リヒャルトの慟哭~つまり、敵でした~
おれへ向けて穿たれた一筋の黒い閃光。
おれは後ろへ大きくのけ反ることで紙一重にそれをかわす。
次いで起き上がるとほぼ同時に内ポケットに入れておいたサバイバルナイフを三本取りだし、襲撃者がいるであろう方向に投擲する。
ーーーー直後。
金属同士がぶつかり合う嫌な音が発生する。そのあと、なにかを振り払うような空気を切る音も聞こえた。
「あれをかわしやがりますか。一応、必殺のつもりで穿ったのですけどね」
その言葉が聞こえると同時におれたちのいた場所から二メートルほど離れた空間が歪む。
歪みが消えると歪みの発生した場所には一人の美少女が一本の黒い槍を携えて出現した。
銀の腰まである長い髪と金色の瞳をした美少女。胸元は寂しいながらも、つり上がった黄金の瞳からは気の強そうなイメージを抱かさせる。
凡祖学園の制服を纏っていることから、この学園の生徒だということが分かった。
だが、何故おれたち、いや、おれを狙った?
おれはこの少女のことをまったく知らないし、ましてやこの高校には今日はじめて来たばかり。恨み辛みを買うような行動もしていないはずだがーーーー。
ブンッ
「うぉっ!」
黒い槍の少女はまたおれへと今度は槍を切り下ろして攻撃する。
「ちっ、今のも避けやがりますか。うっぜぇ」
「おい、なにが目的でおれを狙う?」
できるだけ穏やかな口調でおれは彼女に問う。
それに対して彼女が取った答えは黒い槍による薙ぎだった。
二メートル近くある黒い槍のリーチゆえに回避は困難と判断して柄の部分を思い切り蹴りあげる。
「っう、あぶねぇ」
「くっ、テンメェぶちごろがしてやりましょうか!」
どうやら槍の柄を伝って多少なりとも少女にダメージが及んだようで、少女は右腕を左手で押さえながら此方を睨む。
「それはおれのセリフだ。いきなり凶器振り回しやがって。……どういうつもりだ?」
おれは後ろを見る。
そこには廊下に倒れて意識を失う阿宮葉と春日木。
あの少女の初撃のあと、彼女らの 意識を少し弄って(・・・・・・・・)気絶させた。
このままだと少し戦いにくいな。……どうするべきだ?
「くそっ、一年以上使ってない落ちぶれ真性中二病患者じゃなかったんですかっ!!」
「ふーん、おれのこと知ってるんだ。それに、真性のことも」
「ふん、知ってやがりますよ。といっても、わたしが真性のことを知ったのはごく最近、依頼主から聞いただけでやがりますがねっ」
「……依頼主のこといっちゃってもいいんだ?」
「こっちもガセネタつかまされやがりましたからね!契約なんて反故ですよっ!!」
「……そっか。なら手っ取り早く終わらせてもらう。この二人が危ないからね」
「ふん、やれるものならやってみやがれですっ」
言質は取ったよ?後悔しないでね。
「さて、始めようか」
ーーーー<機械仕掛けの(・エクス)起源神>
その一言で世界から一部の時間が失われた。
「んぅっ……ん」
「あ、目が覚めた?」
後始末をしたあと、おれは気絶した二人を抱き抱えて保保健室へ向かった。
保健室の先生がいなかったので仕方なく保健室内にあったベッドへそっと寝かしたあと、自分も残りのベッドに腰かけて彼女らの目覚めを待っていた。
それから約十分が経過し、ようやく春日木が目を冷ました。
ちなみに阿宮葉は先に目が覚めたので、おれは春日木が目を覚ますまで待っているから先に帰っておいてくれ、といって帰らせておいた。
「ここは?」
「保健室。急にお前と阿宮葉が倒れるからビックリしたよ」
「そう。阿宮葉は?」
「阿宮葉ならお前より早く目が覚めたから、先に帰ってもらった」
「そう、分かったわ。……帰りましょう」
「だな」
今日は色々あったなぁ、とか考えながらおれたちは駅で別れ、それぞれの帰路に着いた。