freedom~つまり、放課後でした~
春日木琉美中二病更正宣言をしたあと、おれたちは教室へ帰ってきた。
クラスの連中に色々とやっかみを受けたが、それも一段落して昼休み。
そう。この凡祖学園は入学初日から六時間授業の平常運転という、中々に普通じゃない高校だった。
といっても、自己紹介やテキストの配布、授業内容の説明と、れっきとした授業というわけではないが。
そして、待ちに待った昼休み。高校と言えば食堂というイメージを抱いていたおれは現在、食堂にいた。
……春日木琉美と充景阿宮葉の二人と。
「おおぅ!かーみん、かーみん!食堂だよ、食券だよ、カレーだよぉ!!」
いや、最後のフレーズはよくわからん。
そう、彼女だ。初対面でいきなりおれをかーみんとかいう不名誉な名で呼んだ充景さん。
なぜ彼女と一緒にいるかと言えば話せば短いが、
「かーみん!食堂にいこう!!」
この一言に尽きる。
まあ、それに快い返事をしたあとは春日木を誘って食堂まできた、と言うわけだ。
「なんでわたしが…」
さつきからぶつぶつ文句を言っている春日木だが、内心は嬉しいだろう。……おれも中学のとき、クラスメイトに誘われたときは嬉しかったからな。
それから、各々食べたい料理の食券を購入し、料理をテーブルまで持ってきて席に着く。
おれが選んだのはカルボナーラ。充景さんは言わずもがな、カレー。そして、春日木は……
意外。オムライスだった。春日木なら寿司とか頼んでそうなイメージがあった。食券あったし。
こいつ、なんとなくだが、どこかのお嬢様っぽいからな、高いもん食ってそうなイメージを勝手に持っていた。
意外に可愛いところもあるんだな。
「意外に可愛いところもあるんだな」
「なっ!?」
「おー、かーみんったらだ・い・た・ん♪」
「あ、あれ?もしかして口に出してたか?」
「うん、でてたよー」
おれの問いに答えてくれる充景さん。春日木の方は顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。
……しまった。怒らせちまったか。
「あー、ごめん春日木。なんか意外でさ、お前がオムライス食ってんの。なんか寿司とか食ってそうなイメージあったから」
「あ、かーみん、あたしもそれ思ったよー。なんか、るーちゃんってどっかのお嬢様っぽいもん」
「る、るーちゃん……?」
「そだよー。春日木琉美だから、るーちゃん。イヤ?」
「いやじゃ、ないけれど……」
そういって更に顔を赤くする春日木。
……なるほど、春日木はこういうのに弱いのか。
「るーちゃん」
「お、かーみんったらのりがいいねっ!」
「ッ!?」
試しに呼んでみると赤い顔を更に赤くし、まるでリンゴのような顔になった春日木。
「いやー、それにしてもるーちゃんってもっとムズカシイ感じだと思ってたけど、案外、普通だねっ。可愛いしっ」
「あぅ、ぅぅう、うにぃゅ」
充景さんさんの追撃でノックアウトされたのか顔から頭から湯気を出し、目を回す春日木。
仕方ない、慌てふためく春日木は可愛かったが、ここいらで勘弁しておいてやろう。
そういって、充景さんを止めにはいるおれだった。
昼休み終了の鐘を告げ、午後からの授業が始まる。
この時間帯が一番きついが入学初日から目をつけられないよう、必死に踏ん張る。
ふと、教室内を見渡すとクラスのみんなも眠いのか、目を擦りながら授業を受けている。……受けているのだが……。
「うーん、ふふふ、これで終わりよ。あたしの計画はこれで完成…すぅ……」
どんな夢を見ているのか激しく気になるが、君はなんで寝ているのかな!!充景さん!!
充景さんは端から見ても見事な爆睡っぶりだった。
思わずおれももらい眠りしてしまいそうなほどに。
……だが、ここで眠る訳にはいかないので睡魔に打ち勝つため、頭を振る。
そういえば春日木はどうしているんだ?
何故かその事が無性に気になり、春日木の席に目を向ける。
すると、ほぼおれと同じタイミングでおれの方へ視線を変えた春日木とバッチリ目があった。
……なんか、気まずい。
あっちもあっちで気まずそうな顔をして、視線を黒板の方へ直した。
はぁ、おれも真面目に授業受けるか。
そう思い、黒板へ向き直ったおれの視界に映ったのはニコニコしながら名簿を充景さんの頭へ降り下ろす教師の姿だった。
時は過ぎて放課後。
空も赤く染まり出した時間におれたちは下校のため、下駄箱へ向かっていた。
「でねー、そこのパンプキンケーキがすっごく美味なのだよー」
「へー、そんなうまいならおれもまた今度食べに行こうかな」
「うんうん。その時はかーみんご馳走さまです」
「え?なんでおれが阿宮葉のケーキ代奢ることになってんの?!」
「えー、いーじゃんかべつにー。…へるもんじゃないしー」
「へるよっ!ものすごく減るっ!主におれの懐的な意味で!」
ちなみにおれが充景さんを阿宮葉と呼んでいるのには訳がある。
終わりのHRのあと、帰り支度をしていたおれは家の方向が同じなら一緒に帰ろうと春日木と充景さんに声をかけた。その時、充景さんと呼んでしまい、あーたんって呼んでね、って言ったのに!と怒られて、最終的な妥協案として名前呼びになったのだ。
そんな阿宮葉はおれに自分のお気に入りケーキ店のパンプキンケーキをおれにおごらせようとしていた。
勿論、おれは断ったが。
「……ねぇ」
そんな感じでおれと阿宮葉が話していると教室を出てから口を閉ざしていた春日木が口を開いた。
「どうした?春日木」
「なにか、変じゃないかしら。わたしたちが教室から出発してもう五分はたっていると思うの。でも、まだ下駄箱にすら着いていないわ」
「なにいってんだ。そんな訳……」
おれがその言葉を言い終わる前に、俺へ向けて一筋の黒い閃光が迸った。