最弱は無敵の証
『K.O.!!』
複数のゲーム筐体が並ぶ薄暗い建物に突如として響き渡る終了の合図。
...ここはゲーセンの格ゲーコーナーである。
近所から集まって来た格ゲーの猛者たちが今日も己の技術を磨くため、初心者を無惨に狩り尽くすため、ただ刺激を求めるため、日夜争いをしている。
クレーンゲームコーナーとは違い、独特の近寄りがたい雰囲気を醸し出す空間に、一人の男が訪れた。
「だれか、俺と勝負してくれ!」
男がそう叫んだ瞬間、数人の強面の男性たちがこちらを見た。
「おいテメェ...ここは初心者の遊び場じゃあねぇんだよ?」
大柄な男が彼を威嚇した。
「まずは、あんたが最初か...?」
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「よし、対戦を始めようぜ!?」
ここのゲームセンターに初めて来た彼が相手にしているのは、店舗ランキング三位、「重撃の猟犬-ヘビィ☆ハウンド」かれの露骨な掴みハメからの必殺技コンボには逃れる隙がない。ぶっちゃけそれ以外に戦闘方法を持たない素人でもある。
ハウンドは対戦をするために小銭をいれた。
『round1!ファイッ!』
.........『K.O.!!』
ハウンドには何が起きたのか全く分からなかった。
気づけば試合が終了しているのだ。
「何だったんだ...今の...」
ハウンドは戦意を喪失しその場に崩れ落ちた。
「...お前もダメか...」
男は冷酷な目でハウンドを見下ろす。
「次は俺がいこう...!」
そう名乗り出たのは店舗ランキング一位「逆襲の電気ストーブ」
彼はいくつかの格ゲーの大会で優勝した記録を持つ。
「...一位か...相手にならんだろうな...」
男は悲しげに呟いた。
ストーブは無慈悲にも筐体に連続で小銭を投入した!
チャリリリリーン♪
まるで音楽のように流れる連投コインの音はストーブの心を落ち着かせる。
(ハウンドとの戦闘...良く見てなかった...)
ストーブは内心焦りながらも心のモチベーションを上げて行く。
対戦のカウントダウンがはじまる。
『3...2...1...』
その場にいる全員が固唾を飲んで見守った。
『round1!ファイッ!!』
.........『K.O.!!』
彼は一瞬何が起きたのか分からなかった。
彼はストーブを倒したのではない...倒されていたのだ。
一瞬のうちに勝負がきまる。
決まった時には負けているのだ...彼が。
ストーブには今の状況が飲み込めない、弱すぎる。
しかも並大抵の弱さなんかじゃない...まるで『無敵』。
戦おうにもレベルが違いすぎる。なにこれ?
ストーブもまた、その場に崩れ落ちた。
ここまで勝負にならなかったのははじめだ。
ストーブのプライドはズタボロである。
「やっぱりダメだな...俺は、俺より弱いやつに会いに行く...お前らは強すぎる...」
彼はそう残し薄暗いゲームセンターを後にした。
「「...なんでアイツはわざわざ強い奴と戦ったんだ...」」
もう戦う気力のないストーブとハウンドの言葉が室内にこだました...
(完)