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厄介な幼馴染


いつからか、空を見上げて飛行機を探すのが俺、佐伯小春の日課のようになっていた。長期間外国に滞在して勉強してみたいという夢を、まだ捨てきれずにいた。早ければ早い方がいい。時間は限られているんだから…。ともすると揺らぎそうになる気持ちに活を入れるため、遠ざかっていく飛行機から目を逸らさないでいた。しかし、俺の物思いも長くは続かなかった。正確に言うなら、続けられなかった。


「はるちゃん!」


幼馴染の相沢巴里に邪魔をされたことくらい、わざわざ後ろを振り向かなくてもわかる。

俺をそのふざけた呼び方で呼ぶのは、こいつしかいないからだ。いつからか、こいつにストーカーされるのも日課のようになっていた。(かなり不本意な日課だけど。)俺が飛行機を追いかける執念と、巴里が俺を追いかける執念は同等と言えるだろうか。その根性は認めるけど、生憎応える気は更々ないんだよね。


「アイ・ラブ・ユー!」


また始まった。今日も相変わらず面倒くさい。眼下でぴょこぴょこ主張したところで、同情する余地なし。にべもなく切り捨てる。


「お前のアイラブユーは響かない」

「響いて!巴里ははるちゃんが大好きなの!」

「だから響かないんだって」

「響くよ!」


響くよってお前…。響かねぇっ言ってんのに、頭痛がする…。

普通、告白の台詞って、もっと大切に言わないだろうか。15年前、初めて巴里に言われた時はどうだっただろうと思い出すけど、昔からこんな感じだったような気がする。だから返事も自然に呆れの気持ちが混ざり、うんざりとした物になってしまう。


「断固拒否」


高校3年生にもなってツインテールの巴里は童顔で、背も149cmとかなり低い。その幼い外見を裏切ることなく、精神年齢も幼稚で、更に頭の回転が著しく鈍いところは、ますます俺を苛立たせた。一方の俺はと言えば、精神年齢もそう幼くないつもりでいるし、成績はこれでも学年トップだ。身長だって巴里より30センチは高い。一緒にいても理解できないことが多い巴里と付き合う気なんて、これっぽっちもない。15年以上もこの揺るがしがたい事実を口を酸っぱくして言い続けているのに、一向に諦める兆しが見えないから、ほとほと手を焼いていた。


「諦めるんだな。対象外なんだよ」

「でも巴里、ここが踏ん張りどころだと思うの」

「この馬鹿。お前にはもっと別のところで踏ん張らなきゃならないことが沢山あるだろ」


その最上階に君臨してるのが、今の時期なら受験勉強だろうに。勉強もしないで遊び呆けている奴なんて、その時点でアウトだ。


「勿論、そうなんだけど…」

「勉強で俺を見返すとか、したらどうなの?」

「したよ!高校受験の時だって、愛の力でツーランク上の学校に合格できたんだよ!」

「…過去の話だろ、それは」


確かに巴里とは高校でおさらばできると思ってたから、あの時は真剣に驚いたけど。


「でも今は、とても巴里の実力じゃ無理だから、こんなこと言ってるの。…はるちゃん、留学するんでしょ?」

「できればね。本望としては、向こうの大学を受験したいところだけど」


それが簡単に叶えば苦労はしないんだけどな。家の事情で無理そうなことはわかっていた。俺は苦笑して、冷えた視線を意識して、巴里を見降ろした。


「…という訳で、俺はお前を構ってる時間はない。これからバイトに行って、少しでも稼がなきゃならない。邪魔しないでくれ」

「巴里だって同じ。時間が無いの。はるちゃんが向こうに行っちゃったら…本当は、行って欲しくないんだけど…これが、最後のチャンスだと思ってるから」


何て低俗な奴。お前には俺以外に追いかける夢はない訳?という言葉を、何とか飲み込んだ。


「はるちゃん!」


今度は巴里の呼びかけに振り返ることなく、俺はさっさと足を進めた。昔から巴里とは相いれない。幼馴染だけど、同じ町内というだけで、良くある設定のようにお互いの家を行き来することなんてめったになかった。15年もの間、巴里をにべもなく振り続けた男なのに、一体どこを好きになったのか理解に苦しむ。優しくしてやったことがあっただろうかと記憶を手繰るけど、結局思い出せなかった。迷惑なことこの上ないと結論付けて、俺はバイト先へと足を早めた。



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