ラプラスの悪魔が自分に乗り移ったと錯覚したお嬢様をポーカーフェイスの先生が駆逐する単元
それはいつものひととき。
「先生、先生は今この部屋にいるよね」
「ここにいるのが私じゃなければ誰なんですか?」
相変わらず突拍子もないことを言い出すお嬢さまを先生はいなします。
「そんな細かいことはいいの。ところで先生、次は何するの?」
「これから算数のお勉強をお嬢様とするつもりですけど」
するとお嬢様が眉間に右の人差し指を伸ばし、何かを念じ始めた。
嫌な予感がする。
「先生、今日のお昼ごはんは先生お手製のボンゴレね!」
何言ってんだこいつ。
確かにあさりの砂出しもすんだし、そろそろかなとは思っていたけど。
「そのつもりですけど? お嬢様はボンゴレお好きでしたよね」
「うっふっふ。やっぱりボンゴレなのね」
再び先生は思う。
何言ってんだこいつ。
「あのね、先生にだけは教えてあげる」
「結構です」
「そんなこと言わないで聞いてよ」
「面倒くさくないですか?」
「面倒くさくはないと思うわ」
先生はため息をつき、お嬢様に問うた。
「それでは教えてください」
「私ね、ラプラスの悪魔にとりつかれたの!」
?
「聞いてる?」
…。
「私は未来がわかるようになったのよ!」
また何かネット小説でも読みやがったなこの娘は。
先生は深呼吸し、冷静に言葉を続ける。
「お嬢様、ラプラスの悪魔とは、どのようなものですか?」
するとお嬢さまは自慢げに答えた。
「今現在の状況と、次の運動がわかれば、その後も全部わかっちゃうというスグレモノよ!」
元気に答えるお嬢様に対し先生はポーカーフェイスで冷徹に補足した。
「お嬢様、言葉が足りません」
「え?」
「今現在の【全ての物質における力学的】状況と【全ての物質が行う】次の運動がわかれば、【それらのデータを全て把握出来るだけの知性が存在するならば】その後も全部わかっちゃうというスグレモノよ!が正解です」
愕然とするお嬢様。
そこに先生は追い打ちを掛ける。
「大体、ラプラスの悪魔はハイゼンベルクが提唱した不確定性原理で、既に駆逐されています」
するとお嬢様は涙を目に浮かべ先生に問うた。
「それならなぜ、今日のランチがボンゴレなの?」
先生はお嬢様の頭を撫でながら少しだけ、なぜかポーカーフェイスを不自然にひきつらせながら答えた。
「お嬢様は全てを把握するラプラスの悪魔などではなくて、全てのお願いがかなっちゃう小悪魔なのかもしれませんね」
はい、恥ずかしくなってきました。
そろそろお昼にしましょう。