出会い
初めての投稿でどきどきしています。
それはとても寒い冬の日、だった。
かじかむ指先を擦り合わせ、いとは帰路を急ぐ。早くしなければ母親に心配をかけてしまう。はあ、と息を吐けば白い靄となって消えていった。元はと言えば、お使いを頼まれ、道草食ってしまったいとが悪い。しかし久々に出た外は子供の好奇心を刺激するのには充分だった。
早く帰らないと、遊女たちも心配する。
いとの家は、廓だった。
綺麗な着物を身にまとった女……いや、いとの家は廓は廓だが、女専用の廓だ。見目麗しい男しかいない。だから遊女という表現は少し可笑しいのかもしれない。まあ、身売りする男たちは女のように綺麗だったが。
「……あれ?」
ぴたりと足を止める。
路地裏の暗闇で、何かが動いた気がしたのだ。
恐る恐ると覗いてみる。
「……」
そこにいたのは、薄汚れて傷だらけの男だった。
いとより年上だろう。十七、十八くらいか。柔らかそうな黒髪。ぼさぼさだけどきっとちゃんとしてやればきれいになるだろう。体つきも細いけど女が好みそうなくらいにはしっかりしている。
なにより。その整った顔立ち。瞼は閉じられているけど、分かる。
口の端が上がる。
男の前に立ち、顔が見えやすいようにしゃがむ。
「ねえ」
返事はない。
「ねえ」
肩を揺する。
触れた肌は冷たい。
「ねえってば」
「う……」
男が起きた。重そうに開いた瞼からはその髪と同じくらい真っ黒な瞳が現れた。
ぼんやりといとを映し出す。
「あなた、こんなところにいて、しにたいの?いきたいの?」
返事はない。虚ろな瞳がいとを映すだけだ。
改めて男の顔を見ればずいぶん甘やかな顔をしている。青白い顔をしているが、それがまた彼の顔立ちを引き立てている。かちかちと歯が鳴る音が聞こえた。
この男を持ち帰れば、母親も小言をぶつけてこないかもしれない。これだけ整った顔立ちをしているのだ。
きっと、褒めてくれる。
そんな、打算的な考えだった。
そして子供の無邪気さは、時に残酷である。
「行くところがないなら、うちにおいでよ」
差し出した手を、男は虚ろに見つめてゆっくりと伸ばした自身の手で掴んだ。