それが、帝国の城から発生する気配を感知したのだ。

 結果としては無事だったが、その場所ならば門を作りやすいということも事実である。


「アウロイはきっと、そこに門を作ろうとするはずだ。成功するとは思えないが、かといって放置するわけにもいかない。旦那。俺に手を貸してくれないか?」

「無論だ。アウロイと対立することは、帝国と対立することと同義。ならば、私がやることは変わらん」


 ラクサーシャの言葉にクロウは感謝する。

 そして、これからの行動方針を定めることになる。


「旦那。俺は一度、東国に向かう。楔の眷石ヘクセ・ヒュムネが手に入ったから、閉門の楔パルフェ・ランクェスを取りに行きたいんだ」

「ならば、私もついていこう」

「ふむ。ならば我は、各地の遺跡を回るとしよう。何か、見落としがあるかもしれぬ。竜乙女ドラゴンメイドよ、汝にもついてきてもらいたい」

「分かったの」


 そして、ラクサーシャたちは二手に分かれることになった。

 大陸各地の遺跡はロアとシェラザード。

 東国には、ラクサーシャとクロウ、エルシア、レーガン、セレス。


 残ったミリアは、クロウの配下の援助の下に皇国を立て直すことになった。

 兄と一緒にいられないことに不機嫌そうだったが、自分の役割は弁えているようだった。


 別れ際にふと、ロアが思い出したように何かを取り出した。

 それは、不気味な赤い液体の入ったガラス瓶。

 ラクサーシャはそれに見覚えがあった。


「これは、汝が必要に迫られたら使うといい」


 人を不死者へと変貌させる液体。

 それを見つめるラクサーシャの表情は険しかった。

真実の皇国編終了。

登場人物紹介と間話を挟んで次の章に移ります。

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