お題「USBケーブル リポビタンD コンタクトレンズ」
サークルメンバーにお題くれといったらくれたので適当に書きました身内用
主人公陣がぐだぐだしてるだけ
「足りねぇ……ぜんっぜん足りねぇよ……」
なにかのゲームで聞いたような台詞をうわ言のようにつぶやく。何のゲームだったかは完全に忘れちまったが、覚えている以上はそこそこ面白いゲームだったハズだ。うん、名言確定。
「何言ってんの?」
ただ水を差すような発言はやめていただきたい。ゲームをやらない人類には分からんのです。名言の素晴らしさが。
「さっきから独り言うるさいんだけど……」
「だったらこっち来てんじゃねーよ……俺は寂しがり屋だから喋ってないと死んじゃうんだよぉ……」
「いや、ここリビングだし、アンタ今ものすごくきもちわるい」
――ああ、養豚所の豚を見るような目付きってこういうのを言うんだな。これが2.5次元ってやつかな……いや、2次元で十分です。
クリーム色のカウチソファにちょこんと座り、退屈そうに足をぱたぱたと動かしているこの少女は、まぁ、美少女の域に入るのかもしれない。ただこいつの本質を知ってしまったら、美少女どころか少女とも思えなくなるだろう。……本当に残念だ。ほんと、可愛いんだけどな。残念で残念で仕方ない。
「で、さっきから何やってるの?」
カウチソファの低い背凭れに手をかけ、軽くこちらを振り向くその仕草は、やっぱりとってもキューティーなんだけどな。さらさらとした長い栗色の髪も最高だ。一房だけ編まれた髪なんか、どこのエロゲのヒロインですかと聞きたくなるほどだ。で、誰の趣味なんだ? カレシか……カレシなのか。
「リア充には教えられないな!」
勝ち誇った気分で告げれば、急な大声に驚いたのか綾はぴくりと身体を震わせた。うん、勝った……! やったよ父さん! もちろん架空の父さん。あれ、そういや俺に父さんなんていたっけ? とふと疑問が頭を過ぎったが、父さんがいなければ俺は存在してないな。なるほど。
まあ、これで追っ払う口実は完璧だ。リア充は全人類の敵である。少なくとも俺の業界では。
「りあじゅう? なにそれ?」
あ、ダメだこれ。
「ああそうだったなお前はリア充かつスイーツかっこわらいだったな! なおさら教えられん!」
絶望を紛らわすように、弾丸のような速度でまくし立てる。
リア充+スイーツって致命的じゃね? むしろDQNじゃね? あー、もうダメだ。俺はDQNがそばにいると死にたくなる不治の病にかかっているんだ。先天性の。
「スイーツ? スイーツといえばアイツじゃん」
……ああ、なんて名前だったかな。悪いが男の名前は覚えが悪い病気にもかかってるんだ。先天性の。……確かあいつは佐藤といったか? 違う気がするが合ってる気もするな……。まあ適当に話を合わせておくか。
「アイツかもしれんが、お前もだ!」
「別に甘いのが嫌いってわけじゃないけど……」
なんだ、まだ不満があるのか。というか言葉の意味ぐらい俺に聞かずググれよ。ゆとりはこれだから困る。
……また考えていることが知らず知らずのうちに口から漏れていたのか、綾は形の良い眉を顰めた。俺失言してないよな?
「……アンタって色んな言葉知ってるのね」
ええ、そこですか……。なんか、逆にこっちが疲れてきた。おじさん若い子にはついていけない……まだ俺は花の24歳なのに、この女子高生と話していると何故か老けた気持ちになる。……ちなみに俺の好みはもうちょっとばかし成熟したお姉様である。
「お嬢さんの語彙力が低すぎるだけだぜ」
「ご……?」
うん、ダメだな、これ。マジで相手したくない。語威力って何さ。こうさ、もっとさ、俺のジョークを受けて、微かに笑みを零し、また俺より高度なジョークを返してくれる、そんなお姉様が――よかったな。国外逃亡しようかな。
でも案外、この日本という国は気に入っている。まず飯が美味い。あと言葉も独特だ。独特すぎて何度諦めようかと思ったことか……最悪"自分は日本人だ"と自己暗示かけたいほどの難しさだった。まあその猛勉強のおかげで、今では超ペラペラだけどな。
あ、あれ、そんな俺に、この純日本人の綾さんは負けてるのか? まあ、自国の言葉を勉強しようというタイプではないよな……案外、その内にいる奴より、外の奴の方が、それの大切さに気付くことが多いし。傍目八目ってやつ? ……適当言ったかも。
まあ、今はそんなことはどうでもいいな。俺には俺の仕事があるのだ。
まだぐるぐると考え事をしていらっしゃるご様子のお嬢様を放って、俺は現実を視た。
そこには俺がなかなかに愛用しているデスクトップPC、ペルシャちゃん4世が堂々とした佇まいでデスクに鎮座しておられる。ああ、いつ見ても美しいフォルムだなぁ。やっぱ、頻繁に使うものは見た目も良くなくちゃいけないよな。愛情度が高まる。大切にしたくなる。良い事尽くめじゃねえか。
ご覧のとおり本体はもう不満なんてねえんだけど、問題は……。
……うん、ケーブルの長さが致命的に足りないよね。何故だか逆にものすごく爽やかな気分になってきた。今ならなんでも出来る気がする……いや、出来たらこのUSBケーブルの長さが足りないなんて事態も愉快に解決できてるよな。死にたい。
あー、めんどくさい。ノアに頼むんじゃなかった。アイツは機械心を全く分かっていない。短いより長い方がいいに決まってるだろ常考。何でわざわざ死ぬほど短いの買ってくるかな、あのドM。死ねばいいのに。死なないけど。
地味な嫌がらせでもしてやろうかな……靴紐抜いとくとか。いいなこれ、どっかにメモっておこう。恨み辛みノートとかいいかもしんない。数年後に見たら死にそうだけど。
この歳で厨二病とか、逆に怖ぇよ……遅すぎた覚醒ほど怖いもんはないね。
「ああ、クソ! お前ら全員まとめて冷凍保存するぞ!」
視界の右端に辛うじて映る綾が、うるさいなぁと携帯を弄りながら小さくつぶやく。なんだまだいたのか。懲りない奴だな。
この独り言の癖はどうにも直らないんだ。直らないから癖って言うんだろうが。
「アンタほんとに大丈夫なの?」
「頭か?」
「うん――あ、違う! いや違わないけど、体調とか?」
結局違わねえのかよ。冷凍すんぞ……。急激に気が抜けた。はあー、と大きく息を吐き、オフィスチェアに全体重を預ける。背凭れがキィと軋んだ音を立てる。この音を聞くたびに、某国製の油圧式の椅子が爆発する事件を思い出し、ひどくそわそわした気分になる。ヴァージンが爆発で奪われるとかマジキチにも程がある。……というか、俺は男だ。ヴァージンもなにもない。考えたくもない。そりゃそういう世界は何度も見てきたけどさ、俺は身も心もトゥルーホワイトだぜ……?
……ただ、携帯から顔を上げた綾の表情は偽りがないように“見えた”。さっきまで俺の視界は10割USBケーブルに覆われていたからな。心理的なものもあるかもしれないが。
「俺が体調悪い時があったかよ?」
「あったじゃん」
「あ、そっすか……」
そうだっけ? 体調が悪すぎて記憶が抜け落ちてるとか? いや、まずこいつには俺弱み晒してない気がする。何故かってそれで一生ゆすられそうだしな。じゃない、晒してたら、ゆすられてる。ソビエトロシアでは弱みがあなたを殺す。
「まずなんか目が死んでる気がするんだけど……ちゃんと寝たの?」
マジで、俺レイプ目になってる? いや男のレイプ目とかどこに需要あんだよ……というか元々俺にそういう性癖ねえよ……。
別に自分の顔が特別好きってわけでもないから、いちいち鏡で顔確認しないし。ああ、そういえばよくノアに「もっと身だしなみに気を使え」と言われるな……アイツは中身がアレでも、外見が普通であれば許せるタイプらしい。俺でもよくわからん奴だ。
というか、これでも俺なりに気使ってるつもりなんだけどな。寝癖がひどいタイプだから、寝癖がつかないぐらい髪を短くしてたり。これ、すげぇ画期的な案だったと今でも思ってる。現にいつ寝ててもバレないようになったしな!
「これが寝られるかよ……俺はちゃんと最後までやり遂げられないと気が済まないタイプなんだよ」
といっても、一度熱中してしまうと眠れなくなるタイプでもあるので、あまり意味が無い気がしなくもない。そういう時って大体半日ぐらい寝ちゃうからバレる。仕方ないね。
ちなみにいつだったかまとめて買っておいたリポD達は、いつの間にか冷蔵庫の中から消え失せていた。現代の神隠しである。……そうだったら許せたっつうか、逆にテンション上がったんだけどな。あの砂糖中毒のキチガイ佐藤(仮名)が全部飲んでしまったらしい。クソが。こんにゃくゼリーで窒息して死ね。
いつか冷蔵庫にロシアンシュークリームでも仕掛けてやろうか。ただ罠にかかった場合、奴は視界に入った生物を無差別で滅多刺しするキラーマシンになるだろう。むしろキラーマジンガ。そんぐらい砂糖中毒でキチガイな男だ。クソが。水飴で窒息して死ね。
しかし、そういうドッキリ的なものは生で見ていたいもんだ。どうにかしてハメられねぇかな……前からアイツには困っていたんだ。俺が楽しみにとっておいたショートケーキもイチゴだけ残して全部食われてたし。甘かったら何でもいいクセにわざわざお値段の高いケーキなんざ食いやがって。クソが。ねるねるねるねで窒息して死ね。
「その……パソコン?」
あ、こいつがいたの忘れてた。危ないところだった、俺まで脳内がスイーツ一色になってしまうところだった。それに関しては感謝する。
どうやら綾は、俺の悩みの種が何なのか随分と長考なされていたらしい。健気だなぁ。俺と話すより携帯ちゃんと会話してた方がよっぽど楽しいぜ、お嬢ちゃん。
「そうっちゃそうだな」
無視するのも何なので、適当に答えてやる。顔も向けずに。なんたって俺は今作業中だからな、彼女は俺が作業中だと分かって話しかけているのだから、それぐらいしたって文句は言われないだろう。むしろ言う方がDQNだ。
ただ、これをするとちょっとしたトラウマが蘇るのが玉にキズだ。あれは学生の頃だったか……ああ、やっぱり思い出したくない。ヒトは失敗して学ぶ生き物だが、やはり失敗とは苦いものだ。俺はメンタルがカバーガラス並に薄くて脆いからな、われもの注意のステッカーを背中あたりに貼っておきたいほどだ。……そういうデザインのシャツ、探せばありそうだ。これまたメモっておきたい。
「夜通しやってた?」
「そうかもな」
「目悪くなっちゃわない?」
「元から悪いです」
「あ、たしかに」
おぉ、適当に返事するの、案外楽かもしれないな。ちょっと頭のゆるいお嬢ちゃんを相手するときは適当でいいや。自分と会話してるときの方が頭使ってる気がする。
「……そういえば何で眼鏡なの?」
「こっちの方がイケメンだからだ」
「コンタクトレンズの方がイケメンなんじゃない?」
「あんたは好んで目に異物を入れたがる人類なのか」
「……なんだ、怖いんだ」
「こっここここわくないわ!」
――前言撤回したい。案外綾さんは人の揚げ足を取れる人物なので、油断してたら喰われそうだ。
め、めんどくせぇ。やっぱ自分と会話してるのが一番楽だ。逃げたい。
「アンタって案外怖いものが多いよね」
「うっせ、人違いだ」
「私の周りはアンタ以外怖いもの知らずよ」
げぇ、間違ってない。どいつもこいつも無鉄砲で敵ナシだと思ってるような奴ばっかりだ。命が何個あっても足りやしない。
相対的に俺が怖がりに見えるだけで、俺は一般レベルに違いない。そう思いたい。例えるなら俺は一般的な残機5。奴らはバグらせて残機を無限にさせたチート野郎。なるほど勝ち目がないわけだ。ひどすぎる。泣きそう。
「人間、恐怖しないと無駄死にしちまうもんなんだぜ」
「ふぅん……?」
"捨てていいのは愚かさだけ"と、かの化け猫も言っていたしな。奴を飼いたくは無いが、いいアドバイザーではないかとは思っている。
まあ、こんな話しても、まだ歳若い綾ちゃんにはよく理解できないだろう。現に全然理解できていなそうな素振りだ。その純粋さが羨ましいね。いずれは俺みたいな汚い大人になっちゃうんだろう。全く時の流れは残酷なもんだ。
――と、未来に思いを馳せていたとき、階下からガチャンと扉の閉まる音。んん、誰か客を呼んでいたっけ? いや、客は呼ばれて来るものだ。そもそもインターホン無しで素通りする客は客じゃねえ。俺にもプライバシーってもんがあるんです。俺は何かと人権無視されたような扱いを受けているんだけど、どうしてかな……あ、マジでレイプ目なりそう。
久々の音に、耳が自然と過敏になる。たんたんと階段を登る音、がさがさと……これは買い物袋が擦れる音か? 誰かに買い出しを頼んでおいた記憶は無い。……が、買い物袋を下げてうちに来る奴なんて、数える程度しかいないな。というか片手で足りる。
「……綾、来てたのか」
「あ、おはよーノア。なに買ってきたの?」
がちゃりと扉を開ける音、そして来訪者の声に、ぴょんっと飛び出すようにソファから綾は離れる。あいにく俺の視界は8割ほどがペルシャちゃん4世で埋まっているため、こちらから来訪者の顔は見れない。だが、俺は身内の声を聞き分けられない人類でもない。
「おはよう。期待させて悪いが、ロイの頼まれ物だけだ」
「お、俺かよ」
「お前だ」
深くだらしなく腰掛けていた姿勢を正す。正しすぎて何故か椅子の上に正座してしまった。だっていきなり名指しされたらビビるじゃん。心の準備ができてからにしていただきたい。
しかし、相変わらず死んだ魚のような目をした男だな、こいつは。まあこいつは精神的にもちょっとアレな感じがあるし、目が死んでなきゃやってらんないんだろう。可哀想とは思わないけどな。現実は非情である。
「な、何のようでございましょうか……」
「ほら」
ずい、とデスク越しに突き出されたのは、先程からガサガサと音を出していた白い買い物袋だ。いや、だから何も頼んでねえって。こいつはたまに冗談を冗談と受け取れないときがあるから困る。悪い奴じゃないんだが……やっぱりどこかおかしいんだよなぁ。普通でないのは確かだ。
「……中には爆発物なんて入ってないし、生物でもないぞ」
「おいトラウマを呼び起こすな」
恐る恐る手を伸ばす俺にしびれを切らしたのか、ノアは呆れた顔で"忠告"をした。
丁重に袋を受け取る。……思ったより小さいな。慎重に中身を覗き込む――。
「――あ、これ」
それが見知ったパッケージだとわかった瞬間、俺はそれを慌てて取り出した。
「さっき散々喚いていただろ」
「マジか……」
それは俺の悩みをズバっと爽快に解決させる魔法のアイテムだった。……長い……長い、USBケーブルだ……! 何故だかドナウ川より長く思えるぞ! あれ、ドナウ川だったか。……モルダウだったか?
しかし前述したこいつの短所がまさか長所に早変わりするとは。バカにできないな、短所も。俺に短所なんて無いからそれについて考えこむ必要もないけどな! HAHAHA。死にてぇ。
「ノア、俺と契約して奴隷になってくれ」
「……何を言っているんだお前は」
俺が出来る最大限の真面目な顔で宣言したのに、露骨に嫌な顔をされた。さすがにストレートすぎたか……そもそもこいつは元ネタ自体知らないよな……反省。三秒間だけ。
「そもそも、元から契約関係だろう」
……あー、……あー……そうだったっけ? まあこの男がそう言うんならそうなんだろう、多分。
ええ、でもそれって言外に"契約関係でもなかったらお前と会話なぞするか"って主張してるようで何か傷つく。俺のメンタルは豆腐の角ぶつけたら粉々に砕け散るぐらい脆いんです。
「……なんだ、それでも短いのか?」
案外こいつは感情が顔に出やすい。そもそもノアはあまり嘘を吐かないから、表情に注目する必要も無いんだけど。仕事柄、つい癖でな。
「いや、すっげぇ長いよ。モルダウぐらい」
ノアの申し訳なさそうな表情に慌てて言い繕えば、
「モルダウ……?」
今度は怪訝そうな顔だ。げ、やっぱりモルダウじゃなかったか。
ふんふふんふふんふふーん、と綾が呑気に鼻歌を歌う。元通りソファに座って、携帯を眺めながら。買い物袋の中身が自分の興味外であったことに気付いてすぐ戻ったのだろう。現金な奴め。逆を言えば、褒美を用意すればある程度は真面目に働いてくれる。……将来は扱いやすい良い手駒になるだろうか。願わくばそうならんことを。心の中で十字を切る。
上上下下左右左右。
……やりにくいな、これ。
ロイ(=語り手)はいい加減な人物なので地の文ももちろんいい加減。
オタク気味なので結構そちらの用語も飛び交う。
人を選ぶ一人称である
けどなにかと文字数を稼げるのでいい加減な作者としてはこいつが主人公の方が良かったです